第3話 急展開





セシリアの協力は断念せざるを得ず、仕方なく冒険者ギルドへ協力要請を出し、総力戦でどうにかすべて討伐することができた。


怪我人は多数出たが、奇跡的に死者は出なかった。




「ギルドマスター、協力感謝する」



「いえ、こちらとしても討伐せねば色々と被害が出たでしょうし、素材も手に入れることができたので喜んでいる者も多いのですよ」




ハンスと同じくらいの年のギルドマスターは、父である前辺境伯爵の頃からの付き合いで、レオンハルトもギルドに冒険者登録している。


10代の血気盛んな頃から何度も世話になっている為、レオンハルトが信頼する一人なのだ。




「怪我人の治癒も引き受けてくれたそうだな。本当に助かった」



「あー、そうだな。腕のいいのがたまたまいてな」




今回の討伐で怪我をした者たちを、ギルドにいた治癒魔法士が治療したと報告があった為、礼をしたいと口にすると珍しくギルドマスターの目が泳いでいる。




「?何か、あるのか?」



「あー、まあ、本人は特に礼とかは望んでなくてな」




苦笑いを浮かべながら言いづらそうにしている為、何か複雑な理由でもあるのだろうと、それ以上深く突っ込むことはなかった。



その後はギルドマスターと少し雑談をし、レオンハルトはギルドをあとにした。




その後ろ姿を、何とも言えない苦い顔をしながら見送られていることには気付かなかった。





⸺⸺⸺





後始末が終わり、ようやく落ち着いた頃。


討伐前に話したセシリアのことを思い出した。



ハンスの言うとおり、レオンハルトの言動は確かに褒められたものではない。


ここまで蔑ろにしておいて、セシリアが許してくれるわけがないことも理解している。



恐らく、セシリアは離縁を望んでいるであろう。



そうなれば、希望通りにレオンハルト有責で離縁するしかないのだ。


自分で蒔いた種である為、仕方がないだろう。



そう思いながら、深い溜め息をつくと執務室のドアをノックする音が聞こえ、返事をするとハンスが入ってきた。




「旦那様。先触れがあり、これから王太子殿下とアシュフォード小公爵様がお見えになるそうです」



「ハインリヒと小公爵が?」




突然の来訪の知らせに首をかしげる。


小公爵も一緒であれば、セシリアに用があるのだろうか?



何となく、嫌な予感がする…



そうして、ハインリヒ王太子とアシュフォード小公爵がトレヴァント辺境伯家へ到着した。







「久しぶりだな、レオンハルト」



「王太子殿下におかれましては、ご機嫌麗しく」




レオンハルトは跪き、頭を少し下げながら挨拶の言葉を述べた。


ハインリヒに促され、ソファへ座ると向かい側に座っているアシュフォード小公爵の顔を見た。




「初めまして、トレヴァント辺境伯閣下、アシュフォード公爵家、嫡男のアーサー・アシュフォードと申します」




アーサーの挨拶に「ああ」と一言答えると、ハインリヒは呆れた表情をし、アーサーは苦笑いを浮かべた。



アーサーはセシリアと同じプラチナブロンドだが、少しピンクがかっており、瞳は同じ翡翠色だった。


しかし、セシリアとは違い表情が豊かに見える。




「…妹とは違うのだな」




何となく漏らした言葉だったが、あからさまにハインリヒとアーサーはビクッと体を反応させた。



…いったい、なんだ?


二人が醸し出している雰囲気からは、どことなく気まずそうな空気を感じる。

 



「…実は、今日、私たちはセシリアに謝罪しに来たんだ…」




意を決したようにハインリヒが口火を切った。


アーサーを見れば、膝の上で両手を組み少し俯いているが、その表情はどこか苦しそうである。




「…実は、セシリアは冤罪だったことが、分かったんだ…」



「…それは、どういうことだ?」


 


膝の上にある拳をギュッと強く握り締めながら、ハインリヒは話し始めた。

 



王立学院の卒業式でセシリアに婚約破棄を言い渡し、トレヴァント辺境伯へ追いやった後、ハインリヒは正式にアーサーとセシリアの妹、クララ・アシュフォード公爵令嬢と婚約を交わしたそうだ。


 


「半年前、クララと婚約し、王城で王太子妃教育を始めたのだが、クララは淑女教育すらまともに身についていなかったことが発覚したのだ」




ハインリヒは苦い顔で絞り出すような声で言った。


 


「は?公爵令嬢だぞ?クララ嬢には教師がついていなかったのか?」

 


「いえ、つけていました。私やセシリアと同じ教師です。最初の頃はクララも真面目に淑女教育を受けていたらしいのですが、その内、セシリアに冷たくされたと泣き始めたせいで、ほぼ授業が出来ていなかったそうです」


 

「…妃教育の教師たちに聞けば、セシリアと比べるまでもないほどの出来の悪さだそうだ…正直なところ、王城で働く下位貴族のほうが遥かに優秀だろう」




レオンハルトはその衝撃的な話の内容に言葉を失い、ハインリヒとアーサーは肩を落とし、彼らの表情には後悔の色が濃く滲み出ていた。




「教師たちの報告を受け、私とアーサーはクララを問い詰めた。最初はごまかそうとしたり、泣いたりもしたが、強く言うと、すぐに真実を口にした…クララの話は全部…全部、嘘だったと…」



「セシリアには一度もいじめられたことはないと…そう、はっきりと言いました…」




真実を知った時の彼らの衝撃はどれほどのものだったのだろうか?




「つまり、セシリアの周りはクララ嬢に欺かれていた、ということか…」




レオンハルトの低い呟きは、部屋の中で重く響いた。

 


果たして、たかが一人の令嬢に、大人たちを含む周囲のすべてが見事に欺かれていたなどと、誰が想像できただろうか?



 


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