第88話 刀

コロシアム全体が、

昨日とは比べ物にならない熱量に包まれていた。


歓声というより――もはや轟音。


天井を震わせるような叫びが、

波となって何度も押し寄せる。


「おおおおおおおおお!!」

「準決勝だァァァ!!」

「ここまで残った化け物共を見せろ!!」


司会が、興奮を抑えきれない声でマイクを握る。


『さあ諸君!!死闘を越え――ついに準決勝!!』


『下界代表チームは――

無闘の脱落という大きな代償を払いながらも、

ここまで勝ち上がってきた!!』


観客席の視線が、

アリーナ中央の四人に集中する。


翔馬。

無い野。

花野。

当て野。


蒼の気が、静かに立ち上っている。


翔馬は、無意識に拳を握った。


(……空気が重い)


昨日とは違う。


“見定められている”感覚。


花野も、小さく息を吐く。


「……ただの神界人じゃないな。」


当て野が低く呟く。


「2人しか残ってないのは不幸中の幸いだな。」


そして。


無い野は、

相手チームの方を見たまま、一言も発さない。


ただ、目だけが冷えていた。


『対するはァ!!』


司会の声が、一段低くなる。


『ここまでの試合、

圧倒的な戦いぶりで勝ち上がってきた二人!!』


『今大会のダークホースの一組!!名も、肩書きも、ほとんど明かされていない!!だがひたすらに強い!!正体不明の強さでこの準決勝に上り詰めました!!』


観客がざわめく。


「なんだよそれ!?」

「隠し玉か!?」

「二人で四人相手とかいけんのか!?」


だが。


その二人は、

一切動じない。


片方は、

力を抜いたまま立っているのに、

周囲の空気が歪むほどの存在感。


もう一方は、

笑っている。


――楽しそうに。


翔馬の背中を、

嫌な汗が伝った。


(……何だあいつ……)


理屈じゃない。

祝福の気配でも、神の気の量でもない。


“危険だ”と、

本能が告げている。


花野が、視線を逸らさずに言う。


「凄い申し訳ないんだけど……昨日の負担がまだ残ってて……最初からは出られそうにない」


当て野が、短く頷く。


「分かってる……俺が先陣を――」


その時無い野がようやく口を開く。


「お前の出る幕など無い。」


低く、短く。


「あの2人は……俺が殺す。」


その言葉に、

翔馬の心臓が一度、強く跳ねた。


当て野が驚き、無い野の方を向く。


「お前が……?」


「2度言わせるな」


司会が、最後に声を張り上げる。


『両チーム、配置について下さい!!』


『準決勝――まもなく開始だァァァ!!』


歓声が、爆発する。


その渦中で――翔馬達と、異質な二人。


視線が、静かにぶつかった。


その瞬間。


全員が理解した。


――ここから先は、

昨日までとは“別の戦い”だと。


無闘、F、田野は、

ガラス越しにその光景を見つめながら、

誰も言葉を発せずにいた。


始まる。


命を賭けた、

準決勝が。


無い野は、一歩前に出た。


観客の喧騒を背に受けながら、

アリーナ中央に立つ。


「……どちらが来るんだ?」


静かな問い。


そして反対側で――


相手チームの二人。


斧を担いだ男が肩越しにアリーナを一瞥する。


「……うーん……おい、剣つるぎ。」


視線も向けず、

顎だけで無い野を示す。


「お前が行け」


剣と呼ばれた男は、

何も言わない。


だが一歩、

前に出た。


それだけで、

空気が変わる。


観客席がざわめく。


「来るぞ……」

「あっちの男だ……!」


剣は無言のままアリーナへ降り立つ。


腰の刀に手を掛け――


――シャッ。


澄んだ音。


刃が鞘から抜かれた瞬間、

神の気が刃を伝って噴き上がる。


切断を思わせる、

研ぎ澄まされた圧。


無い野の目が、

わずかに細まる。


(……あの刀……)


その様子を見ていた司会が、

興奮を隠しきれない声で叫ぶ。


『準決勝第一試合!!無い野 VS 剣!!』


無い野はゆっくりと構えた。

蒼の気が地面を這うように広がる。


剣の刃がわずかに角度を変える。


司会が全力で叫んだ。


『――開始ィィィ!!』

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