【お題フェス11⑤手】黄金の手
蒼河颯人
黄金の手
昔々あるところに、一人の貧しい木こりがいた。
彼は村にある木を切って薪として売って、生計を立てていた。
しかし折角得た収入を、親を亡くしてひもじい思いをしている子供や、病気で苦しんでいる者に殆んど分け与えてしまうため、彼の生活は楽になることはなかった。
彼は、村一番のお人好しで有名だった。
そんなある日、木こりが木を切りに森へと向かっていると、途中で生き倒れている年寄りが一人いた。その老人は
「水じゃ……水を……水を恵んで下され……」
と、震える声で木こりに縋り付いてきた。ぼろ切れのような袖からのぞく手は常にぶるぶると震えており、振り払うにはあまりにも哀れな風貌であった。
「ちょっと待って下さい。おじいさん。お水なら、ありますから」
木こりは腰に結び付けていた、水筒用の袋のひもをほどいて外した。彼はその年寄りを助け起こしつつ、手を添えてその水をゆっくりと飲ませてやった。その老人は
「ありがたや、ありがたや……」
と、目に涙を浮かべ、その水をうまそうに、たらふく飲んだ。
一息ついた後、その年寄りが突然しっかりと立ち上がり「そこな親切なお方。お陰様で助かり申した。是非ともお礼をさせて頂きたい」と申すので、木こりは「礼には及びません」と断ったものの、「そこを何とか」と押し切られ、しまいには「分かりました」と承諾せざるを得なかった。
「そこな親切なお方、今からなんでも望みを叶える魔法をかけて進ぜよう。その手で触るものは、全て望むものに変わるであろう。不要となれば、いつでもこの爺をお呼び下されい……」
年寄りはそう言い残すと、あっという間に姿を消してしまった。
その場に一人残された木こりは唖然としていたが、腹のなる音を聞いて、漸く自分のお腹が空いていたことを思い出した。そう言えば、家には食べるパン一つなく、朝から何も食べていなかったのだ。
木こりが傍にある岩を試しに触ってみると、あっという間に、ほっかほかと湯気の立つ、焼きたてのパンに姿を変えた。
びっくりした木こりはよろけてしまい、立っていた木に捕まってみたところ、今度はじゅうじゅうと、肉汁の滴り落ちる牛の丸焼きとなってしまった。
恐る恐るそれぞれ手で千切って食べてみると、それらは頬の落ちるような旨さだった。パンなんて、中身は真っ白のふわふわで、いつも食べている黒っぽいパンとは雲泥の差だ。
肉は、口に含むとあっという間にとろけてしまいそうな位に柔らかく、生まれて初めて味わう極上の旨さだった。これを独り占めするなんて罰当たりだと思ったその木こりは、村人達を呼び寄せて、みんなで平等に分けあいこした。
しかし、その木こりは「これはこのままだと普段の生活に支障をきたす。あのご老人からのお礼は充分どころか、一生分もらってしまった。これ以上は良くないから、魔法を解いてもらおう」と思い、早くもその老人を呼び出し、元の手に戻してもらったそうだ。
やがて、その噂を聞いたその村一の金持ちが、木こりに聞いた場所に出かけてみると、一人の年寄りが生き倒れているのを見掛けた。
その金持ちは、その老人を無理やり起こし、「水なんかよりもっと美味しいぶどう酒はいらんかね」と尋ねた。その年寄りは「いいや。いらん」と首を横に振った。
すると、その金持ちは「じじい。折角この村に来たのなら、名物くらいは飲んだほうが良い。人の親切を無にしない方が身のためだ」と、強気に出た。その年寄りは渋々、押しつけられたぶどう酒の入った器を我慢して飲むしかなかった。
「……まぁ、確かにこれは名産じゃのう。折角頂いたから、お前さんにも魔法をかけて進ぜよう。その手で触るものは、全て黄金に変わるであろう」
年寄りは金持ちにそう言い残すと、あっという間に姿を消してしまった。
喜び勇んだその金持ちは、周りの木や岩、土、ありとあらゆる場所を触ってみた。すると、あの老人が言った通り、金持ちが触った場所全てが全て黄金と化したではないか。手ですくった川の水でさえも黄金になるのだから、驚きである。
「これだけ黄金があれば、働かなくても食っていける!」
金持ちは喜ぶあまり、つい自分自身を触ってしまった。
すると、その金持ち自身が何と黄金の彫像になってしまった。
それ以降、この謎の年寄りがこの地に現れることはなかったため、この一帯は常に黄金色のままとなってしまった。そこは「黄金地帯」と呼ばれ、後世この村で有名な観光地の一つとなったらしい。
──完──
【お題フェス11⑤手】黄金の手 蒼河颯人 @hayato_sm
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