第79話 最後の博打
闘技場で、
再び蒼の気が爆発する。
無闘が踏み込んだ。
蒼の気を纏った連打が、大平へと叩き込まれる。
――しかし。
届かない。
否、届いてはいる。
だが、全てが――
“面”で止められていた。
ズン、ズン、と鈍い衝撃音。
無闘の拳、蹴り、体当たり。
怒涛の攻撃が連なっているにも関わらず、
大平の身体は一歩も下がらない。
『す、凄い……!!無闘の猛攻を……全部、受け流している!?』
司会の声が、驚愕に裏返る。
『これは……!大平の《面捉》が完全に機能している!!攻撃の軌道そのものを“面”として捉え、力を逃がしているのか!!』
無闘は歯を食いしばる。
(ダメだ……!完全に読まれてる……!)
次の瞬間。
空気が、変わった。
大平が、片手を静かに掲げる。
「お前が攻撃し俺が受け流す……立場が逆転したな。」
淡々とした声。
その声が背後から聞こえた事に無闘は戦慄した。
(背後……!回避を――)
無闘の足元、
左右、
背後。
空間が、面として固定される。
「……っ!」
身体が、動かない。
『な、無闘の動きが止まった!?面捉で完全に捕らえたか!?』
「半径3メートル……お前の動きは手に取るように
探知できる。近づかなければ攻撃出来ないお前には天敵という訳だ。」
大平は、振り返らない。
「御亡」
短い呼びかけ。
その瞬間。
大平の背後に、
再び男が出現する。
だが――
今までとは、明らかに違った。
御亡の全身に、
大平の神の気が流れ込む。
血管のように、
神の気が脈動する。
『な、何だァ!?神の気を収束させている!』
司会が叫ぶ。
大平の声が、低く響く。
「俺が“面”で捉える」
「そして――」
御亡が、両腕を前に突き出す。
「御亡が放出。」
ゴォォォォ……!!
神の気が、
一点に収束していく。
光。
圧。
熱。
全てが、限界まで圧縮される。
無闘の視界が、
白く染まった。
(ダメだ……!回避出来ない……!)
もう間に合わない。
「放て」
ドォォォォォォッ!!!!
とてつもない威力の
エネルギー砲が放たれた。
神の気が衝突し、
闘技場中央が爆炎に包まれる。
床が、抉れ。
結界が、悲鳴を上げる。
「くそ!眩しくて見えねえ!どうなった!?」
「うおおおおぉぉぉ!勝った!大平が勝ったぞ!」
「何て威力だよ……恐ろしいな……」
『直撃だァァァ!!無闘、完全に直撃を喰らいました!!』
全てを放出し終わると御亡は土煙と共に姿を消した。
大平が静かに地面へと降り立つ。
御亡が姿を消したと同時に、地上にはボロボロながらも確かに御亡の攻撃を受け切り、立っている無闘がいた。
だが最早、その身体に蒼の気は存在しない。
「……全ての気を防御に回し……一命は取り留めたようだな。」
大平は瀕死の無闘と目を合わせる。
「MODE反転……確かに脅威だ」
「だが俺には――」
冷たい視線。
「絶対に通用しない」
観客席が、歓声に包まれる。
「決まったな……」
「やはり神界北か……!」
その瞬間、無闘の足は限界を迎え崩れ落ちる。
無闘は地面に手をつきながら、荒い息を吐いた。
(……強ぇ……想像……以上に……)
――だが。
その目は、
まだ、死んでいなかった。
燃え尽きた筈の蒼の気が再び微かに揺らぐ。
勝負は――
まだ、終わっていない。
――ギシ……。
軋む音を立てて、
無闘の身体が、再び起き上がる。
「……な、何だ……?」
「まだ、立つのか……!?」
「勝ち目はもうねえだろ!さっさと死ね!」
観客席が、ざわめいた。
蒼の気は、もうない。
呼吸は荒く、足取りも定まらない。
それでも――
無闘は、前を向いていた。
(負けらんねえ……!絶対に……!)
