これから。
たまご
第1話
ー10月7日ー
「別れたい」
スマホの画面にそう、通知がきた。あぁやっぱり。ここ数日間なんとなくそう感じていた。悪い予感ほど当たるものだ。分かってはいたはずなのに、気づかないふりをしていた。そのせいかな。大粒の涙で視界がはっきりしない。
あやめの見ていた世界。
ー9月18日ー
「ねぇ、今度このカフェ行こうよ」
キッチンでコーヒーをいれる彼に私は言った。
「うーん。今見れないからLINEに送っといて」
「わかった。ここのカフェね、オムライスがすごく美味しいんだって!」
「へー。そうなんだね」
「オムライス、好きって言ってたからいいかなぁって」
「え、俺そんなこと言ったっけ」
「言ってたよ!覚えてないの?」
「あ〜そうかも」
「…行きたくなかったら言ってね。」
「え?なんで?行くよ?」
そう言った時、やっと彼が私を見た。
「そう、ならよかった。」
ー9月12日ー
「ねぇ、昨日何処にいたの?」
電話越しにしか、聞けない私に嫌気がさす。
「え、友達と家でゲームしてたよ?」
嘘。私知ってるんだからね?私の友達が親しい友達限定のストーリーを、見せてくれた。そこには貴方が貴方の友達と、それから知らない女の子たちで楽しそうに遊んでいる姿が写ってた。メンション付きで。正直に言ってくれればよかったのに。そうやって嘘つかれると私、泣きたくなる。でも言えない。言ってしまったら…。電話で良かった。きっと今の私は、貴方には見せられない顔をしてる。
ー9月6日ー
「明日、楽しみだね!」
「え?あぁ映画ね」
「ちゃんと覚えてる?記念日デートなんだよ?」
「覚えてるよ。あやめの好きなご飯屋さん予約したもんね」
「え!ほんと!?」
「あっ、言っちゃった…内緒にしてたのに」
なつめは照れる仕草をした。
ー8月24日ー
駅待ち合わせって、時間も私が決めたのに!遅刻とかありえないよ〜!
「ごめん、おまたせ!」
「え!浴衣じゃん!超可愛い」
この日のために貴方のために、頑張ってよかったと心の底から思った。
「せっかくだし浴衣もいいかなって思って!」
「超似合ってる!花火楽しみだね」
あの夏の日は今でも忘れない。人混みの中、はぐれないようにって手を繋いで。手汗とか気にしてたけど実際繋いでみれば、そんなの気にならなくて。もうどっちの汗かも分からないくらいただ、あつかった。
思い出せばきりがないくらい、嫌な思い出も幸せな記憶も溢れるほど出てくる。ずっとそばにいて、一番近くで見ていたのに。これからもそうでありたかったのに。そんな願いは虚しく、ただ時間が過ぎるだけだった。あの時のああしていれば何か違ったのかな?なんて考えても答えはでない。
なつめの見ていた世界
10月4日
「なぁ、やっぱり別れた方がいいかな?」
俺は友人のはるに相談していた。
「なつめ、これで何回目だよその話。いい加減別れてこいよ!」
「うん、でもさ…」
「別れたいんだろ?」
別れたいのはそうなんだけど…。
「まぁそうなんだけど。」
「なら早いほうがいいよ、彼女のためにもな」
9月29日
「なつめ!」
彼女が元気よく走ってきた。
「ごめん、待った?電車遅れててさ」
息を整えながら話すあやめを前に、遅いよという言葉を飲み込んだ。
「大丈夫だよ。」
「私が待ち合わせしたいって言ったのに、ほんとごめんね」
「だから大丈夫だって!それより予約してあるんだ、早く行こ!」
「ちょっと待って、ごめん。少し化粧直してからでもいい?」
9月16日
「ねぇあやめ。」
彼女はアイスを食べながらソファでドラマを見ている。
「なぁに?」
そう言っても視線をこちらにはくれない。
「この前あやめが欲しがってたネックレスさ、」
「え?あぁうん。」
「一昨日、たまたま見かけて!」
「へー。」
「あやめに喜んでほしくて買っちゃったんだけど…あやめ、聞いてる?」
「あごめんごめん。聞いてるよ?ネックレス…だよね?」
「あ、ごめんねドラマ見てる最中に。なんでもない。
「え、あそう?」
9月3日
「なつめ、」
彼女がやけに真剣に俺を見つめてきた
「なに?どうしたの?」
「好きだよ」
「うん、俺も」
