第80話 死闘

MODE終点、それは肉体の内部に気を組み込むMODE反転と異なり、肉体全てを気そのものに変換する技。


利点としては自身の肉体を変換した事による気の無限生成、一時的な不死身状態。


その代償は使用後には一切の気が使えず、長時間肉体を変換させた状態でいた場合、解除後戻る肉体が無くなり消滅すること。


正に諸刃の剣。


「な……何が起きている……!?」

「身体が……光になって……!?」


 観客の悲鳴が、遠くに聞こえる。


 無闘は、ゆっくりと自分の右腕を見る。


 ――無い。


 だが、次の瞬間。


 蒼の粒子が集まり、

 右腕が再構築された。


 痛みはない。

 違和感もない。


(師匠に……いや、俺自身に感謝だな。)


 無闘は、理解する。


 MODE終点は成功している。


 同時に、

 脳裏に冷たい答えが浮かんだ。


(……長くは、持たねぇ)


 以前、無い野が使った時の記憶。


 ――約七分。


 だが、自分は違う。


 完成させ切れていない。

 制御も甘い。


 直感が、告げる。


(……三十秒)


 それ以上この状態を維持すれば、

 戻れない。


 肉体は消滅し、

 存在そのものが、霧散する。


 無闘は、静かに息を吐いた。


「……短ぇな」


 だが、

 不思議と恐怖はなかった。


 視線を上げる。


 そこには、

 明らかに動揺した大平がいた。


「……何だ、その姿は」


 声が、僅かに揺れている。


「さっき言ったろ。」


 無闘は、肩を竦めるように笑った。


「MODE終点だよ。」


 蒼の気が、

 無闘の輪郭を激しく揺らす。


「名前は……そうだな、まだ決めてなかった。」


 拳を握る。


 その瞬間、

 空間が軋んだ。


 大平は、本能的に理解する。


(まずい……!来る!)


 《面捉》を最大展開。


 空間を“面”で固定する。


 だが――


 掴めない。


「……ッ!?」


 背後。


(捉え……きれん!)


 無闘の拳が大平を捉える。


「くっ!!」


 咄嗟に大平は目の前に御亡を召喚した。


ドン!!!


 爆音と共に御亡が吹き飛ぶ。


 御亡を使い、間一髪で大平は攻撃を躱わした。


『な、何だ!?瀕死だった無闘が急に凄い動きを……!』


「MODE終点……名付けるなら……」


 視線を、大平に向ける。


 その目には甘さが完全に消えていた。


「死闘しとう……かな。」


「死闘だと……?ふざけるのも大概に――」


 次の瞬間。


 無闘の姿が、

 消えた。


「――ッ!?」


 大平が反応する前に。


 再び背後。


 蒼の気が、

 爆発的に出現する。


 大平が防御しようとするが間に合わない。


 拳が、振るわれた。


 空間が、砕ける。


 《面捉》が、悲鳴を上げて崩壊した。


「ぐっ――!!」


 大平の身体が、

 闘技場の端まで吹き飛ばされる。


 床に激突し、

 結界が大きく揺れる。


『あ、当たったァァァ!!直撃です!面捉が破られた!?』


(……残り、二十秒)


 身体の内側が、

 崩れ始めているのが分かる。


 それでも。


 無闘は、前を向いた。


「……終わらせるぞ」


 蒼の気が、

 闘技場全体を覆い始める。


 観客が、息を呑む。


 多死Rossの目が、

 初めて大きく見開かれた。


「……馬鹿な」


 低く、吐き捨てる。


「MODE終点だと……?」


――観客席。


多死Rossは、思わず身を乗り出していた。


「下界人が、MODE終点を――しかも発動に成功した……?」


声に、隠しきれない動揺が滲む。


その隣で、腕を組んだFが叫んだ。


「当然でしょ!」


多死Rossが視線を向ける。


「あいつの才能はね、

 一緒に修行してた私が一番分かってんのよ!」


「あいつの努力も……才能も……私が誰よりもね!」


闘技場。


大平は動きを止め、神の気を更に高める。


(落ち着け……!いくら奴が速かろうと俺の面捉の範囲にさえ入れば完全に探知できる!)


