第11話「雨の日」
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進化してから、二週間が経った。
レベルは5まで上がった。順調だ。
その日、ダンジョンに異変が起きた。
「……なにこれ」
天井から、大量の水が降ってきていた。
雨——いや、違う。ここはダンジョンの中だ。雨が降るはずがない。
でも、現実として、水が降っている。
「地上で雨が降ってるのか……?」
たぶん、そうだ。地上の雨水が、どこかから染み込んできているんだろう。
ダンジョンの構造が、外と繋がっている証拠だ。
「ってことは、外に出る道がある……?」
興味深い情報だ。でも、今は——
「狩りができない」
水が降っていると、飛びにくい。翅が濡れると、動きが鈍くなる。
獲物の虫たちも、どこかに隠れてしまっている。
「仕方ない、今日は休もう」
私は隠れ家に戻り、水を避けて丸くなった。
やることがない。
暇だ。
「……」
こういう時間が、一番辛い。
何もすることがないと、考えてしまう。余計なことを。
前世のこと。家族のこと。クラスメイトのこと。
「みんな、どうしてるのかな」
あの光で、教室全体が包まれた。私だけじゃない。クラスメイト全員が巻き込まれたはずだ。
私が蠅に転生したなら、他のみんなは——
「人間に転生してたりして」
あり得る話だ。
私だけが蠅で、他のみんなは人間。勇者とか、魔法使いとか、そういうのに。
「だとしたら、不公平すぎない……?」
でも、世の中なんてそんなものか。
前世だって、不公平だらけだった。生まれた家が違うだけで、人生が全然違う。才能があるかないかで、将来が決まる。
「平等なんて、幻想よね」
諦めの境地。
でも、だからといって、腐るつもりはない。
「私は私の道を行く」
蠅として生まれたなら、蠅として這い上がる。
他の誰かと比べても、意味がない。
「……それにしても、暇」
水の音だけが、洞窟に響いている。
ぽたぽた。ぽたぽた。
「眠れないな……」
体は休めているけど、意識は冴えている。
何か、考え事をしよう。
「今後の方針、か」
レベルは5。進化してから、順調に上がっている。
このペースなら、あと一ヶ月くらいでレベル10に届くかもしれない。そうすれば、また進化できる——かもしれない。
「次の進化は、何になるんだろう」
スモールポイズンフライの次。
ポイズンフライ? 「スモール」が取れる?
「楽しみだな」
もっと強くなりたい。もっと大きくなりたい。
今の私は、まだ小さい。上層の魔物にすら、勝てない相手が多い。
「いつか、このダンジョンを制覇してやる」
大きな目標。
でも、目標がないと、生きる意味を見失いそうになる。
「まずは、上層の制覇から」
一歩一歩。着実に。
水の音を聞きながら、私はそんなことを考えていた。
どれくらい経っただろう。
水の量が、少なくなってきた。
「止んできた……?」
天井から落ちる水滴が、減っている。
地上の雨が、止んだのかもしれない。
「よし」
私は隠れ家から這い出した。
まだ少し水が滴っているけど、飛べないほどじゃない。
「狩り、再開」
南側の空洞に向かう。
雨のせいで、虫たちも飢えているはずだ。隠れ場所から出てきているかもしれない。
空洞に着くと、予想通りだった。
いつもより、虫の数が多い。ナメクジやヤスデが、あちこちを這い回っている。
「大漁の予感」
私は狩りを始めた。
一匹、二匹、三匹——
次々と仕留めていく。
《経験値を獲得しました》
《経験値を獲得しました》
「いいペース」
雨上がりは、狩りに最適らしい。覚えておこう。
《経験値を獲得しました》
《レベルが6になりました》
「よし」
今日だけでレベルが一つ上がった。
「雨の日も、悪くないかも」
最初は憂鬱だったけど、結果的には良い一日になった。
「帰ろう」
獲物を十分に食べて、私は隠れ家に戻った。
明日も、いい狩りができますように。
そう願いながら、私は眠りについた。
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