第5話 第三の男、あるいは肉のNTR
その朝、控え室の空気は凍りついていた。
いつもの相棒、ジュリアンの姿がない。
代わりにそこにいたのは、騎士団から派遣された臨時要員、エリックだった。
「いやー、マジっすか。俺が左担当なんて、超ラッキーっすね」
エリックは若く、無駄に日焼けし、チャラついた笑みを浮かべていた。
ゲイルはロッカーを殴りつけたい衝動を抑え、冷徹に告げた。
「勘違いするな、新人。これは役得などではない。苦行だ。ジュリアンは昨日の振動で左手首の軟骨がすり減り、ドクターストップがかかった。貴様にその代わりが務まるか?」
「へーきっすよ。俺、握力には自信あるんで。ま、女王様のデカパ……いや、聖なる山を拝めるだけで儲けモンっす」
「……言葉を慎め。貴様がこれから触れるのは、国家そのものだ」
ゲイルは右手のテーピングをきつく巻き直した。
胸騒ぎがする。ジュリアンのあの、神経質なまでに繊細な指使いが、今ほど恋しいと思ったことはない。
装着の時間。
女王エルザは、いつも以上に不安げな表情を浮かべていた。
薄いガウンの前が開かれる。
露わになる、圧倒的な肌色と質量の暴力。
今日の双丘は、心なしか張り詰めている。表面温度が高い。薄い皮膚の下で、青紫の血管が艶めかしく浮き上がっている。
「うわ……ッ、デカ……ッ」
エリックが下品な息を呑む音が、静寂の寝室に響いた。
エルザの眉がピクリと動く。
「失礼します」
ゲイルは無心で右手を差し入れた。
慣れ親しんだ感触。
指が肉の深淵に沈む。右乳の底は、まるで溶けたバターのようにゲイルの手を受け入れ、掌全体に吸い付いてくる。
「じゃ、俺も……失礼しまーす」
エリックが左手を伸ばす。
その手つきには、敬意も技術もなかった。
「……っ!」
エルザが小さく悲鳴を上げた。
エリックの無骨な指が、デリケートな乳房の側面に食い込んだのだ。支えるのではなく、鷲掴みにする形。
「おい、新人! 力が強すぎる!
「え? でもこれくらいガッチリ掴まないと、こぼれちゃうっすよ? うわ凄ぇ、マジで水風船みたいに逃げる……」
エリックはニヤニヤしながら、左乳を揉んだ。
そう、揉んだのだ。
指先を何度も動かし、柔らかな肉の感触を楽しむように弄ぶ。
ゲイルの目の前で、神聖なる左乳が、卑俗な男の手によって変形させられている。
白磁の肌が、エリックの日焼けした指に押し込まれ、赤く鬱血し始めている。
(貴様……ッ! ジュリアンなら、そんな粗雑な触り方はしない……ッ!)
ゲイルの中で、猛烈なジェラシーが渦巻いた。
それはまるで、愛する妻が目の前で知らぬ男に犯されているかのような、背徳的な屈辱と怒りだった。
いや、それ以上に問題なのは――。
「ん……っ、はぁ……っ、気持ち、わるい……」
エルザの呼吸が乱れ始めた。
不快感によるストレスで心拍数が急上昇している。
心臓に近い左側が激しく脈打ち、熱を帯びていく。
「おっ、なんか熱くなってきたっすね。女王様、興奮してんすか?」
「違う! 貴様がヘタクソだから、循環不全を起こしているんだ!」
ゲイルが叫ぶのと同時に、エルザの身体がガクンと揺れた。
立ちくらみだ。
32キロ×2の質量が、落下する。
ゲイルは熟練の技で右側の衝撃を殺した。
だが、エリックは違った。
「うおわっ!? おっも!! 無理無理、指折れるッ!」
エリックは恐怖で手を引っ込めようとした。
最悪の事態だ。支えを失った左乳が、重力に従って落下し、引きちぎられそうになる。
「させるかぁぁぁぁッ!!」
ゲイルは動いた。
右手を右乳に固定したまま、身体を強引に捻じり、左側のエリックの背後に回り込む。
そして、エリックの手首を、自分の左手で掴み、強制的にロックした。
「ヒッ!?」
「逃げるな。その手はもう、貴様のものじゃない。王家の礎だ」
ゲイルはエリックの背後から覆いかぶさるように密着する。
そして、エリックの手を操り人形のように操作し、左乳の底へと深く、正しく押し込んだ。
強制的に押し込まれた左手が、溢れんばかりの肉の海に沈没する。
さっきまでの掴む形ではない。掌全体が、乳房の曲線にピタリと沿う、完璧な受けの形。
「ひぃッ……! ぬるぬるする! 指が、肉に飲まれるッ!」
「そうだ……感じろ、その重みを。皮膚と皮膚の間に真空を作れ。汗を接着剤にしろ」
ゲイルは耳元で囁きながら、エリックの手をさらに強く押し上げる。
左右のバランスが整う。
エルザの表情が和らいだ。
「あ……っ、楽に、なったわ……。ありがとう、ゲイル……」
エルザは安心して、全体重を二人に――実質的にはゲイルに委ねた。
女王の背後にゲイル、ゲイルの前にエリックのサンドイッチ状態。ゲイルは右腕で右乳を支え、左腕でエリックごと左乳を支えている。
顔の目の前に、女王のうなじと、こぼれ落ちそうな巨大な果実の側面がある。
ムワッとした熱気。香水と汗の混じった濃厚なフェロモンが、ゲイルの理性を溶かしにかかる。
「……はぁ、はぁ。エリック、よく聞け」
「は、はいッ!」
「この柔らかさは、快楽のためのものじゃない。少しでも気を抜けば、この肉の津波がお前を押しつぶすぞ」
脅しではない。事実だ。
今、エルザの胸はリラックスして、ドロドロに形を崩している。
スライム状になった肉が、指の股から溢れ出し、手首を伝って肘の方まで垂れてきている。
その粘着質な感触は、エリックの股間を恐怖で縮み上がらせるのに十分だった。
「も、もう無理っす! 勘弁してください! 重い、重すぎる! 腕がちぎれるぅぅぅ!」
夕刻。エリックは泣きながら辞表を出し、逃げ帰った。
ゲイルは一人、控室で氷嚢を両腕に当てていた。
扉が開き、包帯を巻いたジュリアンが入ってきた。
「……聞いたよ、ゲイル。新人を泣かしたそうじゃないか」
「ふん。根性のない若造だった。あれでは陛下のお肌を傷つける」
ジュリアンは苦笑して、ゲイルの隣に座った。
「悪かったな。僕がいないと、君も満足に仕事ができないようだ」
「……勘違いするな。ただ、左右のバランスが悪かっただけだ」
ゲイルはそっぽを向いたが、その右手が小刻みに震えているのをジュリアンは見逃さなかった。
「明日は出るよ。痛み止めを倍飲めばいける」
「……そうか。明日の湿度は70%だ。ハンドクリームを忘れるなよ」
「ああ。君こそ、テーピングをもう一巻きしておけよ」
二人の間に、静かな信頼と、共犯者めいた熱っぽい空気が流れる。
彼らは知っている。
明日の朝、またあの、恐ろしくも甘美な肉の牢獄に手を突っ込む瞬間こそが、自分たちが生きている証なのだと。
ゲイルは右手のひらをじっと見つめた。
そこにはまだ、エリックの手を介して感じた、左側の乳房の熱さが微かに残っていた。
(……やはり、二つあってこその世界だな)
彼は密かに、そう結論づけた。
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