第60話 神に至る存在
「……与……志野……?」
与志野は、ゆっくりと振り返る。
「なっ……何で……」
口元が、わずかに動いた。
「…………馬鹿だからな、お前。」
崩れ落ちる身体。
翔馬が叫びながら駆け寄る。
「だっ……だめだ……!!与志野!!」
だが。
穴は、致命的だった。
「田野!!早く!!回復を……!!」
「……っ……」
田野の手が、震えた。
「……ごめん……
……もう……」
与志野の瞳からは光が消えていた。
完全な、死。
翔馬は、声が出なかった。
頭が、真っ白になる。
蒼気は、その光景を見下ろし――
「……無駄死にだ。」
冷たく、言い放った。
「翔馬……お前が私と共に歩く決断をしていれば……こうはならなかった。
これはお前が望んだシナリオだ。」
誰も、反論できなかった。
絶望が、地面に重く沈む。
地面に伏す翔馬の身体から、再び蒼の気が噴き上がった。
「………無駄死に?」
弱々しいものではない。
怒りと悲しみが混ざり合い、無理やり引きずり出された蒼。
「……許さない……」
声は震えていた。
だが、その瞳だけは――確かに蒼気を捉えていた。
「……与志野を……
俺の友を……
奪ったお前だけは……!」
翔馬は、立ち上がる。
足は震え、肺は焼け、蒼の気は制御できていない。
それでも。
前に出る。
蒼気は、それを見て――小さく息を吐いた。
「……無駄だ、翔馬」
一歩、前に出る。
「今のお前には、MODEもない。
final formもない。
蒼の気も、枯れかけだ」
蒼気の瞳に、迷いはない。
「そんな状態で――
俺に勝てるとでも?」
「蒼気……!お前は……!お前だけは!!!」
翔馬が、拳を振るう。
蒼の気を纏った、渾身の一撃。
だが。
蒼気は、片手で受け止めた。
ピシリ、と音を立てて、翔馬の蒼が砕け散る。
「安心しろ。」
次の瞬間。
蒼気の掌が、翔馬の胸に当てられる。
「音色を……一人では行かせん。」
――蒼の気、開放。
ドンッ!!!!!!
衝撃が、爆発した。
翔馬の身体が宙に浮き、背中から地面に叩きつけられる。
「さらばだ……翔馬、音色。」
口から、血が溢れる。
胸部――心臓の位置が、完全に貫かれていた。
「……翔馬……?」
花野の声が、掠れる。
無闘も、Fも、田野も。
誰も、動けない。
蒼気は、ゆっくりと翔馬の元へ歩み寄る。
翔馬の瞳が、わずかに揺れる。
何かを言おうとして――
声は、出なかった。
蒼の光が、完全に消える。
「…………」
その場にいた全員が、理解するまでに、数秒かかった。
そして。
「……嘘だろ……」
誰かの声が、震えながら零れ落ちる。
荒廃した町に、
仲間の亡骸と、
取り返しのつかない沈黙だけが残った。
――絶望は、ここで確定した。
絶望の中、一人の影が地面から立ち上がる。
無い野は、血に濡れた地面を踏みしめ目に映る光景に絶句した。
視界の端に、倒れ伏す翔馬と与志野の亡骸が映る。
胸は貫かれ、蒼の気は完全に消失している。
――誰が見ても、死体だった。
「………このまま帰れると思っているのか。」
無い野の声は、低く、擦れた。
蒼気は一瞬だけ眉を動かし、すぐに冷笑する。
「帰る訳が無いだろう……野神様の命令はお前ら全員の抹殺だ。」
次の瞬間、二人は激突した。
無い野は残された全てを叩き込む。
蒼黒の奔流、MODE
理性も寿命も削る、最後の足掻き。
――だが。
蒼気は、冷静だった。
力で押し返し、
速度で上回り、
防御を貫き、
確実に――無い野を追い詰める。
「無様だな」
蒼気の掌が、無い野の喉元に迫る。
「結局、お前も……才能を持ちながら人の域を出られなかった……」
「ゴホッ……ゴホッ………さっさと殺せ………」
蒼気の指先が無い野に触れる。
「言われなくてもそうするさ。」
――その時。
蒼気の背後で、空気が歪んだ。
蒼の気ではない。
黒蒼でもない。
それは、
概念そのものが軋むような――
異質な流れだった。
「………?」
蒼気が、初めて動揺した。
振り返る。
そこには――
翔馬の死体があった。
……否。
正確には、
“死体だったはずのもの”。
胸を貫かれ、動かぬ肉体から、
別の“気”が流れ出している。
蒼の気とは、完全に違う。
存在してはいけないもの。
(……あれは……まさか……そんな馬鹿な……)
蒼気の背筋に、寒気が走る。
無い野も、それに気づいた。
「……まさか……」
翔馬の身体が、ゆっくりと浮き上がる。
心臓は止まっている。
呼吸もない。
血も流れない。
――それでも。
立っていた。
次の瞬間。
翔馬の肉体から、
蒼でも黒蒼でもない光が噴き上がった。
それは全てを包み込む光。
世界が、沈黙する。
蒼気は悟った。
「……禁忌……」
――死を代償にのみ発動可能な転生。
人間の肉体を捨て、
魂そのものを位相上昇させる技。
翔馬の口が、ゆっくりと動く。
「死の淵で…………やっと気づいたんだ………俺が何者かに………」
蒼気は自分でも無意識のうちに後退していた。
(私が………!怯えている……!この齢16歳の少年に!)
「誰だ………お前は………!」
「教えてくれたのはお前だ。」
《MODE昇天》
《神野かみの》
その瞬間。
翔馬だったものは、
人でも、祝福の器でもなくなった。
“神に至る存在”が、そこに立っていた。
蒼気は、初めて――
明確な恐怖を覚える。
「………神……!」
無い野は、震える声で笑った。
「……俺より先に……辿り着いたのか……」
そして、呟く。
「人間の…‥向こう側へ……!」
世界は、まだ終わっていない。
――本当の最終局面が、今、始まる。
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