第10章:奪うことなき嵐

圧倒的だった。


怒りも、殺気もない。

ただ、そこに“在る”。


嵐なのに、暴れない。

恐魚なのに、襲わない。


俺は、何もできずに立ち尽くしていた。


――違う。


正確には、できなかった。


体が、拒んでいた。

敵だと叫べと、頭は命じているのに。


嵐の中心に、意識が向いた。


そこには、眼があった。

巨大で、静かで、――どこか疲れたような。


「……なぁ」


声が、勝手に出た。


「俺の家族を殺したのは、お前か」


返事はない。

だが、海が揺れた。


否定でも肯定でもない。

ただの、事実の波。


管理人が、静かに言った。


「巻き込まれただけですよ、あなたも、彼も」


「……は?」


「星喰らいが呼び寄せたポータル。

 制御できなかった五体。

 帰れなくなった自由者たち」


頭が追いつかない。


「嵐は、奪うために来たわけじゃない」


管理人は、初めて嵐を見た。


「奪えなくなっただけです」


嵐が、ゆっくりと身を引いた。


何も、壊さずに。

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