第2話

ー10月31日ー

私は人で溢れかえる渋谷で、待ち合わせの約束をしていた。

「あやめ!」

私名を呼ぶ声がした。辺りを見渡すと、悪魔の仮装をした玲奈がこちらに向かって手を振っている。

「おまたせー!待った?」

「全然!私もいま来たとこ」

満面の笑みで玲奈は答える。

「じゃあ行こっか!」


なつめと別れた時は辛かったけど、玲奈に励ましてもらってだんだん辛さを薄めることができてきている。もう私は前に進もうと頑張っている。


「最近のプリ機、すごいよね〜」

玲奈が関心したように話す。

人で溢れるプリクラ専門店に2人はいた。

「えほんとね!盛りすぎて誰か分かんない」

「それな!まぁでもそれでも楽しいんだけどね!」

「てか玲奈の悪魔、似合いすぎ!」

「ねぇ!悪魔似合うっていやなんだけど」

玲奈がほっぺを膨らまして怒る。

「ごめんごめん、違うよ。可愛いなって!」

「あやめの天使もすごく可愛いよ!」

玲奈がふんわりと笑った。私は玲奈が天使だと思ったよ。


ポーズをとって!3・2・1

カシャッ


あ、また思いだしてしまった。あの人のこと。一緒にプリクラをとった時のこと。ふざけあって変顔して。手をつないで撮った。あの時のプリ、どこいったかな。


「あやめ、あやめ!聞いてる?」

気がつくと玲奈が私の顔を覗き込んでいた。

「あ、ごめん玲奈。ちょっと思い出しちゃって」

「もう!私といるのに違う人のこと考えるなんて!早く忘れちゃいなってば」

「そうだよね!ほんと、そうなんだよね」


あやめ、やっぱりまだ元気ないよね。まぁ、あやめにしては早い方か。あの諦めの悪いあやめにしては。それに今回はなつめさんのことだし。元気いっぱいなのもおかしいよね。それにしても、ハロウィンの誘い乗ってくれてよかった!はやく私がなつめさんのこと忘れさせなきゃ!あやめには絶対もっといい人がいるって分からせなきゃね。



カシャン


「あ、プリ出来たみたいだよ」

玲奈が出来上がったプリクラを切って私に渡してくれた。

「ありがとー」

「やばいちょーかわいい!」

「盛れてるね〜!」

「スマホケースに挟も〜」

「うんそしよ」

「あやめ、ちょっとカフェ入ろ。疲れた」

「え早くない?お祖母ちゃんじゃん」

そう言いながら私も、少しだけこの場を離れたいと思っていた。

2人は専門店を後にし、しばらく歩き、近場にあったカフェに入ることにした。おしゃれな雰囲気のお店だった。

「こんなお店あったんだね」

「ね〜なんか良い感じだよね」

席に案内され、メニューを受け取る。

「えーどれにしよう?」

玲奈がメニューをめくりながら目をキラキラさせている。私はそういう玲奈を見るのが好きだ。

「これとかは?玲奈好きそう!」

「どれどれ?」

「この、4種のきのことトマトの季節パスタ!」

「え〜!美味しそう、それにする!」



カフェでれなと楽しいひとときを過ごした後、あやめとれなは予定を外れて、公園へ向かっていた。れなが食べ過ぎてしまい、気持ち悪いかもと言い出したからである。

「ごめんね、あやめ。一緒に買い物する予定だったのに…。私のせいで」

れなは申し訳なさそうにしている。

「気にしないで!たまには公園でおしゃべりとかするのも楽しいと思うし!」

「あやめ〜愛してる!」

「レナ〜私も!!」


そんな会話をしている時だった。


「あの!落としましたよ。」

後ろから声をかけられた。

「あ、ありがとうございます。」

ハンカチを落としていた。お気に入りのお花の刺繍が入ったやつ。そう言えばこれは…

「あれ、あやめ?」

「え?」

ハンカチばかり気にしていたので、あやめは相手の顔なんて1ミリも見ていなかった。名前を呼ばれた驚きで、ようやく相手の顔を見た。

「なつめ、?!」

驚いた。まさかなつめに会うなんて。私はその時とんでもなく間抜けな顔をしていたと思う。

「今日は、レナさんと一緒なんだな」

「うん、そう。久しぶりにね」

まるで、二人の間に何事もなかったかのように会話は流れた。

「そういえばさ、そのハンカチ。まだ持ってるんだな。俺がプレゼントしたやつだったよな?確か」

「え。あ、そうだったね」

やばい。動揺してしまった。持ち物まで気にしてる暇なかった。ただこれは、刺繍がお気に入りだからいつも使ってただけで!たまたまなのよ。最悪だわ…。よりによって本人じゃない…。

「あやめその刺繍気に入ってたよね!お花好きだからさ!今日もガーデンパーク行ってきたもんね!」

レナ!ナイスフォローだよ!

