第58話 必中
蒼気の影が、
倒れた二人を覆う。
蒼の爆撃が、ようやく止んだ。
空に漂うのは、砕けた瓦礫と焦げた蒼の残滓。
蒼気は一度、肩で息をした。
「ハァ……チッ」
ほんの一瞬。
だが確かに――消耗している。
(大技を撃ちすぎたか……)
その時。
瓦礫の山の向こうから、
一人の足音が響いた。
蒼気が視線を向ける。
「……まだいたのか」
そこに立っていたのは――当て野。
身体は満身創痍。
だが、目だけは死んでいなかった。
蒼気は鼻で笑う。
「何か用か?当て野」
当て野は、ゆっくりと拳を握る。
「お前を殺しに来た。」
一歩、前へ。
「面白い冗談だな……仲間と群れる事しか出来ないお前が……私を倒す?」
蒼気の蒼が、再び揺らぐ。
「翔馬の身体から解放されて調子に乗りすぎたな。」
当て野は、静かに言い切った。
「……俺は冗談は言わん。」
瞬間。
当て野の蒼の気が、逆流した。
心臓から外へ。
血流とは真逆に、蒼が全身を駆け上がる。
(……!?これは……!?)
「――MODE反転。」
蒼が、当て野の身体を包み込む。
次の瞬間――
当て野の輪郭が、曖昧になった。
消えたわけじゃない。
そこにいるのに、焦点が合わない。
蒼気は即座に攻撃に移る。
蒼の槍。
直線最速の一撃。
――だが。
スッ。
当たらない。
槍は確実に当て野を貫く軌道だった。
だが、当たる寸前で――
当て野がそこにいない。
「……!?何だと……?」
蒼気は、間髪入れずに連撃を放つ。
波動。
刃。
弾幕。
だが――
全部、当たらない。
避けているのではない。
反応しているわけでもない。
攻撃が当て野に辿り着かない。
(攻撃を躱している?
いや……違う……)
その瞬間。
――ゴッ。
蒼気の腹部に、衝撃。
「……ッ!?」
当て野の拳が、
確実に叩き込まれていた。
防御は間に合っていた。
だが、衝撃は通る。
「名付けるなら当たら無い野……ってところか。」
当て野が言う。
「お前の攻撃は……もう絶対に当たらない。」
蒼気が距離を取る。
蒼の気を再構築しながら、目を細めた。
(攻撃が当たらない?自身の攻撃の必中は継続しているのか……?)
「……ふざけた能力だ」
蒼気が低く呟く。
当て野は笑わない。
「翔馬の借り……返させてもらうぞ。」
一歩、踏み込む。
「馬鹿が……貴様如きが私を――」
次の瞬間。
当て野が消えた。
否――
“当たる位置”に、現れた。
蒼気が反射的に防御を張る。
――ドン!!
また一撃。
確実に、蒼気を捉える。
蒼気は、歯を噛み締めた。
(想定外だったな……一番厄介だったのは翔馬でも無い野でも無く……)
当て野は拳を下ろし、言った。
「ここで確実に倒す。」
蒼が、さらに濃くなる。
「覚悟しろ蒼気!」
蒼気は、初めて真正面から当て野を見据えた。
――軽んじる視線は、もうない。
蒼気は距離を取ったまま、当て野を睨んでいた。
(必ず当たる攻撃。
絶対に当たらない防御……)
蒼の気を極限まで薄く広げ、空間全体を“観測”する。
一点突破は無理なら、面で空間ごと潰す。
蒼気は両手を広げた。
「面で捉える……!」
周囲数百メートル。
空間そのものに蒼の気を染み込ませる。
「蒼域そういき。」
逃げ場はない。
当たるも当たらないも関係なく、存在している限り削る。
蒼気は確信していた。
(これなら――)
だが。
当て野は、その蒼域の中を――
何事も無いかのように歩いてきた。
「……!?」
蒼域が、当て野の周囲だけ歪んでいる。
削れるはずの空間が、
当たらない結果に書き換えられていく。
「無駄だと言ったはずだ。」
当て野が、淡々と告げる。
一歩。
蒼気の背後に回り込む。
――ゴッ!!
防御の上から、衝撃が走る。
「ッ……!」
蒼気は吹き飛ばされ、瓦礫に叩きつけられる。
(……面もダメか)
蒼気は即座に立ち上がる。
(ならば……!)
蒼気は攻撃を止めた。
代わりに、当て野を観察する。
呼吸。
蒼の流れ。
微細なズレ。
(反動は必ずある……
こんな能力、無制限なはずがない)
だが――
当て野は止まらない。
「俺の反転に……!弱点は存在しない!」
次の瞬間。
――ドン、ドン、ドン!!
連続で拳が叩き込まれる。
蒼気は防御する。
だが必ず当たる。
一撃一撃は致命ではない。
だが、確実に削られる。
(クソ……)
蒼気の脳裏に、初めて焦りが走る。
(読めているのに、意味がない……!)
蒼気は蒼の気を爆発的に放出する。
「――消し飛べ!!」
全方位の蒼の衝撃。
だが。
当て野は、その中心から――
何事もなかったかのように踏み出した。
「だから」
当て野の拳が、蒼気の胸を捉える。
「当たらないんだよ」
――ドォン!!
蒼気は地面を削りながら後退する。
立ち上がった蒼気の表情から、
余裕は消えていた。
(物理攻撃は無意味か……!)
認めざるを得ない現実。
蒼気は、静かに歯を食いしばる。
(この能力……
正面からじゃ、勝てない)
当て野は構えを解かない。
蒼の歪みが、さらに濃くなる。
戦場は今――
当て野のペースに完全に引きずり込まれていた。
蒼気は、拳を受け止めながら内心で冷静に計算する。
(落ち着け……奴の攻撃は確かに必中……だが当たったとてダメージは微々たるもの……)
一撃一撃は重くない。
確かに“当たる”が、致命には至らない。
蒼の気で内部を補修しながら、蒼気は後退する。
(時間を稼げ。
必ず、穴は見つかる)
だが。
「――逃がさない」
当て野の声が、近い。
蒼気が視線を上げた瞬間――
当て野の姿が消えた。
(……速い!?)
次の瞬間。
――ドン!!
背中。
――ガン!!
脇腹。
――バキッ!!
関節。
連続。
止まらない。
「ッ……!」
蒼気は防御を固めるが、意味がない。
必中。
どんな姿勢でも、どんな角度でも、
当て野の攻撃は“結果だけ”が成立する。
(加速している……!?)
当て野の動きは、明らかに最初より速い。
蒼の歪みが、当て野の身体に絡みつき、
速度と精度を同時に押し上げている。
「分かってきたぞ。」
当て野が呟く。
「お前の動きが!」
――ピタリ。
一瞬、攻撃が止まる。
蒼気は息を整えようとした、その瞬間。
(……来る!防御!)
「――ここだ」
当て野の眼が、鋭く光る。
蒼気の左胸。
蒼の気の循環が、わずかに遅れる“点”。
何千、何万と受けた攻撃の中で、
初めて露わになった――弱点。
「《必中必殺》」
当て野の拳が、迷いなく突き出される。
避けられない。
防げない。
当たらないはずがない。
――ズンッ。
蒼気の胸の奥で、蒼の流れが乱れる。
「……っ!!」
蒼気の身体が、初めて大きく揺らいだ。
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