第2話 天才、野望を持つ

 17歳になった少年は「天才」として世間に知られていた。


 国際科学コンクールで史上最年少の金賞を獲得し、その研究論文は世界中の科学者たちを驚愕させた。


 量子エネルギー理論、四次元空間接続理論、物質変換理論――それは従来の科学を根底から覆す革新的な理論だった。


 複数の大学から特別研究員としてのオファーが殺到し、企業からは破格の報酬を提示されたスカウトが相次いだ。新聞は彼を「世紀の天才」「科学界の救世主」と称賛した。


 だが、彼の心には虚無感しかなかった。



「つまらない……」



 大学の研究室で1人、彼は呟いた。机の上には世界中から届いた賞賛の手紙が山積みになっている。だが彼はそれらに目もくれない。


 賞賛も名声も彼にとっては空虚なものだった。世界は彼の才能を認めた。だが――それがどうした? 彼が欲しかったのは称賛ではない。彼が求めていたのは、答えだ。


 7歳の時に抱いた疑問。それは10年経った今も、彼の心を支配し続けていた。


 正義とは何か。悪とは何か。


 世界は相変わらず「正義」を掲げる者たちが支配している。政府、軍隊、法律、そして道徳。全ては「正しさ」という名の下に人々を縛りつけている。だが、それは本当に正しいのか? 誰がそれを決めたのか?


 彼は世界中の歴史書を読み漁った。哲学書も、宗教書も、全て目を通した。だが、どこにも答えはなかった。あるのは「正義は正しい」というトートロジーだけだ。



「なぜ正義が世界を支配するのか?」



 自問しながら彼は研究室の窓から夜の街を見下ろす。煌めく街灯の下で人々は「正しい」生活を送っている。法を守り、秩序を重んじ、正義を信じて。


 だが……もしその秩序を覆したら? もし悪が勝利を収めたら? 世界はどう変わるのだろうか?


 その疑問は、やがて1つの野望へと変わっていった。



「……私が証明してやろう。悪として正義を打倒し、世界を支配するのだ」



 彼は決意した。この世界の理を覆す。悪として正義という虚構を打ち砕く。そして証明する――悪も勝者になれるのだと。


 その夜、後に世界を震撼させることになる計画の、最初の一歩が踏み出された。彼は表向きの研究とは別の研究を開始した。


 世界を征服するための研究を。

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