第10話「新しい力」
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進化してから、一週間が経った。
新しい体は、想像以上に快適だった。
「速い……」
飛ぶ速度が、前とは段違いだ。
素早さ30。進化前の倍以上。
天井から獲物に急降下するとき、風を切る感覚が全然違う。
「それに、毒も強くなってる」
腐食毒の効きが、明らかに良くなった。
進化前は、小さな虫を仕留めるのに数秒かかっていた。今は、一瞬で動きを止められる。
「試してみるか」
私は、少し大きめの獲物を探した。
いた。
ヤスデ。私の三倍くらいのサイズ。進化前なら、絶対に手を出さなかった相手。
「いけるかな……」
不安はある。でも、試さないと分からない。
私は天井から急降下し、ヤスデの頭に取りついた。
口吻を突き刺す。腐食毒を注入する。
ヤスデが暴れる。体をくねらせて、振り落とそうとする。
「落ちない……!」
必死にしがみつく。
毒よ、効け。早く効け——
三秒。五秒。十秒。
ヤスデの動きが、鈍くなってきた。
「効いてる……!」
二十秒後。
ヤスデは、完全に動きを止めた。
《経験値を獲得しました》
「やった……!」
進化前の三倍のサイズの獲物を、仕留められた。
「これなら、もっと大きいのも狩れるかも」
可能性が、広がった。
私は調子に乗って、次の獲物を探した。
大きなダンゴムシ。私の四倍くらい。
「いってみよう」
急降下。頭に取りつく。腐食毒を注入。
ダンゴムシが丸まろうとする。
「させない……!」
毒を、もっと流し込む。
ダンゴムシの動きが止まった。丸まりきる前に、絶命した。
《経験値を獲得しました》
「よし……!」
四倍サイズも、いけた。
「どこまで通用するかな」
私は、さらに大きな獲物を探した。
いた。
芋虫。私の五倍くらいのサイズ。
以前、毒でやられた毛虫とは違う種類だ。体表に毛はない。普通の芋虫。
「よし」
急降下。取りつく。腐食毒を——
「っ!?」
突然、芋虫が激しく暴れた。
振り落とされる。地面に叩きつけられる。
「いた……っ」
HP:35/35 → 30/35
芋虫がこちらに向かってくる。遅いけど、確実に。
「逃げ——」
飛び上がろうとした瞬間、芋虫が体を跳ねさせた。
想像以上の跳躍力。
「うわっ!」
掠めた。体の一部を噛まれた。
HP:30/35 → 22/35
「くそ……!」
私は必死で天井に逃げた。
芋虫は追ってこない。地上をのろのろと這っている。
「……危なかった」
また、調子に乗りすぎた。
五倍サイズは、まだ早かったらしい。毒が効く前に、振り落とされた。
「限界は、四倍くらいか……」
覚えておこう。
それ以上の相手には、手を出さない。
「学習、学習……」
私は自分に言い聞かせた。
進化して強くなった。でも、無敵になったわけじゃない。
油断したら、死ぬ。それは、変わらない。
「慎重に、確実に」
その言葉を胸に刻む。
隠れ家に戻り、傷を癒すことにした。
HPは自然回復する。時間をかければ、元に戻る。
「今日は休もう」
天井の窪みで、体を丸める。
「でも、収穫はあった」
進化した体の限界が、少し分かった。
四倍サイズまでなら、狩れる。五倍以上は、まだ無理。
「レベルを上げれば、もっと強くなれるはず」
今はレベル1だ。進化したばかり。
レベルを上げていけば、ステータスも上がる。そうすれば、もっと大きな獲物も——
「焦らない」
一歩一歩、着実に。
それが、私の生き方だ。
「明日も、頑張ろう」
私は、目を閉じ——閉じられないけど、意識を落とした。
進化しても、孤独は変わらない。
話し相手は、いない。
でも、強くなっている。確実に。
それだけが、今の私の希望だった。
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