最終話 明日もまた、その重みを

 玉座の間。そこには、嵐が過ぎ去った後のような静寂と、むせ返るような湿気が漂っていた。

 高級な絨毯の上に、三つの影が折り重なっている。


「……はぁ、はぁ……。出し切った……」

「……ああ。もう、一滴も残っていない……」


 ゲイルとジュリアンは、天井を見上げながら荒い息をついていた。

 全身が汗で濡れそぼり、衣服は肌に張り付いている。

 そして、彼らの中心――正確にはゲイルの右腕とジュリアンの左腕の上に、女王エルザが脱力して横たわっていた。


 エルザが身じろぎするたびに、豊満な肉がだらしなく形を変え、二人の腕に絡みつく。

 もはや支えるという緊張感はない。

 あるのは、完全に蕩けきった肉体同士の、泥のような密着だけだ。


「……気持ちよかった、わ」


 エルザが、夢現の潤んだ瞳で呟く。その顔は紅潮し、乱れた髪が頬に張り付いている。

 

「あんなに……激しくされたの、初めて……。中の方まで、ジンジンしてる……」


 彼女の胸は、二人の腕を枕にするようにして、ぺたりと潰れていた。

 暴走時の張りは消え、今は驚くほど柔らかい液状に戻っている。

 ゲイルの二の腕に、だらりと垂れた乳房の側面が覆いかぶさる。

 ぬるりとした汗の感触。

 体温はまだ高く、触れている部分からじわじわと熱が伝わってくる。


「……光栄です、陛下。ですが、腰が……腰が砕けそうです」

「右手の感覚がありません……。まるで、マシュマロの中に腕を突っ込んでコンクリートで固められたような……」


 二人は限界だった。

 だが、この甘美な重しから抜け出す気力も体力もなかった。

 ただ、このまま肉の海に溺れていたい――そんな背徳的な多幸感が、三人を包み込んでいた。


 3日後。王宮医療棟。

 ゲイルとジュリアンは、並んでベッドに寝かされていた。

 右腕と左腕、それぞれがギプスで固められ、天井から吊るされている。

 診断名は『聖務執行に伴う重度筋疲労および軟部組織挫滅』。


「……暇だな」

「ああ。手が軽すぎて、逆に気持ち悪い」


 ジュリアンが空いている右手でリンゴを弄んでいる。


「このリンゴ、軽すぎる。重力への反逆精神が足りない」

「お前、完全に禁断症状が出ているぞ」


 その時、ドアが静かに開いた。


「……入っても、よろしくて?」


 女王エルザだ。

 しかし、その姿はいつもと違っていた。

 彼女の胸の前には、移動式の豪華な台座がセットされており、その上に巨大な双丘がどっしりと鎮座していたのだ。


 台座に乗せられた胸は、まるで鏡餅のように平たく広がり、その質量を誇示している。

 ドレスの上からでも分かる、圧倒的な据わりの良さ。


「へ、陛下! そのようなお姿で!」

「……だって、貴方たちがいないと、重くて歩けないのだもの」


 エルザは頬を染めて、二人のベッドの間に入ってきた。

 

「ドクターが作った『医療用・対魔力支持台メディカル・ブラ・ワゴン』よ。でもね……」


 彼女はため息をつく。


「これじゃダメなの。硬いのよ。冷たいし……。私の胸が、違うって泣いているの」


 エルザが身を乗り出す。

 台座の上で、32キロの脂肪が揺れる。


「見て。先端の色が悪くなっているでしょう? 貴方たちの手のひらの、あの熱さと湿り気がないと……血行が悪くなるみたい」


 見れば、確かに胸の張りがない。

 どこか寂しげに、しぼんでいるようにも見える(それでも規格外の大きさだが)。


「早く治して。……私の胸が、貴方たちの手形かたちを忘れてしまう前に」


 エルザは、吊るされたゲイルのギプスに、そっと自分の頬――そして胸の膨らみを押し当てた。

 石膏越しでも伝わる、圧倒的な弾力と温もり。

 ゲイルの右腕の神経が、ギプスの中でビクンと跳ねた。


「うおっ……! 刺激が強すぎます陛下! 骨が……喜びでくっつこうとしています!」

「僕の方にもお願いします! リハビリが必要です!」


 病室は、奇妙な熱気に包まれた。


 そして、一週間後。第三騎士控室。


「……よし。テーピング、完了」

「ハンドクリーム、塗布完了。湿度よし、摩擦係数よし」


 ゲイルとジュリアンは、以前よりも逞しくなった腕をさすりながら、鏡の前に立っていた。

 復帰初日。顔色は良い。目は、獲物を狙う獣のようにギラついている。


「行くか、ジュリアン。一週間溜まった分は、相当重いぞ」

「望むところだ、ゲイル。僕の左手は、もう渇ききっている。砂漠が水を求めるように、あの肉のオアシスを求めているんだ」


 寝室の扉を開けると、そこには待ちきれない様子で寝間着の胸元をはだけたエルザが立っていた。


「遅いわよ、二人とも」

 

 待ちきれなかった果実が、自らこぼれ落ちる。

 一週間、誰の手にも触れられず、魔力を溜め込み、熟成されきった至高の双丘。

 その白さは輝きを増し、血管は興奮で浮き上がり、先端は赤く充血して、今にも甘い蜜を滴らせそうだ。


「「装着ドッキング!!」」


 二人は飛び込んだ。

 スライディング土下座のような低い姿勢で、滑り込むように手を差し出す。

 重厚な着水音と共に、ゲイルの右手が、ジュリアンの左手が、飢えた肉の谷底へと深く突き刺さる。


「くぅッ……! これだ! この感触だ!」


 ゲイルが咆哮する。

 手のひら全体を包み込む、温かく、湿った、圧倒的な質量の抱擁。

 一週間のブランクなど一瞬で埋まる。掌の皮膚が、女王の肌と完全に同化していく。


「ああ……最高だ……。指が溶ける……。見てくれゲイル、僕の指が、第二関節まで肉に埋まって見えないよ!」


 ジュリアンが狂喜の声を上げる。


「んんっ……! ああ、やっぱり……この手じゃなきゃ、ダメ……ッ!」


 エルザが快感にけぞる。

 二人の手のひらの熱が、冷えていた胸を一気に温める。血流が奔流となって駆け巡り、胸が大きく跳ねた。

 盛大なリバウンドに、二人の腕に懐かしい激痛と重圧が走る。


「おいジュリアン! 貴様、角度が甘いぞ! 左側が2ミリ下がってる! 負荷をこっちに寄越すな!」

「はっ、何を言うか筋肉ダルマ! 君こそ力が入りすぎだ! 陛下が顔をしかめているのが見えないのか!」


 いつもの罵り合い。

 だが、その声は弾んでいる。

 

 二人は、額に汗を浮かべ、腕をプルプルと震わせながら、互いにニヤリと笑い合った。

 彼らの手の中には、世界で一番重く、世界で一番柔らかい国家がある。


「本日も、完璧に支えてみせます」

「死ぬまで離しませんよ、陛下」


 エルザは、二人の頼もしいサスペンダーに全体重を預け、蕩けるような笑顔で言った。


「ええ……。今日はお散歩をしましょうか。石畳の上を、たっぷりとね」


「「!!」」


 二人の顔が引きつり、そして歓喜に歪んだ。

 

 王宮の窓から、今日も元気な男たちの悲鳴と、何か重いものが揺れる音が、青空へと響き渡った。

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王宮のサスペンダーズ 火之元 ノヒト @tata369

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