第2話 ダンネベルク騎士団長サイド


あの日、不覚にも雷に怯えた姿を晒してしまい慰められてから…。

ルッツ事務官を思うのを止められない。

こんな、私を可愛いと言い、見つめてくる瞳の熱に背筋が震えた。

どんな魔獣にだってこんなに身体が動かなくなった事はなかったのに。

抱きしめられた熱が、頬を撫でる指先が、忘れられない。

「団長?お疲れですか?またため息ついてますよ?」

ハッとして声の方を見れば、副長であるニルスが眉を下げて資料を渡してくる。

「いや、大丈夫だ。」

そう取り繕い資料に目を通す。予算案の督促?

「…ニルス?予算案は提出済みではなかったのか?」

「あー、実は、こないだのバフォメット討伐の出動で、出し忘れていたそうで…」

「なんだそれは!担当は誰だ!?」

「…ギュンターです。」

すぐに立ち上がり執務室から移動する。

今の時間なら食堂か!

食堂に入ると皆の動きが止まる。

「ウルリッヒ・フォン・ギュンター!」

「ヒッ!は、ハイ!!」

「仕事の確認不足、及びすぐに報告にこなかった罰として、反省文と今日の走り込みを10周追加だ。昼食後、私の執務室に未提出の書類を持ってくること!反省文は明日までに、良いな!」

「はい!申し訳ございませんでしたぁ!!」

「他の者達、昼食中に邪魔をした。」

そのまま踵を返して執務室に戻る。



「ギュンター!お前何忘れたんだよ?」

「…予算案、出すの忘れてたの、忘れてた…」

「おまっ!ソレ、やべぇヤツじゃん!」

「絶対嫌味攻撃受けるヤツじゃんか!」

「うわぁ、団長、可哀想…」

「バカ!飯食うより先に渡してこい!」



執務室に着く頃、ギュンターが息を荒げながら書類を渡しに来たので受け取る。

さっさと持って行ってしまおうと財政課を目指す。

対大型魔獣戦闘部隊 通称【黒騎士団】は一撃を受けるだけで被害が甚大な為、経費が多いので財務課からは睨まれてばかりだが、こればかりは仕方ない事だ。

ネチネチと嫌味を吐く目の前の男を見下ろす。

爵位を持ち出せば黙らせられるが、非があるのはこちらだ。文句くらいは、仕方ない、として受け入れるが…

「お話中、失礼致します。ダムロッシュ様。ご指示を受けていた資料でございます。そして、ライムント閣下よりお手紙をお預かり致しました。」

「むっ!?…ライムント閣下からだと!コホン!では、ダンネベルク団長!以後気をつけてくださいませ!では、失礼します。ルッツ!この予算案を確認して処理しておきたまえ!」

「畏まりました。」

恭しい礼をしたルッツ事務官と目が合う。

「団長。昼食は召し上がりましたか?」

「えっ?あ、いや、まだだ。」

「おや、それはいけません。ちゃんと食べないと!騎士は身体が資本ですよ?さ!お戻りください。」

やはり、介入してくれたのか。

「…助かった。礼をいう。」

「なんの事ですか?」

「…良ければ、昼食を一緒にどう、だろうか?」

眼鏡の奥の瞳が細められる。仕方ないなぁと言うような優しい目にドキッと心臓が跳ねた。

「では、お言葉に甘えて。」


私の執務室にルッツ事務官を招き、部屋に食事を運んでもらった。

「…先日といい、今日といい、助かった。」

「あの人の嫌味は長いので。貴方を見ていられるのは嬉しいのですが、嫌そうな顔は見たくないですから。」

「っ!」

 また顔が熱を持つ。

「…そんな顔、他の人の前でもしてしまうんですか?」

スルリと彼の指先が頬を撫でていき、肩が跳ねる。

「る、ルッツ、事務官?」

「はい?」

「か、顔が、近いっ!」

「寄せてますから。」

「っ〜!」


(サイド・事務官オリバー)

戸惑って揺れる瞳。赤く染まる頬。何かを言う為に開こうとしては言葉にならず震える唇。

あんなに逞しくて背も大きいのに、可愛いらしいと思ってしまう。

自分の情緒は彼に狂ったらしい。


手元には一通の返事が必要な手紙。

さて…どうしたものか。



討伐を終えて帰還した。

明日から数日休みだ。

出陣前に出した手紙はもう着いているはずだが。どうだろうか。

…郵便受けを開く。

入っていたたくさんの手紙を抱えて部屋で仕分けする。

「あった!」

ルッツ事務官の名前だ!

急いで封を開ける。

品の良い白地の箔押し便箋にオリーブ色のインクで書かれた美しい字の並び。

彼らしい字だ。

内容が中々頭に入らない。


討伐から帰還したら三日休みがもらえる。

その時に二人で会えないかと打診したのだが。

彼からの手紙には、手紙が貰えて嬉しい事、討伐への激励と気遣い、運良く二日目が休日予定だからその日なら大丈夫だと言う返事、会えるのが楽しみだという期待の言葉。

それらがとても優雅な言葉遣いで書かれていた。

流石、古参の宮廷貴族家だな。

私の実務的な手紙とは大違いだ。

…こんな文体で愛を囁かれたら夢みがちなご令嬢達はのぼせ上がるだろうな。

いや、彼からなら私もそうなってしまうんだろうが…。

『君に会えるなら夢でも嬉しい。二人で過ごせる日を待ち遠しく思う。』なんて言葉をあの真面目な顔で囁くんだろうか?それとも知らない顔があるんだろうか?…ああ、落ち着かない!とりあえず、さっさと報告書をまとめてしまおう!






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2026年1月14日 21:00
2026年1月14日 22:00
2026年1月15日 21:00

平凡な事務官は、騎士団長を甘やかしたい @96maggy

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