第81話 勝者

――爆炎が、ゆっくりと引いていく。


崩壊した闘技場中央。

溶けた床。

霧散する神の気。


観客席が、言葉を失う。


「……死んだ……?」

「神界北の……七天神候補が……?」


誰もが、爆心を見つめたまま動けずにいた。


――その時。


蒼の光が、無闘の身体から剥がれ落ちる。


「……っ」


微かな声。


蒼の粒子が、霧のように空へ溶けていき、

無闘の身体が、元の肉体へと強制的に戻される。


MODE終点、解除。


同時に――

無闘の膝が、崩れた。


「がっ……!」


支える力は、もう残っていない。


ドサッ。


無闘は、前のめりに倒れ込み、

ピクリとも動かなくなった。


司会が、震える声で叫ぶ。


『無闘、完全に限界!!しかし……!!』


一拍。


闘技場全体が、

息を止めたように静まり返る。


司会が、深く息を吸う。


そして――

魂を叩きつけるように、宣言した。


『――――勝者!!』


『下界代表!!』


『無闘ッッッ!!!!』


一瞬の沈黙。


次の瞬間。


ドォォォォォォッ!!!!


割れんばかりの歓声が、コロシアムを揺らす。


「嘘だろ……」

「勝った……下界人が……!」

「七天神候補を……二人も……!」


観客の常識が、音を立てて崩れていく。


神界の医療班と担架部隊が、

即座に闘技場へ雪崩れ込んだ。


無闘の身体が、慎重に担架へ乗せられる。


その顔は、血と埃にまみれながらも――

どこか、安らかだった。


担架が運ばれていく途中。


翔馬は、拳を強く握り締めていた。


「やっぱり……無闘は凄え……!」


その声は、震えている。


Fは、鎖に繋がれたまま、

小さく、確信に満ちた笑みを浮かべた。


「だから言っただろ」


「――あいつは、天才だって。」


ガラス越し。


多死Rossは、

一言も発せず、闘技場を見下ろしていた。


その目に宿るのは、

驚愕でも、怒りでもない。


――明確な殺意。


「……チッ。」


低く、歪んだ声。


「やはり……下界人は、危険だ」


担架が、闘技場を出ていく。


無闘は、

次の戦いを迎えることなく――

勝者として、戦場を後にした。


そして。


神界七天神トーナメントは、

この一戦を境に――

完全に、歯車を狂わせ始めた。


担架が闘技場の外へ運び出されると、

コロシアムには再び重い空気が落ちた。


勝利は――

確かに、下界側のものだった。


だが。


『……勝者は下界代表・無闘!!』


司会の宣言が響いた直後、

続けて事務的な声色で告げられる。


『しかし――』


『無闘は戦闘不能と判定されます!』


場内がざわめく。


「そりゃそうだろ……」

「あの状態で次は無理だな……」

「ようやく下界チームは一人戦闘不能か」


司会は規定書を確認するように一拍置き、

はっきりと言い切った。


『よって、勝ち残り戦の規定に従い――』


『下界側は、次戦に出場する選手を選出してください!』


視線が、

下界側控え席へと集中する。


翔馬、当て野、花野、そして無い野。


誰も、すぐには口を開かなかった。


無闘がいないという事実が、

重くのしかかる。


「……無闘が、ここまで削ってくれた」


当て野が低く呟く。


「絶対に負ける訳にはいかないな。」


沈黙。


その中で――

一歩、前に出た影があった。


花野だった。


「……俺が行く」


短く、はっきりとした声。


全員の視線が、花野に集まる。


「無闘が繋いだ流れを……終わらせる訳にはいかない」


その眼には迷いがない。


翔馬が口を開く。


「花野……無理は――」


「するさ」


花野は、苦笑して肩をすくめる。


「無闘が命を張って作った一勝だ。

ここで引いたら、無闘に顔向けできない。」


無い野が、腕を組んだまま花野を見る。


「……仮にもお前は俺のコピーだ、大衆の前で恥を晒すなよ。」


花野は、視線を逸らさず答えた。


「ああ」


一瞬の沈黙。


そして無い野が、短く言う。


「……行け」


花野は頷き、

コロシアムへと向き直る。


『下界側、出場選手が決定したようです!!』


司会の声が、再び闘技場を震わせる。


『次戦に出場するのは――』


一拍。


『下界代表!!花野!!』


歓声と嘲笑が入り混じる。


「無闘の次じゃ荷が重いだろ!」

「無闘と無い野以外大した事ねえ!ぶっ殺せ!」


だが――

花野は、微動だにしない。


蒼の気が、静かに、しかし確かに立ち上る。


無闘が命を削って繋いだ舞台。


次に立つのは――

花野。


コロシアムの床に、

花野が一歩、足を踏み出す。


蒼の気が、静かに、だが確実に広がっていく。


無闘のような爆発的な圧はない。

だが――

研ぎ澄まされた刃のような気配が、空気を張り詰めさせた。


『続いて――神界北!!次に出場する選手は!!』


司会の声が、一段低くなる。


『三番手――』


『――神界北・禍難かなん!!』


ドン、と重い音を立てて、

一人の男が闘技場に降り立った。


背は高く、体格は細身。

だが、全身から滲み出る神の気は異様に“濃い”。


「……あいつが三人目か」

「見るからに強そうだぜ」


観客席がざわつく。


禍難は、花野を一瞥すると、

面白くもなさそうに言った。


「まさか大平が下界人ごときに不覚をとるとはな」


視線が、無闘が担架で運ばれていった通路の方へ一瞬だけ向く。


「だが――」

「ここまでだ、下界人」


花野は、肩の力を抜いたまま答える。


「それ、さっきの二人も言ってたね」


一瞬、

禍難の眉が僅かに動いた。


『両者、準備はいいか!?』


司会の問いに、

二人は同時に構える。


『――それでは!!』


司会の声が、闘技場全体に響き渡る。


『三回戦!!第三回!!

下界代表・花野!!

対するは――神界北・禍難!!』


一拍。


『――試合開始ィィィッ!!』

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