蒼の気を持つ者編

第47話 準備

闘いから、二日後。


 まるで何事もなかったかのように、朝の校門は騒がしく、生徒たちの笑い声が響いていた。


 ――いや。

 何事もなかったわけがない。


 翔馬は、校舎を見上げながら小さく息を吐く。


(……戻ってきた、のか……)


 身体は治っている。

 表向きは、いつも通りに歩ける。


 だが、身体の奥には、まだ確かに残っていた。

 あの90秒。

 命を削った感覚。

 そして、蒼気の存在。


「翔馬!」


 声をかけられ、振り向く。


 エルサだった。


「1週間近くも休むなんてどうしたんだよ!

 連絡もなかったし、心配したぜ!」


「ああ……ちょっと、家の事情で……」


 翔馬は視線を逸らしながら、曖昧に答える。


「嘘つけ!与志野とか田野もいなかったじゃねえか!3人でどこ行ってたんだよ!」


 じっと見つめられ、冷や汗が浮かぶ。


「いや……まあ旅行かな。」


「怪しいなー……」


 エルサは呆れたようにため息をついたが、それ以上は追及しなかった。


「……まぁ戻ってきたならいいけどさ。

 もう居なくなんなよ!」


「……あぁ。」


 教室に入ると、

 いつも通りの席、いつも通りの雑談、いつも通りの授業。


 ――日常。


 だが、翔馬の目には、それがどこか現実味を欠いて見えた。


 昼休み。


 人の少ない場所に、翔馬、与志野、田野が集まっていた。


「当て野たちは?」


 翔馬の問いに、与志野が肩をすくめる。


「もう修行行ったよ。

 “次は負けねえ”ってさ」


 田野が静かに言う。


「……蒼気、また来るよな」


 否定できる者はいなかった。


 あの男は、必ず動く。

 それも、次はもっと大きな形で。


 翔馬は、ゆっくりと口を開く。


「……だからさ」


 全員の視線が集まる。


「俺たちも……強くならないと」


 一瞬、沈黙。


 だが、それはすぐに、確かな意思へと変わった。


「みんなで、訓練しよう」


「蒼気に……次こそ、立ち向かうために」


 田野が少しだけ笑う。


「……きついけど、やるしかないよね」


「うん」


 与志野は拳を握る。


 翔馬は静かに頷いた。


 何気ない教室。

 何気ない放課後。


 だがその裏で――

 再び訪れる“非日常”に備えるための歯車が、確かに回り始めていた。


 その頃――

 翔馬たちが何事もない顔で学校生活を送っている、まさにその時間。


 人の気配が一切ない、どこかの荒れ果てた空間に、無い野は立っていた。


 風が吹き抜けるたび、地面の砂が舞う。


 ――フラッシュバック。


 翔馬の拳。

 光り輝く蒼の気。

 動かなかった自分の身体。

 そして――敗北。


「……チッ」


 無い野は舌打ちし、歯を食いしばる。


(次は……次こそは……!)


 拳を握りしめると、指の隙間から黒蒼が漏れ出した。


「亜里野翔馬………」


 その声には、焦りと、確かな憎悪が混じっていた。


 ――負けを認めてはいない。

 だが、忘れられない。


 あの90秒が、無い野の精神に深く刻み込まれていた。



 一方花野と当て野は、人目のつかない場所で向かい合っていた。


 静かな空間に、蒼の気が揺れる。


「……もう一回」


 花野の声に、当て野は短く頷く。


 次の瞬間、ツルが地面を走り、当て野に迫る。


 当て野の蒼の刃がそれを切り裂いた。


 動きは速く、無駄がない。


(……足りない)


 花野は歯を食いしばる。


(あの時……僕は……守られる側だった……)


「花野」


 当て野が、低く言う。


「焦りすぎるな、そして――止まるな」


「……うん」


 二人は再び構えた。


 次に来る闘いで、後悔しないために。




 そして――無闘とF。


 翔馬と同じように、彼らもまた学校生活に戻っていた。


 授業、昼休み、放課後。


 だが、無闘の意識は常に研ぎ澄まされていた。


(蒼気……来るなら来いよ……)


 校舎裏。


 人気のない通路に足を踏み入れた瞬間――

 空気が、変わる。


 冷たい圧迫感と異質な存在感。


 無闘は足を止め、ゆっくりと振り返った。


 そこに立っていたのは――


「よっ!何してんのこんな所で!」


お菓子を大量に持ったFだった。


「……お前かよ……びびらせんな…」


「何で!私じゃ嫌な訳!?それは違うと思うよ!」


「はいはい……」


無闘はFの持ったお菓子の山に呆れながら言った。


「もう帰ろうぜ、今日も修行だ。」


「NO!今日は無し!面倒くさい!」


「あっそ……」


無闘がため息を吐いた時、ちょうど下校の鐘がなる。


いつ終わるか分からない日常は刻々と過ぎていった。

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