「ハァァァァァ……!!」


大平は身体能力では分が悪い事を察し、自身の神の気の範囲を広げ、カウンターの姿勢に入った。


(半径25メートル……!このアリーナほぼ全てを覆う大きさ!これで奴の動きをいつでも探知できる!)


大平の全力。


神の気の消費を集中させ、半径25メートル全てを自身の神の気で覆う。


確実にカウンターを成功させる為、次戦の事は勘定から省く。


(見える……感じるぞ……!奴の動きが完全に!)


全力のカウンター。


蹴りを放つ無闘に合わせる左拳。


だが、その瞬間。


蒼の光が、大平のレーダーから消えた。


ドンッ!!


音だけが遅れて響く。


「――なっ!?」


大平の探知が、完全に空振りする。


背後。


いや、上――


理解する前に。


ガァンッ!!!!


面越しに、衝撃が叩き込まれる。


「ぐ……ッ!?」


大平の身体が、地面を削りながら吹き飛んだ。


観客が息を呑む。


「見えねえ……!なんてスピードだ!」

「今、何が起きてんだ……!?」


『速い!!速すぎる!!全く見えません!!無闘、先程とは別人のような動き!!」


無闘は、蒼の光そのものとなっていた。


肉体という概念を捨てた存在。

蒼の気が意思を持って動いている。


(残り……十六秒)


直感が、冷酷に告げる。


無闘は、止まらない。


一歩。


いや、

一歩という表現すら、遅い。


空間を踏み潰すように距離を詰め、


ドォン!!

ガァン!!

ズガァァッ!!


拳、肘、蹴り。


同時多発的に叩き込まれる衝撃。


「がはッ……!」


大平の面が、ひび割れる。


(ば、馬鹿な……探知が……追いつかん……!)


大平は必死に“面”で捉えようとする。


だが――


捉えた瞬間には、

既に次の攻撃が終わっている。 


無闘の攻撃は、止まらない。


蒼の奔流が、嵐となって大平を叩き潰す。


「ぐ……ッ、下界人が……!」


大平は膝をつく。


床に、血が落ちる。


空気が、悲鳴を上げた。


ドォォン!!


「ぐはッ!!」


大平の面に、致命的な亀裂が走る。


神の気が、霧散した。


(ダメだ……!維持しきれない……!いや、最早無意味か……)


大平は、血を吐きながら笑った。


「下界人が……ここまで……」


(残り……十秒)


無闘は、躊躇しなかった。


蒼の光が、さらに濃く、重くなる。


気の物量が――

加速する。


「終わらせる……!」


空間が歪み、

無闘の連撃が雨のように降り注ぐ。


「く……ッ!」


大平は“面捉”を――

解いた。


(面捉を解いた!)


次の瞬間。


無闘の蹴りが、

確かに――直撃した。


ドォォン!!


「――もらっ……!」


だが。


蹴り抜いた感触が、

異様に軽い。


「……!?」


無闘の視界で、

蹴り飛ばした“大平”の身体が――


崩壊した。


砂のように、

霧のように、

蒼の衝撃に耐えきれず、砕け散る。


(――御亡……!)


瞬間、理解する。


位置の入れ替え。


「後ろだ……!」


声が、背後から響いた。


振り向くより早く、

無闘は空間ごと踏み砕く。


ドォン!!


吹き飛ばされる大平。


「ぐ……ッ!」


だが、大平は地面を転がりながらも、

既に次の手を打っていた。


神の気が、再び収束する。


もう一体――

御亡。


無言の男が、大平の横に現れる。


御亡が、両腕を前に構える。


(――放出……!)


蒼の集合体である無闘が、

その兆候を見逃すはずがなかった。


「……させるか」


(今その技は悪手だろ……!その技はタメが必須!)