「……強いな。」
大平が、わずかに眉を動かす。
「下界人にしては……上出来だ」
その言葉には、嘲りではなく、
純粋な評価があった。
「だが、ここまでだ」
大平の足元に、
再び神の気が集まる。
空間が、再び歪む。
(来る……!今度こそ……回避を……)
そう思考した刹那。
ドシュッッ。
鈍い音が響いた。
瞬間、時間が停止したかの様にコロシアムは静まり返った。
「………嘘だろ。」
司会も、観客も、翔馬達も目を見開く。
『こ、これは……!!』
無闘は起きたことを理解出来ないかの様に静止していた。
否。
面で捉えられ、拘束された無闘は激痛の走る方向を見たくても見る事ができない。
「…………!!」
ボトッッ。
無闘の右腕が地面に落ちた。
『これは……!!右腕だぁぁぁ!!大平!!無闘の右腕を切り落としたぁぁ!!』
観客は総立ち、歓声を上げる。
熱狂が頂点に達した。
Fと田野は目の前の光景に、鎖を引きちぎらんばかりの勢いで齧り付いた。
「無闘ぉ!!ふざけんなよ!!負けんなって言っただろ!!死んだらぶっ殺すぞ!!」
「ダメだ……!無闘!」
無闘は激痛、失血、疲労、衝撃に顔を歪めながら吸い込まれるように地面に倒れる。
その瞬間MODE反転が解除され、そのツケが回ってきた。
「!!!ゴボッッ!!ゴホッ!!」
大量の吐血。
想像を絶する激痛に気絶することすら出来ない。
その激痛は無闘の意識を歪めるのに十分すぎた。
(………?倒れて……るのか……俺は……?……Fは……どこに……)
倒れる無闘に一つの影が差した。
「悪いな……無駄な苦痛を与えた。」
無闘に向かって手を差し伸べる。
「これで終わりだ。」
差し伸べた手に殺意を纏う神の気が宿った。
「……止めだ!!」
「大平が、止めを刺す!!」
『動けない!!無闘!!もう躱わす余力もないか!?』
司会の声が、悲鳴のように響く。
大平は、一歩踏み出す。
無闘の視界に、
迫る“死”。
「無闘ぉぉぉぉぉ!!」
「無闘ぉ!避けろ!立ってくれ!!」
遠くで翔馬達の叫びが聞こえる。
(………そうだ……俺今戦って……立たなきゃ……)
だが身体が言うことを聞かない。
とうに肉体は限界を迎えていた。
無闘は、理解した。
ここで終わりだ。
身体は、もう動かない。
蒼の気も、枯れ果てている。
逃げ道は、ない。
――なら。
無闘は死の直前、笑った。
血の混じる息を吐きながら。
(……どうせ……死ぬなら………か…………)
その瞬間。
無闘の身体の奥、
もっと深い場所が、軋んだ。
「………?お前………」
闘技場の空気が、
一気に変わる。
肉体は確かに限界を迎えている。
蒼の気はもう残りカスほども無い。
ただ死を待つだけの瀕死の身体。
それでも尚。
無闘は完全には諦めていなかった。
下界人ながらも蒼の気を使いこなす圧倒的センス、肉体強度。
意識を手放す事を完全に否定するほどの激痛によりその才覚は深く研ぎ澄まされていく。
下界の極地、無闘の本領。
神界人を凌ぐ身体能力、そこに与えられた蒼き力。
その土台に隠されるは血の滲む努力など一笑に伏す、神に愛されし才能。
大平の目が、見開かれた。
「……まさか」
無闘が、拳を握る。
その拳が、身体全てが、僅かに震えている。
「使う……つもりは……なかった………」
無闘の声は、かすれている。
「これは賭けだ……俺の……才能へのな……」
床に、
細かな亀裂が走る。
結界が、低く唸り始めた。
「おい……何だ……?」
「大平の動きが……止まった……?」
『これは……!!瀕死だったはずの無闘の周りから……!!何かが!!?』
司会が叫ぶ。
『無闘の周囲で何かが起こっています!!』
無闘はゆっくりと顔を上げる。
その瞳は瀕死とは思えない光を帯びていた。
(努力をする為には覚悟をしなければならない。
その努力が報われる可能性が少しでも上がるよう、それ以外全てを捨てる覚悟をだ。)
無闘の脳内に先程の記憶が蘇る。
「俺が……何を捨てるって………?」
無闘は確かにその場に立っていた。
(馬鹿な……立てる身体じゃ……)
大平は目の前の光景に絶句する。
「馬鹿言えよ………」
無闘の肉体は依然、生命活動を維持している。
「――MODE終点しゅうてん」
その言葉と同時に。
無闘の身体から、
爆発的な衝撃波が解き放たれた。
全てを終わらせる為の、肉体の果て。
闘技場全体が、
悲鳴を上げた。
大平は、即座に《面捉》を最大展開する。
「……クソッ!!」
空間が、歪み――
だが。
止まらない。
(この技……この圧!まさか!?)
「俺が捨てられるものなんて……もう……何も残ってねえよ。」
無闘の身体が蒼の気そのものへと造り替えられ、肉体は蒼の気の源へと変化する。
(成程な……)
観戦する無い野はその終点の異変を誰よりも早く察知した。
不完全。
造り替えられた蒼の気の肉体は今にも崩れ落ちる寸前だった。
だが、無闘は歩き出す。
再生と破壊を繰り返す肉体。
死を覚悟した者だけが辿り着いた、肉体の終点。
運命は、
今、完全に狂い始めていた。
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