第39話 人格分裂決戦7

大地が泣き叫ぶような蒼の奔流が、無い野の周囲で膨れ上がっていく。


亜里野は思わず声を失った。


「な……なんだよ……この気の量……ッ?」


田野が震える。


「………あれは……何なんだ………!?」


無い野の背後で、黒蒼色の渦が蠢く。

聞き慣れた“蒼”とは明らかに別格の圧力――生命を潰し尽くす気配。


そこへ、ちょうどFが駆け込んできた。


「はぁ……はぁ……まに……あっ――」


Fの声が途中で止まる。


無い野の周囲に立つだけで、呼吸が止まりそうな重圧。


「……これは……やばいね。」


Fの顔からいつものふざけた笑みが完全に消えた。

その眼が“本能的恐怖”を訴えている。


次に無闘が木々をなぎ倒しながら飛び込んできた。


「おい!!お前ら無事――」


声の途中で、無闘の足がピタリと止まる。


無い野の体に纏う異質な蒼黒。

その“質”も“密度”も、たった数日前の修行時を遥かに上回っていた。


無闘は喉を震わせる。


「……嘘だろ……あの時より……完全に“仕上がって”やがる……!」


無い野がゆっくりと顔を上げる。


瞳は無色。

まるで世界そのものを拒絶するような虚無。


「――ッ……!!行くぞ……!!」


瞬間、世界が反転した。


蒼が爆ぜ、大地が歪む。


無い野の体が“変わり始める”。


蒼の気が黒へ、そして黒蒼へ。

次に“存在そのものがひっくり返るような”変質。


無闘が息を呑む。


「あれは……反転じゃねえ……!!」


無い野の声が響く。


「MODE 終点……!!!」


大気が悲鳴をあげた。


蒼と闇が絡み合い、無い野の肉体が“異形”へと進化する。

蒼の気が暴走するのではなく——完全に調律されている。


それは“才能の怪物”が辿り着いた領域。


MODE終点・マジキチ野。


亜里野は膝が震えた。


「な……んだよ……あれ……勝てる訳……ねぇだろ……」


花野が叫ぶ。


「翔馬君!!下がって!!あの圧……!!近づくだけでやばい!!」


無闘が歯を食いしばる。


「クソッ……無い野……まさかこんなに………!!」


絶望の影が亜里野達を飲み込もうとした、その時――


Fが一歩、前に出た。


「……みんな。ちょっと隠れてて。」


その声は震えていなかった。

静かで、覚悟を決めた声だった。


無闘が叫ぶ。


「やめろ!!F!!アイツの蒼の気の総量が見えねえのか!!」


しかしFは振り返らない。


「……違うでしょ無闘。

 今ここで私がやらないと……全員死ぬ。」


Fが無い野の正面に立つ。


「否定じゃなくて応援してよ……無闘。」


無い野は異質なオーラを放ちながらFを見下ろした。


「この気を見て尚立ち向かうか………強いな。」


轟音が走る。


だが――

Fは、その“殺気の塊”を真正面から受け止めた。


「はあ?全然怖く無いし。」


Fの瞳から“蒼”が立ち上がる。


無闘が凍り付いた。


「F……お前……まさか……!」


Fが深く息を吸い――

静かに、しかし確実に言い放つ。


「――“MODE反転”」


蒼がFを包み込む。


翔馬達はその変貌を見届けるしかなかった。


「無闘……!!何なんだよ……あの技……!!」


「MODE……肉体を作り変え戦闘形態に作り替える技……!Fは使い切るつもりだ……!!ここで!!」


Fが変貌を遂げる。


「全ての力を!!」


肯定者 F。


無い野がわずかに目を細めた。


「なるほど…お前も多少の才は持ち合わせているようだな……楽しめそうだ。」


Fは無い野の真っ直ぐ前に立ったまま、笑った。


「そうだね……楽しませてあげる。」


共に才を持つ者のシンパシー。


2人の蒼の気が混じり合い弾けた。

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