第59話 馬鹿だからな

 ――ズンッ。


 蒼気の胸の奥で、蒼の流れが乱れる。


「……っ!!」


蒼気の身体が、初めて大きく揺らいだ。


 内部の循環が崩れ、

 蒼の気の再生が一瞬、止まる。


(まずい……!)


 蒼気は歯を食いしばる。


 当て野は、もう一歩踏み込む。


「必中。」


 次の拳が、再び同じ“点”を捉える。


 ――ドン!!


 蒼気は後方へ吹き飛ばされ、

 瓦礫の山を貫いて止まった。


 立ち上がろうとするが、

 蒼の気が、思うように回らない。


(……何だこの様は……私は……)


 蒼気は、静かに笑った。


「フフッ……笑えるな……元3剣神の私が……お前ら如きに追い詰められるとは……」


 当て野は構えを解かない。


「大技を使い過ぎたな……動きが鈍っている。」


 戦場の空気が、張り詰める。


 蒼気は、初めて――

 明確な敗北の可能性を感じていた。


当て野の拳が、寸分の狂いもなく蒼気を捉え続ける。


 避けられない。

 防げない。


 《必中必殺》。


 弱点を抉る一撃が、確実に蒼気の内部を削っていく。


「……ッ!当て野!!」


 蒼気の呼吸が、わずかに乱れた。


 蒼の気の循環はまだ保たれている。

 だが、回復が追いつかない。


(削られている……!確実に……!)


 瓦礫を踏み砕きながら、蒼気は後退していく。


 蒼気は、当て野の拳を見据える。


(待てよ……もしかすると……)


 当て野の攻撃が再び来る。


 ――ドン!!


 左肩。


 内部に走る衝撃。


 だがその瞬間、蒼気は動かなかった。


(ここか!)


 当て野の拳が、蒼気の身体に“当たった”瞬間。


 蒼気の蒼の気が――爆ぜる。


「ッ!?」


 至近距離。


 蒼の気の逆流が、当て野の身体を包み込む。


 ――ゴォッ!!


 初めて。


 当て野の身体が、明確に吹き飛ばされた。


「……ッ!」


 空中で体勢を立て直しながら、当て野は歯を食いしばる。


(……狙ったな、気づかれたか)


 蒼気は、血を拭いながら立ち上がる。


「ようやく分かってきたよ」


 蒼気は笑う。


「お前の必中と回避……確かに無敵のように思える。

 だが――」


 一歩、踏み出す。


「必中……私に攻撃が必ず当たるという事は……その瞬間のみ私の攻撃も必然的に当たる。」


 当て野は再び構える。


 能力は健在。

 攻撃は、まだ当たる。


(正解だ……必中を使い敵に当たる瞬間は回避は使えない……)


 蒼気は、もう逃げない。


 当てさせる。

 耐える。

 その一瞬を、奪う。


当て野の呼吸が、明らかに荒くなっていた。


 ――ズキリ。


 視界の端が、わずかに歪む。


(……来やがったな)


 MODE反転 当たら無い野。

 絶対命中・絶対回避という狂った理屈は、身体に異常な負荷を強いていた。


 蒼の気が、血流と噛み合わなくなっている。


 それでも。


「この状況を打開できるのは……俺だけだ!」


 当て野は踏み込む。


 ――ドン、ドン、ドン!!


 連打。


 弱点を正確に穿つ拳が、蒼気を削り続ける。


 蒼気は防がない。

 耐える。

 そして、観察する。


(動きが……僅かに遅れてきている)


 蒼気は気づいていた。


 必中は健在。

 だが、発動者の反応速度が落ちている。


 その頃――


 瓦礫の影。


 倒れていた仲間達の元で、田野が必死に蒼の気を流していた。


「……これで、最低限は……!」


 花野が、咳き込みながら上体を起こす。


「……ありがとう……田野……」


 与志野も、膝をつく。


「……でも……ダメだ……蒼の気が……」


 無闘は拳を握ろうとして、力が入らず舌打ちする。


「クソ……身体は動くのに……中身が空っぽだ……」


 Fは静かに立ち上がるが、蒼の気の流れが完全に途切れている。


「……戦線復帰は、無理だね」


 田野は唇を噛みしめる。


「……ごめん……回復はできても……

 蒼の気までは、戻せない……」


 全員が分かっていた。

 戦えば、即座に殺される。


 ――そして前線。


 当て野の足が、僅かにもつれる。


 その瞬間を、蒼気は逃さなかった。


(……来た)


 蒼気は、敢えて大きく踏み込む。


 当てさせる動き。


 当て野の拳が、迷いなく飛ぶ。


 ――ドン!!


 弱点命中。


 だが同時。


 蒼気の蒼の気が、内側から逆巻いた。


 今の当て野には重すぎる一発。


「ッ――!」


 当て野の身体に、鈍い衝撃が走る。


(……反動が……)


 当て野は歯を食いしばり、体勢を崩さぬまま踏みとどまる。


「……まだだ」


 拳を構える。


 視界が、チラつく。


 心臓が、軋む。


 それでも。


 蒼気は静かに言った。


「少し危なかったな……だが……」


 一歩、距離を詰める。


「覚悟だけで、神は殺せない」


 空気が、張り詰めた。


 当て野の限界。


当て野の拳が、最後に一度だけ蒼気を捉えた。


 ――だが、それまでだった。


「……終わりだ」


 蒼気の一撃が同時に当て野の腹部を貫く。


「ガハッ!!!」


 蒼の気が内側から爆ぜ、当て野の身体は人形のように吹き飛ばされ、瓦礫の山に叩きつけられた。


「当て野!!」


 与志野の叫びが響く。


 返事はない。


 ――完全に、動かない。


 一瞬、世界が止まった。


 だが。


「クソ……!このまま終われるか……!」


 無闘が、ふらつきながら立ち上がる。


 Fも、花野も、田野も、与志野も。


 蒼の気は枯れ、身体を守る蒼鎧も出せない。


 それでも。


「まだだ……!」


 与志野が歯を食いしばる。


「行くぞ……! 全員で!!」


 ――一斉突撃。


 拳、蹴り、植物、残り滓の蒼の気。


 だが。


 蒼気は、ただ一歩踏み出した。


 衝撃波。


 ドンッ――――!!


 全員が、まとめて吹き飛ばされる。


「グハッ……!」


「うぅ……!」


 壁に、地面に、瓦礫に。


 叩きつけられ、誰も立てない。


 蒼気は、静かに歩み寄る。


「さぁどうする?」


 視線の先。


 地面に突っ伏す翔馬と無い野。


 蒼気の手に、蒼の気が集束する。


 翔馬は咳き込みながらも、そのボロボロになった                

 身体で何とか立ち上がった。


「グッ……ハァ……ハァ……うぅ……!」


 立ち上がったものの目の前の光景を見て翔馬は絶望した。


「……皆んな……」


 一本の、光線。


「――さよならだ、翔馬」


 放たれる。


 避けられない。


 翔馬は理解していた。


(……だめだ……

 身体が……動かない……)


 蒼の光が、目前まで迫る。


(与志野……皆んな………ごめん……俺………)


 その瞬間。


「――――ッ!!」


 影が、翔馬の前に飛び出し、翔馬を突き飛ばした。


「え……」


 蒼の光線が、彼の腹部を貫通する。


 ズン、と鈍い音。


 血が、空中に散った。


「……与……志野……?」


 与志野は、ゆっくりと振り返る。


「なっ……何で……」


 口元が、わずかに動いた。


「…………馬鹿だからな、お前。」

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