〜番外編〜

「放課後の教室で」

三年一組には、今も奇妙な噂が残っている。放課後の誰もいない教室で、二人分の気配がするという話だ。

椅子が鳴る。黒板に白い粉の指の跡が残る。翌朝には、なぜか消えている。二ヶ月前、同時にいなくなった二人がいた。席は隣同士だった。誰かが言った。

『あの二人は、まだ教室にいる。』

それ以上を確かめた者はいない。




「放課後の校舎で踊る二つの影」

夜の校舎は、昼間よりもずっと広く感じる。文化祭準備で残っていた生徒が、旧音楽室の前を通りかかったときのことだった。真っ暗なはずの廊下の奥から、軽い靴音が二つ、重なって聞こえた。最初は誰かの練習だと思ったらしい。だって、そこには確かに二つの影があったから。一人は細身で背が高い。もう一人は少し小柄で肩が触れそうなほど近い。影は向かい合い、手を取って、ゆっくり回る。音楽はない。それでも、ステップだけは確かだった。影が回るたび、カーテンが風もないのにふわりと揺れる。

『優斗...もう、忘れられてしまいそうで怖かったよ』

『.....ばか。忘れるわけねぇだろ。迎えに来ただけだ。』

声が聞こえた気がして、生徒は振り返る。誰もいない。視線を戻すと影の片方が薄くなりかけていた。次の瞬間、もう片方が強く抱き寄せる。離さない、という動きだった。影は重なり境目が分からなくなる。ギィ、と音を立て、旧音楽室のドアが開いた。中には誰もいなかった。影も、足音も、声も、すべて消えていた。ただ窓辺にだけ、色褪せた白い花が一輪、置かれていた。花瓶はない。


その話をした生徒は

「怖い、っていうより........二人で行っちゃうみたいで」

それ以来、深夜の校舎では、誰もいない音楽室で二人分のステップが聞こえることがあるらしい。それが別れの踊りなのか、約束の続きなのか、それを決めるのは、見る者だけだ。

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死にたがりの僕は今日も誰かを見つめている @White928

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