たまにこうやって言葉にしてくれるのが嬉しい。
「優しいところとか面白いところとか!なつめのそうゆう所、全部好き」
俺を思ってくれていることが堪らなく愛おしい。
8月24日
2人でやりたいことリストに入っていた『花火大会に行く』それを今日ついに達成できる。あぁ早くあやめに会いたい
「おまたせ!」
そこには浴衣姿のあやめがいた。
「超可愛い!」
本当に可愛くて、この子が俺の彼女なのかと本当に嬉しかった。あの日勇気を出して、手を繋いだ。
今となってはもう昔の話で、もう二度ともどる事はない。初めはあんなにもずっと一緒にいたいと思っていたのにな。
彼からきたLINEを、未読のままにしてしばらくがたった。私はずっとソファで動けずにいる。
私たちは一体どこからすれ違っていたのだろう。私はいつから独りだったのだろう。なんで気づかなかったのだろう。違う、なんで気づかないふりをしていたの?本当…どうして…。
自分でもよく分からない。LINE、返さないと。でもなんて返せばいい?引き止めたい。でも引き止める言葉がない。むりに、私に付き合わせたい訳じゃない。だから、本当に言葉が分からない。別れたくないけど、どうしようもない。
ただ、頬を伝う涙と時間だけが流れていく。
なつめ。そうやって名前を呼ぶこともなくなるのだろうか。彼を分かろうと、必死になった時はもう価値がなくなるのだろうか。こんなことなら初めから、好きになんてなるんじゃなかった。なつめを知りたくなかった。なつめといる幸せを知ってしまったからもう。なつめと離れるのが怖い。堪らなく辛い。世界には何億もの、まだ出会ったことのない人たちがいることなんて分かっている。それでも私はやっぱりどうしようもなく、なつめがいいと思ってしまう。
「なんで?私じゃダメだった?」
「俺がもうダメなんだ。」
「分かんないよ。分かんない」
「分からなくていいよ。終わりにしたいんだ」
「そっか。私がなつめの負担になるなら、別れよっか」
思ってもないことを、と自分でも思う。でも私は最後までなつめに嫌われたくないんだ。もう遅いけれど。画面を叩くように返事を打った。
「ごめんね」
謝るくらいならそんなこと言わないでよ。いつもは私の言う事、全部肯定してくれてたじゃん。なんでなんで、。
「全部楽しかった、ありがとう」
これは本心。ほんとに楽しかった。これで終わっちゃう。
「ありがとう」
楽しかったは、ないんだね。いつもなら…そう考える時点でもうだめだね。あんなになんて言ったらいいのか分からなかったのに、こんなにもあっさり終わってしまったよ。
好きだったよ。誰よりも貴方のことを考えていたよ。なつめと、幸せになりたかった。こんな私でごめんね。幸せになってねなんて言いたくないけど、いつかはお互い、幸せになれるといいね。なつめ、元気でね。
「別れたい」
ずっと言おうか悩んでいた言葉を、やっと言うことができた。ずっと望んでいた結末なのになぜかすっきりしない。俺はあやめと別れたかった。それは違いない。ずっと考えていたんだ。これが続くのかと。それが嫌だった。終わりにできたんだ。これが俺の望んでいた結末なんだ。
あやめはもっと引き止めてくるかと思っていた。けど案外あっさりしていた。拍子抜けだった。急だったからもっと怒っているかと思った。だから身構えていたのに。俺はあやめのことを分かっている気でいたけど本当は、これっぽっちも分かっていなかったのかもしれない。俺はあやめの近くで一体、なにを見ていたのだろう。もう終わったことなのに終わる前よりも、あやめのことを考えている。あれ、?俺、別れてよかったのか?本当にあやめのこと嫌だったのか?考えれば考えるほど分からなくなる。でも答えが出たところでもう、遅いんだけど。
あやめ、今までありがとな。ちゃんと彼氏できてたか分からないけど、あやめと居るの、悪くなかったよ。もっとお互いに言いたいこと我慢してなかったら、とかいろいろ思うけど、もう終わったことだからな。あやめ、幸せになれよ。またな。
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