第49話 MODE
蒼気は、構えを取った翔馬を見て、静かに問いかけた。
「……それでいいのかい?」
同時に、その右手へ蒼の気が集束する。
濃度が、異常だった。
(……来る……!)
翔馬は瞬時に判断し、蒼鎧を最大まで固める。
――次の瞬間。
視界が、真っ白になった。
ドォォォォン――――!!
衝撃という言葉では足りない。
蒼気が放ったのは、技ですらない。
純粋な蒼の気の波動。
大気が弾け、地面が抉れ、
建物も、街路樹も、アスファルトも――
まとめて消し飛んだ。
翔馬の身体は、弾丸のように吹き飛ばされる。
「ッ――!!」
蒼鎧が軋む。
だが、致命傷には至らない。
地面を何度も転がり、ようやく止まった翔馬は、すぐに跳ね起きた。
――その瞬間、目に映った光景に、言葉を失う。
クレーターと化した周囲。
崩れた建物。
逃げ遅れた一般人の悲鳴。
「……っ……!」
拳が、震える。
翔馬の声は、怒りで掠れていた。
「待て!こんな所じゃ戦えない!移動しろ!」
蒼気は、瓦礫の向こうに立ったまま、淡々と答える。
「そんな事をする義理はないな。」
翔馬の目が見開かれる。
「……は?」
蒼気は、両腕を軽く広げた。
「やりやすくしようか。」
「!!待て……!」
その瞬間。
蒼気の体内で、蒼の気が爆ぜた。
ドガァァァァン!!
爆心を中心に、見えない衝撃波が全方位へ走る。
建物が、まとめて宙を舞う。
地面が、紙のように捲れ上がる。
波動。
ただそれだけで、街の一角が吹き飛ばされた。
「……ッ!!」
翔馬は歯を食いしばり、再び蒼鎧を展開する。
(……こんな……)
目の前の男は、もはや“先生”ではなかった。
人の生活も、日常も、
全てを切り捨ててでも目的を果たす存在。
蒼気は、静かに言う。
「覚悟を決めろ、翔馬」
「周りの事なんて考えるな……これは私達の闘いだ。」
その圧は、遠くにいる仲間たちにも、
はっきりと伝わっていた。
無闘が、歯を食いしばる。
「……間に合え……!」
与志野は、走りながら呟く。
「翔馬……!」
――誰かがやらないといけない。
翔馬はたった一人で、
神界の元側近と相対していた。
逃げ場はもう無い。
だが逃げるつもりは毛頭なかった。
「蒼気!あんたを止める!!」
翔馬は叫び、蒼気へ一歩踏み出した。
怒りでも恐怖でもない。
覚悟が、胸の奥で燃えていた。
「これ以上……誰も傷つけさせない!!」
翔馬の身体から、蒼の気が溢れ始める。
その瞬間――
視界が、反転した。
2週間前。
人気のない山中。
無闘と翔馬は向かい合って立っていた。
息は荒く、翔馬の全身は汗だく。
何度もMODEを試し、その度に弾かれてきた。
無闘は腕を組み、少し考えるように言った。
「いいか翔馬、MODEには基本的に二種類ある」
「二種類……?」
「説明するには、まず蒼の気の“基本”からだな」
無闘は地面に指で円を描く。
「蒼の気は、血と同じだ。
心臓をポンプにして、全身を巡る。」
「だから蒼の気は血流のように身体の外側で流すんだ。」
翔馬は頷く。
「で、その流れを変質させるのがMODEだ」
無闘は、一本指を立てる。
「一つ目――MODE反転」
「血の中に蒼の気を混ぜる。
循環効率を極限まで高めて、身体そのものを“改造”する」
「だから無茶ができるし、終わった後はガタガタになる」
次に、もう一本。
「二つ目――MODE終点」
「これは身体を蒼の気と“同化”させる技だ」
無闘の表情が少し曇る。
「身体全部が蒼の気みたいなもんになる。
怪我しても即修復、蒼の気が続く限り無敵」
「……その代わり、終わった瞬間に全部ツケが来る」
翔馬は息を呑む。
「……じゃあ、俺のは?」
無闘は、少し黙った。
そして、翔馬を見る。
「……どっちでもねえ」
「え?」
「反転でも終点でもない。
お前の蒼の気は……なんか変なのが混ざってる。」
無闘は苦笑した。
「マジかよ……」
翔馬も顔を歪める。
「正直、仕組みが分からん」
無闘は肩をすくめる。
「だから名前もない」
「……まあ、無理やり名付けるなら――」
「――MODE何転なんてん、何も野。」
翔馬が、静かに告げた。
瞬間。
光が弾けた。
眩い蒼が、爆発的に広がる。
翔馬の蒼はまるで霧のように周りに広がった。
建物も、地面も、人も――
何一つ壊れない。
蒼の気は、守るように、包み込むように広がっていた。
蒼気が、初めて目を見開く。
「……これは……」
翔馬の身体は、確かに強化されている。
だが、MODE反転のような歪みはなく、
MODE終点のような暴走もない。
無い野の黒蒼とは正反対。
蒼気は、思わず笑った。
「……なるほどな…素晴らしい。」
翔馬は、拳を握る。
「この力で……蒼気、あんたを倒す。」
蒼の光が、さらに澄む。
蒼気は、ゆっくりと構えを取った。
「いい……実にいい」
「なら見せてもらおうか――
その“何転”が、神を止められるかどうかを。」
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