神絵師爆誕!

 カップ麺で飢えをしのいだ葦草は、若干朦朧としながらもSNSアカウントに描き上げたワタリガラスお姉様のイラストをアップロードした。

 だが、それで限界だった。

 葦草はそのリアクションが来るのをリアルタイムで観測することなく力尽き、ぐっすりと夢の世界へと意識を飛ばした。


 葦草が目を覚ましたのは、翌日の朝のことである。

 そういえば自分のアップしたイラストはどうなったかな、とSNS上の反応を確認してみると、通知の画面が既に「99+」となっていた。


「や、やた、バズってる!」


 しっかり通知の詳細を確認してみると、既に数えきれないほどのいいねとRTがされている。

 新規フォロワーも続々と流れ込んできている。

 生まれて初めて、アカウントのフォロワー数がフォロー数を上回った。


 イラストのツイートを確認する。

 いいねの数は二万五千件以上、RTの数も1万件以上。

 インプレッションに至っては四百万回という特大のエンゲージメントである。


「あっ、すごっ! コメントいっぱい来てる! てか絵師さんからのフォローも結構来てるじゃん! こりゃ対応しきれないな!?」


 生まれて初めての万バズに、葦草は慌てふためきつつも狂喜乱舞した。


「うへへ、こんなにもバズるのって嬉しいんだ……。ま、またお絵かきしちゃおっかな……」



 にへら、とだらしのない笑みを浮かべた葦草は承認欲求の赴くまま、今度は同じくトリ娘のキャラクターである「ルリカケス」ちゃんの作成に着手した。

 今回は間に適度な休憩時間を挟んで疲労をコントロールしながらの作業となったが、それでも十数時間の作成時間がかかった。

 完成したルリカケスちゃんのイラストを早速アップロードすると、こちらもたちまち万バズした。

 今度は、リアルタイムにその様子を観察することができた。

 次々に増えるいいねとRTの数字、そして時折差し込まれる称賛のコメント。


 と、その中に。

「あれ、オナカさん?」

 昔からの馴染みの相互フォロワー、底辺絵師仲間のオナカからコメントが来ている。


『葦草さん、なんか急に絵が上手くなったけどどうしたん? 神絵師の手でも食った?』


 知り合いの絵が急成長すれば、疑問に思うのも無理はない。

 それもまあ当然の反応だよな、と思いつつ、葦草はオナカに返事を返す。


「そうなんです! ジャポネットたかたんはガチでした! ただあれゲロマズいよ! 吐きそうだった!」


『そっか、やっぱり? 急だったからびっくりしちゃいました。自分も食べようかどうか、ちょっと迷ってますが、ちょっと値段が……。美味しくないのかぁ、そこはちょっと改善してほしいですねwww』


 そう、何を隠そうこの「神絵師の手」、割といいお値段……どころか、アホほど高い。

 具体的には「手」のモデルになっている絵師にもよるが、大体七十万円前後する。

 葦草ですら、月々の給料と数回分のボーナスを溜め込み、ようやく手に入れた品なのである。

 最も、「プロとして食っていけるレベルの技術がインスタントな手段で手に入る」という破格の技術の結晶なのだから、そのくらいの価格でも安いくらいとも言えるが。


「まぁ、値段相応にすごかったし、大枚叩いた甲斐はあるよ。ふへへ、今度はどの娘を描いちゃおうかなー」




 葦草はその後も承認欲求の赴くままに、トリ娘のキャラクターたちを描き続けた。

 ハクセキレイ、ハシビロコウ、アホウドリ、ルリビタキ、コウノトリなどなど。

 描くたびにイラストはバズり、フォロワーの数もうなぎ上りに増えていった。


 しかし、その一方で。


「……またか、しつこいな」


 葦草はつけられたコメントを通報し、その相手をブロックした。

 ランダムな文字列をそのまま使ったアカウント名から飛んできたのは、「どうせ神絵師の手を食っただけ、調子乗り過ぎ」、「お前ホントはド下手糞のくせに。こんなの本当の実力じゃない」といった、中傷コメントだった。

 イラストを描いてアップロードするたびにその数は増えており、葦草もいい加減にうんざりしてきていた。


 神絵師の手が販売されるようになって以降、「手を食ったユーザー」に対して否定的な見解を示す者も少なからずいた。

 こうした層には、「手を食うだけ、という簡単な手段で神絵師レベルの技術が身につくというのは、果たして本当に自分の実力と言えるのだろうか」、という疑念が根底にあるようだ。

 勿論、疑念は抱いていても殆どの者たちがそれを大っぴらに主張して「手を食ったユーザー」を叩くような真似はしなかったが、残念ながらここはクソの蟲毒たる「日本のインターネット」である。

 ゴミ溜めの住民たる一部の過激派アンチは、「叩く大義名分ができた」とばかりにこぞって棍棒を振り上げるようになったのである。


 はぁー、と疲労感が重く圧し掛かったような息が漏れる。

「何だかなぁ。折角バズっても、こいつらを呼び寄せちゃうんじゃ描く気なくすよなぁ。それに、一枚描くだけでもヘロヘロになるしなぁ……」


 葦草はベッドに倒れ込み、手を掲げてそれをじっと見つめた。


「何のために神絵師の手を食ってまでして絵を描いてんだか……。てか、叩かれるくらいならもう描く必要なくね? 疲れるし」




 葦草はそれっきり、イラストを描いてアップロードすることをやめてしまった。

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