【手】じっと手を見る

オカン🐷

第5話 じっと手を見る

 じっと手を見る。

 私は石川啄木か。

 哀しいかな生命線がやたらと短い。

 両手とも指先が痺れて床に落とした爪楊枝やチケットなどをよう拾わん。

 シャツのボタンも留められへんから最近はトレーナーばかりを着ている。

 

 整形外科で両手とも手根管症候群の手術をする必要があると言うので、まずは左手から手術をした。

 間を空けて右手も手術をするはずだったけど、術後の左手が改善された様子もなかったので診察からも遠ざかっていた。

 ところがある日、透析中に右手に激痛が走りベッドの上で暴れたいくらい。

 左手を手術してもらった整形外科に駆け込み手術の予約を取った。

 身勝手な女やで。


 全身麻酔から覚めた入院病棟のベッドの上で右手を見ると、術前に説明があった中指の添え木がない。中指が曲がったきりで痛くて伸ばされへんかってん。

 骨に巻き付いた肉を切り離す予定で、そのあと、暫く添え木を当てると言う話やった。

 

 回診に来られた先生の説名はこうだった。

 手術中、、麻酔が効いているので、試しに中指を伸ばしたら伸びたと言わはるねん。 

 人が麻酔で寝ている間に何してくれてるん。

 それで骨に肉が巻き付いて伸びなくなっているんやなく腱鞘炎だったということがわかった。

 腱鞘炎、そりゃ痛いはずやわ。



 家に帰ってから大変なのがお風呂。

 左手の手術のをしたときは傷口を濡らさんように肘まであるゴム手袋をして、口の回りをきっちりとテープで巻きつけて入った。そのときのもう片方の右手の手袋があるはずなのに見付からん。

「うちが洗ったる」

 と言う娘の言葉に甘えた。

 そやけど冬の事でシャンプーが終わる頃には二人とも風邪をひきそうになってん。

 バスタブは追い炊き機能がなくお湯を溜めて入るので定員1名と言う構造で次第に湯船につかることがなくなった。

 保温する機器もあったのやけど、人が買ったものは気前よく捨てる主人。

 また欲しければ買えばいい、それの機能もよくなっているだろうからと頓着しなかった。


 利き腕が使えないのは何て不自由なことか。

 

 高校の時、事故で片腕を失った義手の女子転校生がいた。

 昼食前に手を洗いに行くと、横長のコンクリートの洗い場に先客がいた。

 その女子の手をニューニューというあだ名の女子が洗ってあげていた。

 両手で包み込むように泡立てていた。

 わあ、ニューニューって優しいなあ。

 

 

 じっと手を見る。

 石川啄木ちゃうって。

 手首から掌の中央に真直ぐな切り傷が薄く残っている。

 惜しいことに生命線と隣り合っていて 生命線が伸びたということもなかった。

 



          【了】


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