第6話 襲撃と衝撃

「何事だ!?」


 新入隊員をしごいていたローゼアが全員を伏せさせる。

 ローゼアの問いの答えは、放送で流れてきた。


『大規模な空間共振反応を検知! 場所は――東門付近! 防壁の共振防止装置が無数のエラーを吐いています! このままでは――門が開きます!』


 放送が終わるや否や、赤が基地から飛び立った。



   ☆



 竜衛機関全体が、にわかに慌ただしくなっている。作業着の人々が右往左往し、あちらこちらで怒号が飛び交う。


 格納庫の中で、レオンは放送の内容を反芻していた。


(東門って――家の近くじゃねぇか。門が開く? アイツらが攻めてくるってことか……?)


 隊服の上から、首に下げたペンダントを握る。


(オレを乗せてくれる竜機ガンドラーがいねぇ。今のオレに何ができる……? クソッ、とにかくステラを守らねぇと!)


 ドラグレアから遅れること僅か、レオンも格納庫を飛び出した。


 基地から出る道すがら、警報に驚き暴れている鳥竜機バードラーが居たので飛び乗った。


「オラッ、走れっ!」


 手綱を引くと、怯えた様子でレオンに従う。

 最大走力を出させ、基地の壁を飛び越させる。


 基地の外は、人で溢れかえっていた。道を埋め尽くす人、人、人。ずっと郊外で暮らしていたレオンには想像もできないほどの人が、基地の正門に押し寄せていた。


「押さないで! 順番にシェルターにご案内します!」


 どこもかしこも怒号と悲鳴。

 基地周辺の道は、とても鳥竜機バードラーで通れそうになかった。


 そこまでを、空中で確認すると。

 レオンは鳥竜機バードラーに指示する。


「壁を走れ、屋根を伝え! とにかくオレを家に連れて行け!」


 飛び出した勢いのまま、滞空し、レオンたちは向かいの建物の屋上に飛び乗った。基地周辺の建築物に高度制限があったのが幸いした。

 段々と高くなっていく建物を飛び渡りながら、レオンは避難者でごった返す街を見渡してステラを探した。


(買い物に出てたら、家からは遠いけど――こんなパニック状態の中にいたらそっちの方が危険か!?)


 人が多すぎて、とても精査する余裕は無い。


(多分、この辺にはステラはいない。けど、もし家にいたら――っ!?)


 視点が高くなり、街の向こうが見渡せる。

 東門の方は、すでに戦闘が始まっていた。


(マジかよ――)


 東門に備わる竜機咆塔ガンドラーヘッド全六基が、すべて稼働して迎撃にあたっている。防壁のすぐ近くに、アンヘリアルがうじゃうじゃといるらしい。射角が明らかに低い。


 しかし、何より恐ろしいのは、敵が空を飛んでいることだった。


 東門の上空で、赤と白の光が幾度となくぶつかり合っている。

 ぶつかっては離れ、離れてはぶつかる。その合間に、光線が放たれている。躱された攻撃が、遠くの大地を抉っていた。


(待てよ、待ってくれ……)


 近づくにつれて、状況が悪化する。

 無数のアンヘリアルは、群れたそれぞれを足場とすることで、防壁を乗り越え始めていた。

 空の戦いは、ほぼ互角だった。赤のドラグレアはさすがの機動力で的確に回避し、着実に攻撃を当てている。一方の白き外敵はドラグレアよりずっと大きく、機動力は劣っている。無理やり高速で飛び回っているようだが、カーブが緩慢だ。しかし、火力は恐ろしく、一発でも貰えばドラグレアは墜とされるだろう。


 そんな中、西門から一つの光が飛び出してくる。

 一級隊員以上に与えられた大竜機――ヴァーンのブースターの光だ。


(もしかして、イザムさんか!?)


 大型の槍を構えた機体が、猛スピードで郊外の道を走っている。

 槍から放たれたビームが、防壁の上のアンヘリアルを薙ぎ払った。


「凄ぇ! これなら――」


 レオンが歯を剝き出しに笑ったのも束の間、新たな敵が姿を現す。

 それは――単体で防壁を超えていた。防壁の上から、肩が見えていた。規格外の巨体。レオンは、そいつに見覚えがあった。


「アイツ――ッ!?」


 八年前、レオンたちを襲った敵。

 レヴァテインの王城を破壊せしめた怨敵だった。


 レオンは目の色を変えて走る。鳥竜機バードラーを走らせる。


 超大型が、ゆっくりと、腕を振りかぶっている。


「――冗談だろ?」


 レオンたちはようやく街を抜けて地面に降り立った。戦闘の地響きが伝わってくるようだ。

 地面からでも、超大型はよく見えた。


「やめろやめろやめろやめろ――」


 超大型が、腕を振り抜く。




 防壁が、崩れた。




 壊れた防壁の破片が、無数の弾丸と化して辺りに降り注ぐ。それはレオンの元まで到達した。


「うおおお―――ッ!?」


 鳥竜機バードラーを巧みに操り、飛来する瓦礫を避けながらレオンは進む。


 ステラの待つ家まで、あと少しだ。



   ☆



「ステラ――ッ!」




「ステラ――――――ッッッッッッ!!!!!!!!!!!!」


 腹の底から声を出して呼ぶ。

 レオンとステラの暮らす家は、まだ原形を留めていた。中にいれば、ステラは無事なハズだ。


 鳥竜機バードラーから飛び降りると、乗っていた鳥竜機バードラーは街の方へ逃げ出した。


「アイツ――っ」


 文句を言うより、まずはステラだ。レオンは懸命に妹に呼び掛ける。


 家の中にいるハズだ。まだ無事なハズだと。


 その時、家の扉が開いた。


「お兄ちゃん!?」

「ステラ!」


 無事だった。

 心細かったのだろう、服の両袖は固く握り締められた跡で皺だらけだった。


 安堵の表情で妹が駆け寄ってくる。


 レオンも両手を広げて、妹を迎えに行く。


 約束は守ったぞ。

 お兄ちゃんは、ステラを置いて行ったりしないぞ――と。




 妹の姿を見て、レオンの意識はそこに集中した。




 次の瞬間、レオンの視界は赤色に染まっていた。

 衝撃で身体が浮く。何かが顔にべちゃりと飛び散って――レオンは地面を転がった。




「え?」




 わからない。


 一体、何が起きた?


 レオンは身体を起こす。


 目の前に、家は無かった。


 胴体の潰れたドラグレアが、横たわっていた。


 レオンは顔を覆う。顔に付着した何か、に手が触れる。


 赤かった。ドロドロしていた。そして、鉄臭かった。




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」




 血だ。

 誰の?

 決まってる。

 あそこには一人しかいなかった。




「ウソだっ、ステラ――ステラッ!」




 足がもつれる。

 うまく歩けなかった。


 起きたことは単純だ。ドラグレアに潰されたのだ。


 事態は最悪だった。ドラグレアは、レダイン連合城砦国家の保有する、最高戦力である。そのドラグレアが、胴体を潰されて撃墜された。それは、竜衛機関の敗北そのものだった。




 レオンの心が絶望に塗り潰される。




(もう――終わりだ)




 なのに、折れかけた心に、妹が呼び掛ける。


(『お兄ちゃん、何があっても、諦めないでね』)


「ステラ――、オレはっ……」




 どさり。


 レオンの背後で音がした。


 パラシュートで誰かが落ちてきたのだ。


「あァ……?」


 この状況で、空からパラシュートで落ちてくる人物など一人しかいない。


「――なんで、」




「なんでオマエが生きてんだよッ、――リナ・ロストロートォッ!!!???」

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