「そ、そうなの。お花好きで!」

「そっか〜。いいな趣味があるって!俺達もなんかあればな〜。な、あおい!」

そう呼ばれたのは、なつめの横にいたクールな印象の彼だった。

「できれば酒以外のな」

「も〜そーゆーことやめてよ」

なつめはとても元気そうで、なんだか寂しかった。

これ以上、考えたくなかった。だから、

「じゃあ私たち予定あるからそろそろ行くね」

そう言った。

「そっか。じゃあまた。」

「失礼します〜」

レナが明るく別れを告げてくれてほっ、とした。


「あやめ、大丈夫だった?」

心配そうな顔をしてレナが訪ねたくれた。

「ありがとうレナ。本当助かったよ」

私の心臓は少しだけ脈打つのが速かった。

「全然!なつめに会ったら一発殴ってやりたかったのにさ!もう!」

そう話すレナが可愛くて、私の心臓の脈はそのせいだろうと思うことにした。

「でもびっくりしたよね、あやめ。まさか会うなんて…」

「ほんと。まさかだよ…。会いたくなかったなー。」

ほんと会いたくなかった。なんであんな平気そうなの?私の存在なんて、大したものじゃなかったの?居なくなってもそんなに変わらなかったの?そんな考えばかりが、あやめの脳内をよぎる。

「あやめ、大丈夫?」

「えっ」

レナが心配そうに見つめてくる。

「全然平気だよ。まぁ会いたくはなかったけどね」

そう答えた私に、レナが何か言いたげな顔をしたが、私は気づかないふりをした。



あぁまさか、こんなところで会うなんてな。

あやめ元気そうだったな。そっか、俺達もうなんの関わりもなくなったんだよな。そうなんだよな。

なつめはあおいと歩きながら考えていた。2人は今日、お互いの好きなバンドのライブに行っていた。あやめに会ったのは、その帰り道だった。

「なぁなつめ。あやめちゃんいい子じゃん。可愛いし。なんで別れたんだ?」

「え、あぁ。なんかな、続くのが嫌だったんだよ。」

「は?なんだそれ。」

あおいがアホでも見るような視線をなつめに送る。なつめ自身すらも、よく理解できていないのだから、上手く言葉にできるわけがなかった。

「あおいは無いのか?誰かと一緒にいて、これが続くのが嫌だ、怖いって感じること。」

「う〜ん。ないって言ったら嘘になるかなー」

「な、あるだろ!さっきは『なんだそれ』って言ったくせに!」

「でも!一瞬だったよ。僕はとんだ勘違いをしていたからね。」

あおいは何か幸せなことでも思い出すように、少し目を細め、微笑んだ。この顔をするあおいは、彼のことを思い出している時だ。きっと。あおいは彼のことを考えている時、すごく優しい表情をする。

「…彼氏のことか、?」

俺は聞いてみた。あおいの彼氏のことは知っていたが、踏み込んだことはあおいは話さなかったので、俺は詳しくは知らずにいた。ただ知っているのは、3年付き合って半年前別れたということだけ。

「うん、そう。そういえばさ、なつめは僕がゲイだって告白しても変わらず接してくれたよね。」

あおいの歩くスピードが遅くなった。俺もそれに合わせる。

「それは、あおいはあおいだからだよ。俺は、あおいの中身に惹かれたんだから。俺はずっと死ぬまであおいの親友でいたいんだ。」

自分で言って、恥ずかしくなった。

「ふふ、僕はなつめのそういう所が好きだよ。」

あおいの声が柔らかくて照れくさかった。

秋の静かな夕暮れだった。2人の影が伸びていた。



私はレナと別れた後、家にはなんだか帰りたくなくて、図書館に寄った。静かな空気が今の私には少し、辛かった。でもそれ以上に私は、本であふれるこの空間が好きだった。ここの図書館は、吹き抜けになっていて、天窓から暖かな光が入ってくる。円形のホールの壁伝いにある本棚に沢山の本が並んでいる。私はよく、何かあるとここに来ていた。本は読まなくても、この空間に癒やされていた。いつものように、館内をゆっくり歩く。日曜日の夕方なのに、いつもより人が少なく感じる。そういえば、あの本買っただけでまだ読んでなかったな。図書カードも貰ったの、まだあったよね。何買おうかな。あの小説家がお勧めしてた本でも買ってみようかな。でもあれミステリーで難しいってレビューあったよな。明日は学校か。課題忘れないようにしなきゃ。

今日はいつもより、頭がすっきりしない。いつもなら歩いていれば、だんだんすっきりしてくるのに。理由はもう分かっている。私の頬を伝う雫が、答えだった。

「大丈夫ですか?」

「えっ?」

落ち着いた雰囲気のお姉さんが声をかけてくれた。ワインレッドのピタッとしたニットに黒のロングスカート。茶色のロングの髪を緩く巻いて。私が憧れていたお姉さん、そのものだった。そのお姉さんは、心配そうに私の顔をのぞき込んでいた。

「あ、すみません。大丈夫です。」

「良かったら、使ってください。」

そういい、お姉さんは白色レースのハンカチを差し出してくれた。そのハンカチはコスモスの刺繍が施されていた。

「え、ありがとうございます。」

「いえ、安物ですので。では。」

お姉さんは、そう言って去っていった。その優しさが、痛いほど私の心にしみた。その途端、一気に涙があふれた。次々に流れ落ちる涙を私は、お姉さんの優しさで拭った。


迷惑にならないよう、図書館を後にした私は、静かな夕暮れ道をゆっくりと歩いた。

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