第37話 人格分裂決戦5

無闘はゆっくり拳を握る。


「……あーくそ…流石にここまで強いのは想定外だったわ。」


「フフ……ようやく分かったかい?人間と神界人の格の違いが。」


「……まさかこんな所であれを使うことになるとは思わなかったぜ。」


多い死は鼻で笑う。


「なるほど、まだ分かっていない訳だ…。

 いいよ、見せてごらん。

 最後の機会だ。」


「本当は使いたくねえんだよ……かなり蒼の気消費しちまうし…師匠からもなるべく使うなって言われてるしよ。」


蒼い気が無闘の周囲で暴れ出す。


いつもの無闘とは違う。


“反転”するように、黒みを帯びていく。


多い死が初めて、警戒の色を見せる。


「………反転……?まさかお前……」


無闘は静かに息を吐いた。


「神界人だけの特許じゃねえぞ……!

 見せてやるよ──」


その身から蒼い波動が爆発する。


「MODO反転!!!」


肉体が軋み、蒼気が“逆回転”するように螺旋を描く。


無闘の瞳が鋭く光る。


「MODO反転──決闘けっとう。」


「…………馬鹿な。その技は……神界人でもごく一部しか使えない……何故人間が……!」


「悪いな…俺、才能の塊なんだわ。」


たった一歩踏み出しただけで、


岩牢の床が──爆ぜた。


バチィィィィンッ!!!


多い死が目を細める。


「──ッ…!ありえない…!」


無闘の姿が消えた。


次の瞬間──


ドガァッッッ!!!!


多い死の胸に膝蹴りがぶち込まれる。


「っ……!?」


岩化した身体が大きく凹む。


「は……っや……ッ!!?」


無闘はすでに背後に回り込んでいる。


「どうだ?人間様の膝蹴りはよ?」


拳が振り下ろされる。


多い死は咄嗟に岩壁を生成して防御するが──


無闘の拳が壁ごと粉砕。


速度も破壊力も、さっきの数倍。


多い死が叫ぶ。


「待っ──!」


「うるせえぇえぇ!!!!!」


拳が雨のように降り注ぐ。


多い死が岩で防御しても、

次の一撃で粉砕される。


動揺が表情に浮かび始めた。


「ば……バカな……!!……押されてる……!?

 人間に……!!」


無闘の蹴りが多い死の腹を撃ち抜き、

地面ごと吹き飛ばす。


無闘は獣のように睨む。


「地形いじりも岩も関係ねぇ……

 “力”で上回りゃ全部砕けるんだよ!!」


多い死は初めて、

“焦り”の色を見せた。


決闘の圧倒的な速度と破壊力に押され、

多い死は岩壁を乱れた呼吸で連発しながら後退していた。


「っ…!!ありえん……!ありえるはずがない!!どうやってこの技を!!」


無闘は答えず、ただ迫る。


多い死の視線が揺れる。


次の瞬間、彼は空を見上げた。


「……なら……もう……手加減はしない!」


冷静さを取り戻したように、

多い死は両腕を天に向けて広げた。


大地が震える。


空気が震える。


そして──


「死ね!!人間!!」


天を割った。


雲海を突き破り、

空の彼方に“影”が生まれる。


それは山の数倍はある“巨大隕石”。

まるで世界の終わり。


遠くの街の一般人までもが空を見上げた。


「な、なにあれ……!?」

「でか……でかすぎる……!!」

「落ちてくるのか!?逃げろ!!」


誰もが空の異変に気づき、恐怖を覚える。


同じ頃、無い野と戦う亜里野たちの頭上にも影が落ちた。


「……は?」

「ちょ、待て待て待て……あれ、ヤバくね……?」

「何あれ……夢じゃないよな……?」


翔馬、与志野、田野は信じられない目で頭上にある隕石を見上げた。


「範囲が広すぎる……!!俺達もやばい!!」


当て野が蒼の気を感じ取り、顔を青ざめさせる。


隕石の影は、

このままでは戦場どころか山ごと飲み込む。


多い死は静かに言う。


「……これが落ちれば……

 君も、仲間も、……全部一括で処理できる。」


無闘は無言で空を見上げる。


その肩から吹き出す蒼の気は、

もう気ではなく──獣の咆哮そのものだった。


草陰から出てきたFが無闘に問う。


「無闘……あのデカさいける?」


「……当たり前だ。」


無闘が足を踏みしめた。


「師匠ならこのくらい……何ともない!!」


ドンッッ!!!


大地が砕け、

“反転”した蒼の気が爆発する。


多い死の視界から消えた。


「…!?どこに……!!」


──空だった。


無闘は、隕石へ向かって一直線に飛んでいた。


多い死の瞳が広がる。


「……な……!?まさか……!!!」


隕石が落ちてくる。


無闘が迫る。


世界が揺れた。


無闘の拳が蒼黒く輝く。


「お前の岩ぶっ壊すなんざ──」


渾身の咆哮。


「クッキー割るみてえに!!簡単だぜ!!!」


ドッッッッッ!!!


天が割れた。


隕石が、

山のような巨塊が──

粉々に砕け散った。


破片が光の雨となって空に舞う。


地上から見上げていた一般人は息を呑む。


「……うそ……だろ……?」

「ぶっ壊れたぞ……何なんだあれ!?」

「自然現象なのか……?」


多い死も同じ顔をしていた。


「……これが……

 人間……?嘘だ……ありえない……」


隕石を砕き、無闘が急降下する。


衝撃波をまといながら真っ逆さまに。


多い死は全蒼の気を解放し、

地面から“岩の軍勢”を生み出す。


その全てが無闘へ向かい襲いかかる。


「来いよ!!!」

無闘は吠える。


拳の軌跡だけで巨兵が砕け、

蹴り一発で岩壁が粉と化す。


Fは天空から落下してくる落石を破壊しながらその様子を見ていた。


「うわー…なんかもう無闘が悪役っぽいね!」


多い死の声が震える。


「グッ……!!俺は……!!俺は元7天神だ……!!俺が……!!神が人間に負けるなど!!あってはならない!!」


だが無闘は止まらない。


「あるんだなそれがぁ!!!」


無闘が多い死の目前まで迫る。


多い死は全岩を集中させ、

自身の前に“最硬岩壁”を生成した。


「これなら……ッ!!」


だが──


無闘はその壁に手を当てただけで、

雷鳴のように砕き、突破した。


「は……?」


「おらぁぁぁあ!!!」


特大の蒼の気を纏った渾身の右ストレート。


「ガハッッッ!!!」


ドゴォォォォッッ!!!


多い死の身体が大きくひしゃげ、

岩牢ごと吹き飛び、

遥か後方の岩山へ叩きつけられた。


爆煙。


静寂。


多い死の身体は動かない。


無闘は荒い息をつきながら呟いた。


「……フゥ……Fの野郎……自分だけサボりやがって……。」

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