戦端

 通信が、焼けた。

 ノイズと断末魔の混ざる声が、ヘルメット越しに木霊する。


『こっちに敵が——ぐあッ!』

『引け! 全員引けぇぇぇッ!』

『誰か! 医療班を——!』


 ユウマ・カザマは岩陰に身を伏せ、息を呑んだ。

 その先、赤土の地面に倒れ伏す仲間たち。

 装甲外骨格が砕け、金属の破片が風に散る。


 敵——あの異星の戦士たちは、迷いがなかった。

 淡い光を纏い、整然とした動きで調査隊を無力化していく。

 まるで“防衛行動”のように。


「ユウマ、退いて……!」

 レナの掠れた声が背後から聞こえた。

 血で汚れた手が、彼の袖を掴む。

「彼ら、こちらの攻撃を“誤認”している……! 撃たないで、お願い——」


 だが、その願いが届く前に。

 ユウマの上空を閃光がかすめ、爆風がすべてを呑み込んだ。


 時間をどれほど失ったのか分からない。

 気づけばユウマは、救助艇の中にいた。


 酸素マスクをつけた医療兵が彼を覗き込み、誰かが叫ぶ。

「生きてる! 奇跡だ……! あの地獄から戻った!」


 意識が薄れる中、ユウマの脳裏には一つの光景が焼きついていた。

 ——青白く輝く装甲。

 ——透き通るような、深海の瞳。

 それは怒りよりも、悲しみに似ていた。


 帰還後、基地アガルタは重苦しい沈黙に包まれた。

 調査隊三十二名中、生存者は五名。

 直接の原因は「暴発による誤射」。

 そして、それを“敵対行動”と見なした原住民側の反撃——。


 レナ博士は、医療棟で治療を受けながらも主張した。

「彼らは防衛行動を取っただけ。侵略の意図はなかった。まだ話せる可能性があるの……!」


 だが、軍上層部の判断は冷酷だった。


『現地勢力は交渉不能と判断。外宇宙開発の継続を最優先とし、限定的な反撃を許可する。』


 つまり——報復作戦だ。


 その夜、ユウマは管制区画の窓から惑星オルフェウスを見下ろしていた。

 あの海と大地の下で、誰かが生きている。

 彼らを殺すことが“人類の進歩”なのか?


「……また、繰り返すのかよ」


 誰に向けるでもなく呟く。

 戦争は終わったはずだった。

 だが、人類は別の形で、また戦場へと歩き出している。


 翌日、緊急会議。


「作戦名は——《オペレーション・ファーストコンタクト》。」

 司令官ハワード・グレンが言った。

 白髪の老軍人。その瞳に迷いはない。


「目的は防衛線の確立と、原住民による更なる報復の抑止。あくまで“防衛”だ。侵略ではない」

「侵略と防衛の境界なんて、誰が決めるんです?」

 ユウマの声が、会議室の空気を裂く。


 周囲の士官たちが一斉に視線を向ける。

 彼は続けた。


「俺たちは彼らを知らない。言語も、文化も、生態も——何も知らないまま、銃を向けるんですか?」

「……理想論だ、少尉」

 グレン司令は短く吐き捨てた。

「我々は科学者ではない。守るべきものがある。ただそれだけだ」


 会議は、それ以上の議論を許さなかった。


 作戦発動まで、あと四十八時間。

 ユウマは整備ハンガーで、旧式の外骨格レイヴン・フレームを整備していた。

 黒鉄の装甲、傷だらけの腕部、かつての戦争の遺物。


 整備士が声をかける。

「またお前が乗るのか? こいつ、もう博物館行きだぞ」

「いいさ。あいつと一緒に戦場を走った。……最後くらい、こいつでケリをつけたい」


 ユウマの瞳には、決意と迷いが同居していた。

 彼は戦うことしか知らない。だが、撃ちたくはない。

 その矛盾こそが、彼の生き様だった。


 夜。

 通信端末に、一通の未承認データが届いた。

 発信元は《レナ・ハルトマン博士》。


『ユウマ……まだ、彼らと話せる可能性がある。

 私は現地の電磁パターンから、“言語らしき周期信号”を解析した。

 もし伝達に成功すれば、戦わずに済むかもしれない。』


 ユウマは拳を握った。

「……間に合うのか」


『間に合わせる。

 ——お願い、撃たないで。今回は、あなたが鍵になる。』


 通信が途絶える。

 ユウマは静かにヘルメットを被った。


 惑星オルフェウスの夜が、ゆっくりと宇宙の闇に沈んでいく。

 そして、再び戦端が開かれようとしていた。


「人類は、また“侵略者”になるのかもしれない」

それでも、誰かが手を伸ばす限り——希望は、まだ消えない。

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次の更新予定

2026年1月14日 12:00
2026年1月15日 00:00

オペレーション・ファーストコンタクト 月天下の旅人 @gettenka

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