第69話 ルール
コロシアムの喧騒が、突如として――止まった。
まるで、音そのものを掴み取られたかのように。
「――静粛に」
低く、しかし絶対の響きを持つ声が、空間全体に落ちる。
観客席の最上段。
そこに、玉座が出現していた。
座っているのは、一人の男。
長い外套。
悠然と脚を組み、肘掛けに頬を預けている。
多死Ross。
「よく来たな、下界の連中。」
嘲るような笑み。
「歓迎しよう。
神界七天神トーナメントへ」
観客席が、再び沸き立つ。
だが多死Rossは、指を一本立てただけで黙らせた。
「――ルールを説明する」
その瞬間、コロシアム中央の床が光り、巨大な魔法陣のようなものが浮かび上がる。
「形式は五対五の勝ち残り戦だ」
空中に、五つの光点が並ぶ。
「先鋒、中堅、大将――
順番は各チームが自由に決めろ」
翔馬は、息を呑む。
無闘は雰囲気に圧倒されながらもそのルールを静かに聞いていた。
「……なるほど……先鋒で勝ち続ければほかの奴らは戦わなくて良いのか……」
「倒されるまで交代は不可。
倒された者は――」
多死Rossは、楽しそうに口角を上げた。
「二度と戦えない」
観客が歓声を上げる。
「降参は?」
翔馬が叫ぶ。
多死Rossは、肩をすくめた。
「原則、認めない」
冷たい言葉。
「ここまで来て降参なんて命を拾う真似出来ると思うなよ?」
ざわめき。
無闘が小声で呟く。
「次」
多死Rossは続ける。
「戦闘は一対一。
乱入、援護、時間稼ぎ――」
視線が鋭くなる。
「すべて反則。
違反した場合、その場で処刑だ」
空気が、凍る。
「武器、祝福、神の気――」
彼は、指を鳴らす。
「使用制限は一切なし」
観客席が狂喜する。
「ただし」
多死Rossは、意味ありげに言葉を切る。
「このコロシアムには結界が張られている」
床に走る無数の光の線。
「一度試合が始まればもうここからは出られない。」
つまり。
「死にたくなければ全力で殺せ」
その一言に、すべてが集約されていた。
「優勝者には――」
多死Rossは、ゆっくりと立ち上がる。
「七天神直属の座を与える」
観客が、狂ったように叫ぶ。
「くだらん……実質ない様なものだな。」
無い野は退屈そうに説明を聞いていた。
「栄光」
「力」
「支配」
「そして」
多死Rossの視線が、翔馬を捉える。
「敗者は――
抹殺だ」
執事が、静かに前へ出る。
「以上が、ルールでございます。
観戦者の方はこちらへ。」
深く一礼。
田野とFは執事について行く。
「皆んな!頑張れよ!」
「死んだら殺すかんね!」
翔馬は、拳を握りしめる。
「やるしか無いのか……」
無い野が、低く笑った。
「多死Rossの部下か……おかしな話だな。」
その目は、完全にハンターのそれだった。
「奴は今日で死ぬと言うのに。」
多死Rossは、その様子を見て満足そうに笑う。
「いい顔だ」
コロシアム上空。
巨大な光の板が、空間そのものを裂くように出現した。
「――対戦表を公開する」
多死Rossの声が、場内に響き渡る。
光の板に、無数の文字と紋章が刻まれていく。
神界各地の名だたる戦士たち。
七天神の配下。
翔馬達にはどれも初見の名前だった。
だが名前を見るだけで、圧が伝わってくる。
「……え?」
花野が息を呑んだ。
「ちょっと待て……」
翔馬の視線が、一点に固定される。
第一試合。
そこに、はっきりと書かれていた。
――――――――――
第一試合
チーム無い野
VS
チーム蟹
――――――――――
「……チッ、初戦かよ……てか蟹?どういうことだ?」
無闘が眉をひそめる。
観客席が、どよめいた。
「蟹だと!?」
「おいおい、初戦からあいつらかよ!」
「ハハハ!あいつら終わったな!」
多死Rossが、楽しそうに笑う。
「面白いな……」
指を鳴らす。
不穏な沈黙。
「お前たちは――」
多死Rossは、下界側を見下ろす。
「運がいい」
その言葉に、嫌な予感が走る。
「本戦初日。
しかも――」
口角が、吊り上がる。
「休憩なしで、即第一試合だ」
観客が爆発する。
「殺せえええ!!」
「下界人を血祭りにしろ!!」
無闘が思わず叫ぶ。
「おい!順番を決めるって――」
「まだ決まってなかったか?じゃあ俺が決めてやる。」
多死Rossが即答した。
「先鋒は――」
視線が、無い野に突き刺さる。
「無い野。」
一瞬、時が止まった。
翔馬が振り返る。
「……無い野?」
無い野は、ゆっくりと笑った。
「ハッ……馬鹿が。」
その目に、恐怖はない。
むしろ――
期待。
「最初から俺を潰しに来たか」
「油断するなよ、相手は神界人だ。」
当て野が無い野を一瞥し、忠告する。
無い野は、肩を回す。
「お前ら端で休憩してて良いぞ……全部俺が殺してしまうからな。」
翔馬が一歩前に出る。
「無い野、待て。相手の情報が――」
「関係ない」
無い野は、振り返らずに言った。
観客席がざわめく。
「下界人が笑ってるぞ!」
「余裕ぶってられるのも今のうちだ!」
「おい、あの下界人どっかで見たことねーか……?」
「はぁ?気のせいだろ」
闘技場中央の床が、ゆっくりとせり上がる。
赤黒い光の円。
決闘エリア。
「無い野」
翔馬が、低く呼ぶ。
無い野は、一瞬だけ振り返った。
「死ぬな」
短く、真剣な声。
無い野は、ニヤリと笑った。
そして――
一歩、踏み出す。
コロシアムが、歓声で揺れる。
「――第一試合、対戦相手入場。」
多死Rossの宣告と同時に。
対面のゲートが、ゆっくりと開いた。
中から5人の神界人が出てくる。
地獄の幕が、上がった。
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