第4話 過去
そこからは、アーサーが苦しそうに話し始めた。
セシリアと2歳違いの妹、クララ・アシュフォードは幼い頃、だれから見ても、『わがままな子』だった。
セシリアの物を何でも欲しがり、それが叶わなければ泣き叫ぶ。
両親もアーサーも何度も諭したが聞き入れず、屋敷中が困っていた。
そんなある日、セシリアとハインリヒの婚約が決まったのだ。
アーサーはその頃、すでにハインリヒの側近候補として傍にいることが多く、その繋がりでセシリアも何度か顔を合わせたことがあった。
正式に婚約すると定期交流が始まり、初めてハインリヒがアシュフォード公爵家に訪れることになった。
「初めまして、クララ嬢。私はセシリアの婚約者のハインリヒ・レイヴンクレストだよ。よろしくね」
ハインリヒはもう一人妹がいることは聞いていたが、クララと顔を合わせたのは、これが初めてだった。
その頃のクララは、家庭教師から逃げ回り、マナーが身についていない為、両親は7歳になっても他家や王城に連れて行くことはなかった。
初めて屋敷の者以外の人と出会い、しかも、王子と聞いたクララはハインリヒに一目惚れした。
「お姉様!私に王子様をちょうだい!」
「ハインリヒ殿下は物ではないわ。それに国王様が決めたのだから無理よ」
ハインリヒが帰城した後、クララはセシリアにハインリヒの婚約者の座を強請ったが、そんなことができるはずもなく、あっさりと正論で返され、思い通りにならないことで泣き喚いた。
しかし、その数日後からクララの様子が突然、変わったのだ。
それまでサボっていた淑女教育を逃げ出さずにきちんと受け、まじめに勉強もするようになった。
ようやく、クララが分かってくれたと家族はみんな喜んだ。
そして、それが始まったのは半年くらい経った頃だった。
「お兄様、お姉様が私を怒るの」
そう泣きながら、アーサーや両親に訴えるようになったのだ。
話を聞けば、クララの怒られたというのは注意の範疇だったが、セシリアも少し厳しい言い方だった為、過敏に受け取ったのかもしれない。
そう思い、その度にセシリアに『もう少し、優しく諭してあげてほしい』とお願いするようになった。
しかし、クララが訴える被害はどんどんエスカレートしていき、同時に二人の仲もどんどん悪化していった。
「…最初の頃は、一つ一つは大した内容ではなかったんです。『セシリアに酷いことを言われた』という抽象的な内容だったのが、次第に『大切なネックレスを壊された』や『足をかけられて転ばされた』など、どんどんエスカレートし、具体的な被害を訴えてくるようになりました…」
そして、クララはその頃にはハインリヒと親しくなっており、その際に『姉から冷たくされている』と涙ながらに相談をしていた。
最初は、ハインリヒも真剣に受け取っていたわけではなかった。
ハインリヒも『セシリアは、少しだけ言葉が冷たく感じられることもあるから』と慰めていたのだが、アーサーからも『屋敷でクララがセシリアから冷たくされて泣いている』と困ったように話すのを聞いていた。
「セシリア、クララ嬢のことだけど…もう少し、優しく接してあげたらどうだ?」
「…どういうことでしょうか?」
「いや、クララ嬢からセシリアに冷たくされていると相談されてね。セシリアは誤解されやすいから、少し意識して優しく接してあげたらどうかな?アーサーも二人を心配しているよ」
「…さようですか。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。殿下とお兄様にご心配をおかけしないように努めます」
セシリアが理解を示してくれたことにほっとし、話はそこで終わった。
しかし、今思い返せば、その時のセシリアの表情が一瞬、抜け落ちたように見えた気がしたが、すぐにいつも通りに戻ったため、ハインリヒは気に留めていなかったそうだ。
これで状況が変わるのではないか?と思っていたが、結果として、むしろ悪化してしまった。
「定期交流のお茶会のたびに私も注意していたのだが、一向に変わらないセシリアに私も腹が立ち、壁を作ってしまった…そして、いつの間にかセシリアよりもクララとの交流が増えていたんだ」
「私が悪かったんです…毎日のようにクララが泣いていて…つい、殿下にそのことを話してしまったことで、セシリアと殿下の間にヒビを入れてしまいました…」
組んだ両手を強く握りしめ、うなだれたまま、アーサーは深い後悔を滲ませている。
王立学院へ入学した頃には、ハインリヒはセシリアに冷たい態度を取り、そして、クララが入学すると二人きりではなくとも、確実に共にいる時間が更に増えていた。
生徒たちの間でもハインリヒと不仲であることやクララをいじめているという噂、更には婚約者以外の異性と交流を深めているなどという噂が広がっていった。
それは、すべてクララが相談として話していた為に、信憑性が高いと判断されていた。
結果として、それが婚約破棄に繋がってしまった。
今思えば、セシリアは卒業までに王太子妃教育を終え、そのうえ学院の勉強や公務もあったため、クララにかまっている暇などなかった。
少し考え、セシリアの行動を確認すれば分かったことだったが、誰もそれをせずにクララの話や噂を信じて判断したために起こった出来事であった。
次の更新予定
なぜ、私に関係あるのかしら? シエル @hy418
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