視界の端で、

御亡が“放出”の構えに入るのを捉えた瞬間――

蒼の光が、跳ねた。


「壊す――!」


一歩。


空間が潰れ、

無闘は御亡の懐へ侵入する。


拳が振り抜かれた。


――破壊。


ドンッ!!


御亡の身体が砕け散る。


だが、その刹那。


無闘の直感が、

死を叫んだ。


「――!?」


閃光。


バァァンッ!!!!


御亡の内部に圧縮されていた神の気が、

爆散する。


「――ッ!!」


蒼の光が、押し潰される。


無闘の身体が、

結界を砕く勢いで吹き飛ばされた。


ゴォォォンッ!!


地面を削り、

無闘は転がる。


蒼の気が、激しく乱れる。


(これは……!?)


立ち上がろうとする無闘の視界に、

大平が映る。


血を流し、

呼吸も荒い。


だが――

その目は、死んでいなかった。


「捉えられないのなら……」


大平は、ゆっくりと両腕を広げる。


「攻撃を置いておけばいい」


その瞬間。


大平の身体から、

全ての神の気が解放された。


ドクン――

空間が脈打つ。


『な、何だァ!?いきなり御亡が爆発したぞ!!?』


観客席が、どよめく。


本来、

一体しか出せないはずの存在。


御亡。


――それが。


一体。

二体。

三体。


次々と、

空間から“生まれる”。


「馬鹿な……ッ!?」

「御亡が……増えてる!?」


御亡、御亡、御亡。


無表情の存在が、

大平を中心に円を描くように配置されていく。


それは防御ではない。


自爆陣形。


大平は、自身の目前に迫る死を理解していた。


(このまま俺ごと……奴を爆死させる!!)


今、この瞬間に賭ける。


「これで終わりだ!!無闘ォ!!」


大平が叫ぶ。


御亡達の身体が、

不穏に震え始める。


内部に圧縮された神の気が、

今にも弾けそうに脈動していた。


(残り……五秒)


無闘は、立ち上がった。


「そうだな……これで終わりだ。」


蒼の光が、

限界を越えて、ひび割れている。


大量の御亡が無闘に向け、駆け出し始めた。


目の前には、

避け場のない死地。


それでも――

無闘は冷静だった。


蒼の光が、

最後の輝きを放つ。


蒼の光が、

一本の線へと収束する。


時間が、遅れる。


空間が、遅れる。


観測が――

完全に置き去りにされた。


「final formファイナルフォーム。」


音すら、ない。


無闘は消えた。


次の瞬間。


ドッッッッ!!!


御亡の包囲陣、その全ての内側で――

同時に、破壊が起きた。


違う。


一つ一つではない。


同時だ。


御亡の核。

神の気の圧縮点。

起爆装置。


それらが、時間差ゼロで粉砕される。


大平の周りの御亡全てが破壊された。


「――な……」


大平の声は、

最後まで音にならなかった。


その背後。


蒼の光が、元の位置へと戻る。


(俺の努力……才能……劣っていたというのか……!!馬鹿な……馬鹿な!!)


無闘が、

最初に立っていた場所に立っている。


まるで、

最初から動いていなかったかのように。


(あっそ……じゃあ……強さ以外は全て捨てて来た訳だ……可哀想な奴だな。)


最後に浮かんだのは無闘の言葉。


(そうか……お前も……)


――そして。


世界が、追いつく。


「無闘ォォォォォォォ!!!」


ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!


破壊された御亡に封じ込められていた神の気が、

行き場を失い、一斉に起爆する。


連鎖。

連鎖。

連鎖。


闘技場全域を覆う、

白と蒼の大爆発。


結界が、悲鳴を上げる。


床が、溶ける。


空気が、燃え尽きる。


『――――――!!??』

司会の声は、

完全に掻き消された。


爆心。


神の気が完全に霧散する。


そこに、

大平の姿はなかった。

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