第6話「狩る者への第一歩」


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初めて殺した日から、三日が経った。


私は、狩りに挑戦していた。


「……よし、あいつにしよう」


天井から、獲物を見下ろす。


小さな芋虫。私と同じくらいのサイズ。動きは遅い。


これなら、いける。


私は息を殺し、ゆっくりと近づいた。


芋虫は気づいていない。のろのろと、壁を這っている。


距離を詰める。もう少し。もう少し——


今だ。


私は飛びかかり、芋虫の背中に取りついた。


「ギィッ!?」


芋虫が暴れる。体をくねらせて、振り落とそうとする。


でも、私は離さない。


口吻を突き刺す。消化液を流し込む。


「死ね……!」


芋虫の動きが鈍くなる。


そして——止まった。


《経験値を獲得しました》


「よし……!」


成功だ。二匹目の獲物。


私は芋虫の死体を食べながら、ほくそ笑んだ。


「やればできるじゃん、私」


この三日間で分かったことがある。


私でも、狩れる相手がいる。


条件は三つ。


一、私と同じか、それより小さいサイズ。


二、動きが遅い。


三、殻や外皮が硬くない。


この条件を満たす相手なら、私の消化液で殺せる。


芋虫。小さなナメクジ。弱った虫。


そういう相手を狙えばいい。


「弱い者いじめ? 上等よ」


生き残るためなら、何でもする。


プライドなんて、とっくに捨てた。


食事を終え、私は次の獲物を探し始めた。


上層をうろうろと飛び回る。


天井に張り付きながら、下を観察する。


「あれは……駄目だな」


甲虫を見つけた。でも、殻が硬そう。私の消化液じゃ溶かせない。


「あっちは……論外」


ネズミの魔物。サイズが違いすぎる。瞬殺される。


「あ、あれ」


小さな影を見つけた。


ダンゴムシ。私より少し小さい。動きも遅い。


でも——


「……丸まられたら、厄介かも」


ダンゴムシは、危険を感じると丸くなる。あの状態になったら、消化液を突き刺せない。


「一撃で仕留めないと駄目か」


考える。どうやって攻撃するか。


急所を狙えばいい。丸まる前に、致命傷を与える。


「頭、かな」


私は位置を調整し、ダンゴムシの真上に移動した。


真上から急降下して、頭に消化液を叩き込む。


それしかない。


「……いくよ」


深呼吸——できないけど、気持ちを落ち着ける。


狙いを定める。


今だ。


急降下。


ダンゴムシの頭に着地し、口吻を突き刺す。


「——っ!」


ダンゴムシが反応した。丸まろうとする。


でも、遅い。


消化液が、頭部に流れ込む。


「ギ……」


ダンゴムシの動きが止まった。


丸まりかけた状態で、絶命している。


《経験値を獲得しました》


「よっしゃ……!」


三匹目。


上手くいった。作戦通りだ。


「頭を使えば、やれるじゃん」


私は少し興奮していた。


狩りが、楽しい。


死体を漁っていた頃とは違う。自分で考えて、自分で動いて、自分で仕留める。


達成感がある。


「……調子に乗るな」


自分を戒める。


今日上手くいったのは、相手が弱かったから。運が良かったから。


強い相手には、まだ勝てない。油断したら死ぬ。


「慎重に、確実に」


それが、私の狩りのルール。


勝てる相手だけを狙う。無理はしない。


地味だけど、確実な方法。


私は獲物を食べ終え、隠れ家に戻った。


「今日の成果、芋虫一匹、ダンゴムシ一匹」


悪くない。死体漁りだけの頃より、経験値の溜まりが早い。


「この調子で続ければ……」


もっと強くなれる。


もっとレベルが上がる。


もっと大きな獲物を狩れるようになる。


「……進化も、近いかも」


ステータスを確認する。


名前:なし

種族:スモールレッサーフライ

レベル:5

HP:15/15

MP:8/8

攻撃力:5

防御力:3

素早さ:22

スキル:飛行Lv2、複眼Lv3、屍食Lv3、危機感知Lv2、消化液Lv2


「レベル5、か」


最初はレベル1だった。攻撃力2、防御力1のゴミステータス。


今は攻撃力5、防御力3。まだ弱いけど、確実に成長している。


「スモールレッサーフライ……」


この種族名が変わる時が、進化する時だろう。


いつになるか分からない。でも、その日は必ず来る。


「待ってなさいよ」


私は、天井の隠れ家で体を丸めた。


明日も狩りをしよう。


少しずつ、少しずつ、強くなっていこう。


焦らない。でも、止まらない。


それが、私の生き方だ。


「おやすみ、私」


誰もいない隠れ家で、私は独り言を呟いた。


寂しいけど、これが日常。


いつか、この孤独から抜け出せる日が来るのだろうか。


分からない。


でも、今は——生きることだけ、考えよう。


私は、眠りに落ちた。

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