第38話 人格分裂決戦6

多い死を叩き潰した直後。

無闘はゆっくりと着地し、荒い息を吐いた。


「……ハァ……ハァ……くそ……反転、やっぱり負荷デカすぎる……」


蒼黒の気がゆっくりと剥がれ落ち、色が通常の蒼に戻っていく。


MODE反転──解除。


無闘の足元がふらつく。


「……ちっ……体バキバキだ……本当に最後の切り札だな、これ……」


爆煙の中、多い死の倒れた身体があった。

岩化が解け始め、傷だらけのまま、息がかすかに残っている。


無闘はゆっくりと歩み寄り、見下ろす。


すると――


多い死がかすかに笑った。


「……まさか……だ。

 人間に……負けるとはな……」


無闘は膝に手をついて深呼吸しながら言う。


「まだしゃべれんのかよ……。

 まあ、安心しろ。殺す気はねえ。」


多い死の瞳は、敗北の色ではなかった。

むしろどこか、清々しい諦観。


「……惜しいな……無闘。

 確かに……君は天才だ……」


無闘は眉をひそめる。


「なにが言いてえ……?」


多い死は、静かに続けた。


「だが──

 無い野には敵わない。」


無闘の表情が固まる。


「……は?」


多い死は血を吐きながらも、声を絞る。


「……君は“努力の天才”だが……

 無い野は“才能の化け物”だ……」


無闘はゆっくりと立ち上がる。


「……どういう意味だよ。」


多い死は薄く笑った。


「……無い野……あいつを解放したのは我々だが…封印されていて良かったと思ったよ……」


無闘の瞳が大きく見開かれる。


「……何なんだよ?あいつは……」


多い死は続ける。


「普通なら……何十年もかかる……

 神界人でも限られた者しか扱えない段階を……

 あいつは半日だ。

 ハハ……笑えてくる……。」


無闘は唇を噛む。


(無い野が……まさか……

 いや……あいつなら……あり得る……)


多い死は最後にひと息だけ笑った。


「……早く仲間の元に行ったほうがいいぞ……無闘……

 あいつは……もうすぐ……本気を出す……」


無闘は多い死に背を向ける。


無闘に駆け寄ろうとするFに無闘は叫んだ。


「F!!早く亜里野達の所へ!!あいつらがやべぇ!!」


「オッケー!!」


去ろうとした無闘に、薄れゆく声が届く。


「……私達が生み出したのは……救世主ではなく……怪物だ……。」


無闘は立ち止まり、重く息を飲む。


「…………」


そして走り出した。


「クソ……まさか……

 本当に……あいつが“そこ”まで行ってたなんて……!」


無闘の足が山道を蹴り、蒼が奔る。


その顔には──明らかな焦り。


「急がねぇと……!!

 翔馬たちが……死ぬ……!!」



──決戦の3日前。


乾いた風が砂を巻き上げる。

人の気配が一切ない荒野の中央に、二つの影が立っていた。


一人は蒼気。

そしてもう一人は、静かに腕を組む無い野。


蒼気が口を開く。


「ここなら誰にも見つからんし、地形を多少壊しても問題はない。

 ……無い野。お前に奥義を教える。」


無い野は興味なさそうに首を傾ける。


「………。」


蒼気は深く息を吸った。


「まず一つ目──MODEモード。

 これは蒼の気を“別相”へと反転させ肉体を反転させた蒼の気に適応できる体に作り替える技。

 代償が大きい。

 使用中は身体能力の限界突破、蒼の気の無制限解放…文字通り無双できるが……終わった後は戦闘が困難になる。」


無い野は無表情のまま聞いている。


蒼気は続けた。


「そして二つ目──Final Formファイナルフォーム。

 これは蒼の気の最終形態。肉体に存在する蒼の気を一気に使い切る代わりに短時間莫大な力を手にすることができる技だ。

 使用すればお前の肉体は、神界人をも凌ぐ“本質”に到達する。」


無い野が小さく笑う。


「へぇ…なるほどな。」


蒼気の表情は険しい。


「強いどころではない。

 使用中はほぼ無敵。

 だが使用後……お前はしばらく立つことすらできん。

 命を削る技だ。

 そして──才能ある者にしか扱えない。」


無い野は砂をつま先で蹴りながら聞いている。


蒼気はさらに言う。


「お前は確かに天才だが……

 この二つは“別格”だ。

 練習が必要だし、習得には時間がかかる。

 ……まず手順だけ覚えろ。

 翔馬達を吸収した後、地道に修行すれば──」


間を置いてから蒼気は続けた。


「半年もあれば習得できるだろう。」


無い野は軽くまばたきした。


「半年?」


蒼気は頷く。


「そうだ。普通の神界人なら十年はかかるがお前なら──」


その時だった。


無い野の雰囲気が一瞬で変わる。


蒼が、荒野の中心に凝縮し始めた。


蒼気が目を見開く。


「……無い野?」


無い野は右手を軽く握った。


「──こうか?」


次の瞬間。


大地が“裏返る”ように蒼の気が爆ぜた。


荒野全域が黒蒼色に染まり、

無い野の背後に“異形の影”が浮かぶ。


蒼気が震える声を漏らす。


「ま、待て……!!まさかお前……!!

 今のは──MODE反転……!?」


だが無い野の変化は止まらなかった。


“蒼の気”に“黒い圧”が混ざり始め、

気配が完全に“別物”へと変質する。


蒼気は喉を震わせた。


「やめろ……それ以上は本当に危険だ……!!

 まだ無理なはずだ……!!」


しかし無い野は静かに息を吐いた。


その口元に、狂気と才能が混ざった笑み。


「“Final Form”──こうか?」


世界が揺れた。


大気が震える。


無い野の身体が“完成系”へと切り替わる。


肉体が、圧が、存在そのものが──

神界人すら上回る異質な領域へ。


蒼気は驚愕する。


「ふははは……!!期待通りだ……!

 聞いただけで……両方をマスターした……」


無い野は静かに変身を解いた。


「ふー……まぁ、こんなもんか。」


蒼気は最早笑うしかなかった。


(やはり……これは……

 “本物の怪物”……!これなら……!!奴なら神界を思い通りにできる!!)


「凄いぞ無い野!これが私の望んだ世界!フハハハハ!」


無い野は蒼気の表情を見て、軽く首を傾ける。


「まあいい、次は翔馬達を吸収した後に本格的に使ってみようか。」

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