第50話 思い出
二人は、激突した。
蒼と蒼が正面から噛み合い、空気が悲鳴を上げる。
「――ッ!」
翔馬は、ぶつかる刹那、歯を食いしばった。
(下は……民家……!)
判断は一瞬だった。
翔馬は拳の角度を変え、蒼気の胴を“叩き上げる”。
「……上だ!!」
衝撃が斜め上へ流れ、蒼気の身体が空へ吹き飛ぶ。
空中戦へ持ち込む――
それが翔馬の選択だった。
だが。
蒼気は、空で止まった。
ピタリと。
落下も、慣性も無視して、宙に立つ。
「なっ……!?」
「……実にお前らしい甘い考えだ。」
蒼気の両手に、蒼の気が集まり始める。
圧縮。
圧縮。
圧縮。
蒼の気は渦を巻き、やがて完全な球体を形作った。
大きさは、人ひとり分ほど。
だが、密度が異常だった。
(……あれは……!!)
翔馬の背筋を、凍るような予感が走る。
蒼気は、地上を見下ろし、淡々と言った。
「お前が余計なことを考えなくていいようにしてやる。」
そして――
投げた。
蒼の球体は、音もなく落下する。
重力すら、追いついていない。
翔馬は、瞬時に蒼鎧を全開まで展開する。
「――ッ!!」
蒼の光が、翔馬の全身を覆い尽くす。
ドンッ――――――――!!!!
衝撃が、世界を引き裂いた。
光。
爆音。
衝撃波。
地面が消える。
建物が消える。
道路も、電柱も、痕跡ごと消し飛び――
そこには、何も残らなかった。
更地。
ただの、平らな大地。
翔馬は、蒼鎧ごと衝撃に叩きつけられ、地面を滑った。
「……くそ!!」
膝をつき、歯を食いしばる。
蒼鎧がなければ、確実に即死だった。
だが――
守れなかった。
翔馬は、ゆっくりと顔を上げる。
さっきまで人が暮らしていた場所。
笑い声があったはずの場所。
そこには、何もない。
蒼気が、空から降りてくる。
瓦礫すら存在しない更地に、静かに着地した。
「どうだ?」
「これが、神の力だ」
翔馬の拳が、震え始める。
「……蒼気……」
声が、低くなる。
「……お前は神なんかじゃねえ……ただの悪魔だ。」
蒼気は、微笑んだ。
「人間基準で考えるな翔馬。
お前は始まり野一族の血を引く者だろう?」
翔馬の蒼が、怒りに呼応して強く脈動する。
「始まり野一族……?知らねえよ、俺は人間だ!」
翔馬は立ち上がり、蒼気を真っ直ぐに睨みつける。
「俺は……
神を止める側に立つ」
空気が、再び張り詰める。
「違うな……くどいようだけど君は生まれながらに神なんだよ。」
かつて――
二人で歩いた道があった。
児童養護施設から少し離れた、夕方になると風が気持ちよかったあの道。
蒼気が他愛もない話をし、翔馬がそれに笑って答えていた時間。
そのすべてが、消えていた。
建物はない。
道もない。
思い出の痕跡すら、跡形もなく。
あるのは、ただの更地と、焦げた大地。
翔馬は、その場に立ち尽くしていた。
拳が、震える。
声が、掠れる。
「……蒼気……!」
返事はない。
蒼気は、少し離れた場所で静かに立っていた。
その表情に、迷いはなかった。
翔馬の胸に、何かがはっきりと折れる音がした。
怒りでも、悲しみでもない。
もっと冷たく、重いもの。
(……もう……)
翔馬は、ゆっくりと顔を上げる。
(……戻れないんだな……)
蒼気を、真っ直ぐに見る。
かつての恩師。
守ってくれた大人。
手を引いてくれた存在。
――だったはずの人。
翔馬は、深く息を吸った。
「覚悟ができたよ。」
その名を呼ぶ声に、揺らぎはなかった。
「俺は……
あんたを殺す。」
一歩、踏み出す。
「神だとか、王だとか……どうでもいい」
もう一歩。
「これ以上……
誰かの居場所を壊すなら……」
蒼の気が、静かに、しかし確実に翔馬の周囲に満ちていく。
「……俺が相手になる」
――かつての恩師と、教え子。
――思い出を焼き払った者と、それを守れなかった者。
蒼気を止めるために。
過去ごと、斬り捨てる覚悟を。
「……それでいい。」
蒼の気が、空を裂いた。
翔馬が踏み込むより早く、蒼気の姿が消える。
「――っ!」
背後。
本能的に蒼鎧を展開した瞬間、衝撃が背中を叩き潰した。
空気が爆ぜ、翔馬の身体が数十メートル吹き飛ばされる。
だが――
空中で翔馬は身体を捻り、蒼の気を噴射して体勢を立て直した。
「……速い……」
視線を走らせる。
次の瞬間、蒼気は正面にいた。
「君が遅いだけだよ」
言葉と同時に、拳。
ただの打撃。
だが拳の周囲で蒼の気が圧縮・振動している。
翔馬は腕を交差させ受け止めるが――
「ぐっ……!」
蒼鎧が軋む。
耐えきれず、地上へ叩き落とされる翔馬。
地面が沈み、クレーターが生まれる。
「防御は上達したな」
蒼気は空中に立ったまま、淡々と言う。
「だが、使い方が甘い」
指を鳴らす。
次の瞬間、空間そのものが爆ぜた。
蒼の気の衝撃波が連続で降り注ぐ。
翔馬は地を蹴り、Quattro Stepで一気に距離を詰める。
「はぁっ!!」
輝く蒼の気が爆発的に噴き上がり、翔馬の身体が光の尾を引く。
一瞬で蒼気の懐へ。
拳を叩き込む。
――直撃。
だが。
蒼気の身体が霧散した。
「幻影だ」
背後から声。
翔馬は即座に振り向き、蒼の気を放つが――
蒼気はその攻撃を素手で掴み取った。
蒼の気が、指の間で砕け散る。
「……っ!?」
「力は確かに無い野を超えつつある」
蒼気の瞳が細まる。
「だが、まだ覚悟が足りない」
掴んだ蒼の気をそのまま圧縮。
次の瞬間――
至近距離で爆発。
翔馬の身体が吹き飛び、空中で数回回転する。
口から血が零れた。
「……くっ……」
それでも翔馬は、落下しながら蒼の気を制御し、着地する。
膝をつきながら、顔を上げる。
「……覚悟なら……」
蒼の気が、以前より静かに、しかし濃く満ちていく。
「……もう、決めた」
翔馬は立ち上がる。
一瞬。
蒼気の表情が、ほんのわずかに変わった。
「……お前には無理だ。」
蒼の気が、彼の全身から溢れ出す。
空が、歪む。
二人の蒼の気が衝突し、空間が悲鳴を上げる。
空が、砕けた。
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