第40話 人格分裂最終決戦

2人の蒼の気が混じり合い弾けた。


次の瞬間。


大気が裂ける音がした。

まるで空そのものが、二人の存在を拒絶しているかのようだった。


無い野の蒼黒が荒野を呑み込み、Fの蒼がその中で静かに脈打つ。

互いの蒼がぶつかり合う前から“世界の側”が悲鳴を上げている。


次の瞬間――。


ドンッ!!!!


ぶつかった、というより“世界が抉れた”。


二人の影は肉体を持つ生物とは思えない速度で交差し、その軌跡に残った蒼黒の線が大地を焦がす。

足場が、衝撃で波のようにうねる。


Fの視界に無い野の拳が迫る。

一撃一撃が音より速く、そして重い。

Fはその拳を手のひら・前腕・肩で受け流し、流した勢いをそのままカウンターへ変換した。


カウンターが無い野の胸部に激突する。 


だが無い野は自身全体を蒼鎧で包み攻撃を無効化していた。


(……攻撃が効かない……集中攻撃で一点にぶち抜くしかないか……!!)


無い野の膝蹴りをFが片手で逸らすと、地面がその衝撃だけで砕け飛んだ。


無い野が低く笑う。


「受け流し……どこまで持つかな!?」


すぐに両腕を振りかぶって蒼黒を噴出させる。

Fの足元が爆ぜたように凹み、蒼黒の衝撃が迫る。


「フン!!!」


Fは紙一重で横回転して避け――

避けた勢いのまま拳を鳩尾へ叩き込む。


バギィン!


空気が割れた。


「………!」


無い野が1歩、後ろへ下がる。

だが顔に痛みはない。ただ楽しげに笑うだけ。


「予想以上だな……Fとか言ったか……面白い!」


無い野の周囲が“蒼黒の嵐”へ変わる。

彼が一歩踏み出すたび、風景が歪んだ。


(……!?見えずら……)


次の瞬間、Fの腹へ拳が刺さる。


ドブッッッ!!!!


Fの体が地面を転がり、土煙が舞い上がった。

だがFは、転がりながら無い野の追撃の位置を読み、受け身を取る。


無い野の拳があった場所――

ほんの0.2秒前までFの頭があった位置だ。


「……なるほど。

 本気で殺しに来たね。」


Fが体勢を整える。


息は荒いが、瞳は冷静。

むしろ“相手の動きに馴染んできた”感すらある。


無い野は舌打ちしながらもご機嫌だった。


「上手く避けるもんだな……だが分かった。

 このまま手数を増やせばお前はいつか崩れる。」


無い野が腕を開き、蒼黒が噴き上がる。


(……!!来る!!本気!!)


その瞬間――

Fの周囲の空気が重くなった。

圧力。恐怖。痛み。全てが混ざった“存在圧”がFの内臓を締め付ける。


ズドドドドドドッ!!!!


嵐のような連撃。

拳、肘、膝、蹴り、肩、頭――

全てが一瞬のうちに殺意の軌跡を描く。


Fは受け流す。


腕で、指先で、足で、体捌きで、呼吸で、歩幅で――

全てを読み、最低限の動きで殺す。


だが“量”が違う。


受け流しても、受け流しても、次の一撃が容赦なく押し寄せる。

Fの腕の皮膚が擦れて裂け、蒼の気に混じり血が飛び散った。


「ぐっ……!」


Fが初めて苦鳴を漏らす。


無い野は笑う。


「ハハッ!!もう見えないか!!?」


更に速度を上げる。

もう完全に視認不可能。

ただ世界が黒い線で裂けていくのが見えるだけ。


無闘はFが押される中ただ立ち尽くすしかなかった。


「クソ……!このままじゃFが……!」


Fの頬に蒼黒の衝撃が掠め、血が飛ぶ。


(……右………左……下……上……下……!!)


Fが拳を構える。


(1秒……1.2秒……0.6秒……1.1秒……0.8秒……!)


次の瞬間。


無い野の拳が真正面から迫る。

普通なら防御が間に合わない距離。


しかしFは微笑む。


「ここでしょ………!!!」


横へスライドし、無い野の肘の角度・肩の入り方・軸足の位置――

全てから最速の逃げ道を割り出した。


拳が空を切る。


無い野の瞳が一瞬だけ見開かれた。


(今のを……避けた……?)


その隙に、Fのカウンター。


「ここ!!」


ゴッ!!!


拳が無い野の脇腹を撃ち抜き、無い野の体がわずかに浮いた。


地面と蒼鎧、その両方がその衝撃で亀裂を走らせる。


観戦していた亜里野達が息を吞んだ。


「当てた……!攻撃が通ってる!」


「嘘だろ……あの無い野相手に……!」


無い野が口角を上げる。


「……いまのは少し効いたぞ。」


そして――

一度距離を取り、深く息を吸った。


無闘が青ざめる。


「おい……嘘だろ……。」


無い野は無闘の声など聞こえていない。


背中から蒼黒が溢れ、髪が逆立ち、皮膚が黒蒼の紋様に染まり、眼が虚空色に変わる。


Fがその気配に震える。


「……これは……!あの野郎一気に決めるつもりだ!」


無い野が口を開く。


「時間食ったな。お前……強かったよ。」


「……!あんたまさか……!」


そして――


「──“Final Form”」


天が割れた。


大気が蒼黒に染まり、視界が震え始める。

無い野は圧倒的な蒼黒の量を一気に“燃やし始めた”。


Fの膝が一瞬、地面へ沈む。


「っ……重……っ……圧やば……!!」


だが、それでも立つ。


「来い……無い野……」


無い野は不気味に優しく微笑んだ。


「……終幕だ。」


次の瞬間。


世界が消えた。


無い野の姿が消え、空間が破れ、蒼黒の裂け目がFへ伸びる。

Fは蒼鎧を全開で構え――


「ッッ!!」


防御が砕ける音がした。


「……!嘘…………」


Fの腕が折れ、肋骨が軋み、臓器が震え、視界が白に染まる。


ズドォォォォォォン!!!!


蒼黒の奔流がFを包み込み、一瞬で体を吹き飛ばした。


地面を何十メートルも転がり、岩壁に叩きつけられ、ようやく止まる。


Fの体はもう動かない。


無闘が叫ぶ。


「F――――ッッ!!!」


翔馬達がボロボロのFに駆け寄る。


「F!生きてるか!返事しろ!」


田野が震える声で呟く。


「F………そんな……。」


無い野は静かにFの元へ歩く。

その歩みには怒りも嘲笑もない。


ただ無機物を見るような、そんな瞳。


Fの前で足を止め、小さく呟く。


「強かったよ。

 人間にしてはな。」


そして顔を上げ、翔馬を見つめる。


「さて……

 次は――お前の番だ、亜里野翔馬。」


世界が凍りついた。

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