第42話 才覚
蒼黒の爆風が荒野を薙ぎ払った直後――
空気はまだ震えていた。
無闘は地面に叩き伏せられ、
身体を痙攣させたまま起き上がれない。
「……く……そ……動け……ねぇ……!」
当て野も同様だった。
腕は折れ、蒼の気は乱れ、呼吸は荒く、
視界すら定まらない。
「チっ……ここまで……か……」
二人とも“戦闘不能”。
その影で動く人物がいた。
「――っ、二人とも……!」
田野に絶望している暇はなかった。
彼の目の前には、
倒れ込んだまま動かないFの姿。
田野は両手をFに向けながら叫ぶ。
「……クソ……もう少しだ……!」
Fの身体に淡い光が流れ込む。
直接的な攻撃こそ出来ないものの拘束、治癒、防御などあらゆるサポートが可能。
だがそれは充分な蒼の気が祝福者にある場合。
田野は現在、何度もmy only girlfriendを再生成し残された蒼の気は少ない。
だがそれでも――
「……っ……は……」
Fの指が、動いた。
「F!聞こえるか!?」
薄く、だが確かに瞼が震えた。
「……田……野……?」
その声に、田野は心底安心しながら笑った。
「よかった……!間に合った……!」
軽傷は目立つがFの身体は確実に回復していた。
だが戦況は最悪だった。
与志野は倒れた無闘と当て野を見ると、
すぐに翔馬へ叫んだ。
「翔馬!! 二人を連れて逃げよう!!
今の無い野に勝てる奴なんて――誰もいねぇ!!」
だが。
翔馬は動かない。
いや、“聞いていなかった”。
翔馬は荒野の中心で立ち尽くし、
ただ一点を見つめていた。
無い野。
Fが見せた“肉体の変化”。
無闘が説明した“MODEの理”。
それらが脳内で何度も何度も反芻されていた。
(MODE……肉体を作り変え戦闘形態に作り替える技……)
胸の奥が“蒼”で疼く。
まるで、何かが呼び覚まされようとしているかのように。
与志野は翔馬の異変に気づかないまま叫ぶ。
「翔馬!! お前はまだ動ける!だから――」
(……そうか)
翔馬の意識は、
完全に別の方向へ向かっていた。
蒼の気が、足元で“揺れる”。
それは無意識。
ただ共鳴していた。
Fの蒼。
無闘の蒼。
無い野の蒼。
そして――翔馬自身の蒼。
それらが頭の中で“形”を作り始める。
(……俺は……俺の正体は………何だ?)
翔馬の思考は混濁しながらも
一点だけ異常に澄み渡っていた。
無い野は花野の元へ歩み寄る。
花野は大樹を吹き飛ばされて倒れ、
もう立ち上がれない。
無い野は冷淡に言う。
「まずは……お前からだ。」
花野は震える身体で地面を掴む。
「くっ……!!」
無い野の影が覆いかぶさる。
腕が上がり――
そのまま花野を“吸収”しようとしたその瞬間。
無い野は動きを止めた。
「…………?」
彼の背筋を、
“説明不能の違和感”が走った。
視線が自然と、翔馬の方向へ動く。
(なんだ……?)
亜里野翔馬。
無い野が16年間封じ込められてきた肉体。
蒼の気が、彼の足元で“逆巻くように”揺れている。
まるでそこだけ世界が歪み、
空気が震え、
光がねじれているような――
そんな異様な“兆候”。
無い野の眉がわずかに上がる。
(こいつは……つい最近祝福を発現したばかりの雑魚……俺のエネルギー要員……パーツに過ぎない……)
自身と肉体を分けた際、
本来なら消えたはずの“才覚の欠片”。
「お前……」
翔馬の唇が、ゆっくりと動いた。
「……MODE……」
その瞬間、翔馬の全身が蒼に包まれる。
荒野が震え、
砂が舞い、
空気が裂ける。
Fですら見た“あの現象”の初兆候。
無い野は確信する。
(信じられん……こいつ……俺と同じ才を持っている……)
翔馬はまだ完全には目を開けていない。
だが“蒼”が彼の身体にまとわりつき、
まるで“形を作ろうとしている”。
そして――翔馬は、ゆっくりと瞼を開いた。
蒼の気が爆ぜる。
世界が、震える。
無い野は低く呟いた。
「…………偽物が。」
翔馬の瞳に映るのはただ一つ。
“戦う”という意思。
そして――その身体は確かに、
才覚へ足を踏み入れようとしていた。
無い野の瞳が細くすぼまった。
「……あいつ如きが発動できるわけはないが……念のため、か。」
吸収しようと掴んでいた花野を、まるで壊れた玩具を放り捨てるように投げた。
花野の身体が地面に叩きつけられ、砂煙が上がる。
無い野はそのまま方向を変え、迷いなく翔馬へ一直線に踏み込む。
その軌道の途中。
重症だったFを田野が治癒させていた。完全には程遠いが、辛うじて逃れる程度まで回復は終わっている。
「翔馬! 無闘と当て野を連れて逃げるぞ!!」
与志野が叫んだ。
だが――届かない。
翔馬の耳には何も入っていなかった。
翔馬の脳内はただ反復していた。
無い野の“型”。
Fが見せた“MODE”。
そして無闘の言葉。
呼吸の仕方。
蒼の気の溜め方。
筋肉の使い方。
意識の位置。
それらが破片のように翔馬の中で組み上がっていく。
無い野が翔馬へ歩を進める。
翔馬は、脳の奥底が焼け付くような感覚と共に、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。
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