第91話 笑顔
爆煙の中、無い野は煙の中の様子を伺う。
今の所、剣が出てくる気配はない。
無い野は煙を警戒しながらも思考に沈む。
(あの至近距離……あの様子からしても避ける事は不可能……後はカウンターで削り切れば――)
「final form。」
突然煙の奥底から、はっきりとその声が響いた。
「………!」
無い野の目が見開かれた次の瞬間。
――ドンッ!!!!
爆発音すら置き去りにして、
剣が飛び出した。
ミサイルのような直線加速。
視認した時には、もう――
「……っ!!」
無い野は即座に蒼の気を全開で纏い、
腕と体幹で防御を固める。
――ギィィン!!
衝撃。
重すぎる。
防いだはずの衝突が、
身体の芯まで叩き込まれる。
「………!!」
刃が、
腹部にわずかに刺さった。
――ブシュッ。
血が宙に散る。
観客席が息を呑む。
だが――
無い野は倒れない。
刺さった刃を強引に弾き、
後方へ跳ぶ。
『と、通ったァァ!!剣の攻撃が通りました!!何て速さだ!!目に追えません!!』
「……なるほど」
無い野の目が冷静に細まる。
剣は、止まらない。
突撃の勢いのまま、空中で刀身を瞬時に調整。
伸びる、縮む、角度が変わる。
「――斬ッ!!」
飛ぶ斬撃が、
連続で放たれる。
――ギュオォン!!
――ギュオォン!!
無い野は、
紙一重で躱す。
肩を掠め、
足元を裂き、
背後の床を抉る。
(速さ……威力……さっきまでとは別物だ……だが……)
剣の身体はまるでジェット機の様に加速していた。
踏み込みも、跳躍もない。
神の気そのものが推進力となり、
空間を蹂躙している。
無い野は、
徐々に理解し始めていた。
(突進速度に、刀身の長さと角度を即座に合わせてくる……)
避けても――
斬撃が追ってくる。
「チッ……!」
無い野は身体を捻り、
地面を転がる。
――ザン!!
背後で、
遅れて斬撃が爆ぜる。
(完全に読まれてる……いや、読まれてるんじゃない……)
剣にすら、その速さを制御し切れていなかった。
だが無い野がどこへ逃げても、
最適解の斬り方を土壇場で“生成”している。
それを可能にしているのは剣の異次元の反射神経。
(一時的な速さだけ得た所で制御出来なければ意味がないと思っていたが……なるほどどうして……)
剣が再び加速する。
音が消え、視界が歪む。
次の突撃が――
確実に、命を取りに来ている。
無い野は歯を食いしばり、
蒼の気をさらに圧縮した。
(このまま躱し続けるのは無理だ……
対応策を――)
刹那。
剣の刀身が、
再び異様な長さへと変化する。
次の一撃は――
回避不能。
刃が無い野へと向けられる。
避けきれない。
判断した瞬間。
遅れて――
――ザンッ!!
血が、
アリーナに舞った。
地面に転がったのは――
無い野の小指。
「……っ」
歯を食いしばる。
蒼の気で固めたはずの防御。
それでも――
(蒼鎧じゃ……もう防ぎきれないか……)
剣のfinal formは、
防御という概念そのものを削り取ってくる。
「ハハハ!!次は首だ!!楽しいぞ……!!お前が苦しむ様を見るのはな!!」
無い野は、
必死に躱し続けながら――
地面を叩き割った。
――ドン!!
床が砕け、
破片と共に身体を沈める。
一瞬、剣の体勢が崩れる。
「……!無駄な足掻きを……!」
無い野は、
宙に浮いた石塊を見逃さなかった。
蹴り。
蒼の気を乗せた一撃が、
弾丸のように石を射出する。
――ゴォッ!!
剣へと一直線。
剣は斬り払うが、
その一瞬の視線と間。
無い野は、既に背後へ回り込んでいた。
だが。
剣は振り向かない。
前を向いたまま――
刀を、後方へ突き出した。
「……っ!?」
――ズブッ。
鈍い感触。
無い野の身体が大きく跳ねる。
「――がっ……!!」
刀は正確に――
先ほど受けた腹の傷へと、
再び、そして深く突き刺さっていた。
血が噴き出す。
剣の声が、
低く響く。
「絶望して死ね……負け犬が。」
無い野の視界が、
一瞬揺らぐ。
身体が言うことを聞かない。
それでも――
無い野は倒れなかった。
刃を掴み、蒼の気で必死に踏みとどまる。
アリーナに重く血の滴る音が落ちた。
(残り3人……まだ余力はある……早く止めを……)
剣は、無い野の腹に突き立てた刀を引き抜こうとした。
だが。
「……?」
刀が動かない。
剣が初めて僅かに眉をひそめる。
無い野は腹から血を流したまま――
刀身を、掴んでいた。
「……この時を」
無い野の口元が、歪む。
「待っていた」
次の瞬間。
蒼の気が一点に圧縮される。
――ギギ……!
刀身が、
異音を立てて震えた。
「……っ!?」
剣の目が見開かれる。
バキィィン!!
乾いた、はっきりとした破断音。
神の気を纏っていた刀が――
中ほどから、へし折れた。
刃の破片が宙を舞う。
剣の手に残ったのは半分になった刀。
一瞬、時間が止まる。
観客席が声を失う。
「……刀を……折った……?」
「嘘だろ……」
剣は折れた刀を見つめ――
そして、ゆっくりと無い野を見る。
無い野の表情は、焦りでも恐怖でも絶望でもない。
ただ――覚悟だけがあった。
「笑うのは辞めたのか?」
無い野は、
血を垂らしながら一歩踏み出す。
蒼の気が、
再び燃え上がる。
剣のfinal formは、
確かに無い野を追い詰めていた。
だが――
その刹那の油断こそ、
無い野が狙っていた唯一の隙だった。
折れた刃が、
アリーナの床に落ち――
消えた様に見えた火が、再び燃え始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます