第36話 人格分裂決戦4
岩の嵐の中心で、
多い死は息ひとつ乱していなかった。
無闘は額から汗を流しながらも、拳を突き出す。
「まずいなこれは……受け流し続けるにも限度があるぞ…!」」
多い死は淡々と返す。
「……意外と粘るね…!たかが人間がここまで動けるとは…驚いたよ…!」
足元の地面が、ゴゴゴッ……と盛り上がる。
無闘は即座に察し、跳び退く。
だが──
「甘いね、後ろだ。」
多い死の声と同時に、
無闘の背後で“岩の腕”が生えるように伸び──
バギィッ!!!
無闘の背中を捕らえようと振り下ろされた。
「くッ……!」
ギリギリで受け流す無闘。
だが衝撃で大きく吹き飛ばされる。
その瞬間──
Fが上空から迫る。
「うりゃああああああ!!」
高速回転しながらの回し蹴り。
多い死は視線だけを向け、静かに手をかざす。
「やんちゃな子だ。」
石壁が瞬間生成され、Fの脚を受け止めた。
が、
Fも負けてはいない。
「がぁッ!!」
全身の筋力を爆発させ、
壁を粉砕すると同時に多い死へ踏み込む。
拳を突き出す──!
「いいね。」
多い死がその拳を右手で受け止めた。
“岩化”した右腕。
ガキィィィィッ!!
衝撃が散る。
Fの拳が止まり、多い死の右腕にヒビが入った次の瞬間。
多い死の左腕がうねるように伸び、
岩の棘となってFの腹へ突き刺さる勢いで迫る。
「ぐあっ──!!」
寸前で無闘が割って入り、拳で軌道をそらした。
「F!下がれ!一度立て直すぞ!」
Fは息を荒げながら後退する。
「う〜……なんか全然手応え無いんだけどー。」
無闘は睨みつける。
「地形全部を身体みたいに扱ってやがる……やっぱ神界人はレベルがちげえな…!」
多い死が歩み出す。
一歩踏むたびに、大地が震えた。
「鬼ごっこは終わりだよ。」
パチン、と指を鳴らす。
その瞬間──
「岩牢。」
周囲百メートルが“岩の塔”に囲まれ、
空は高く閉ざされた。
完全な閉鎖空間。
Fが叫ぶ。
「なにこれ!?出られないじゃん!!ずる!!」
多い死は冷たく笑む。
「土葬してあげるよ。」
無闘は拳を構える。
「……この強さ……お前7天神か?」
「ご名答、まあ元だけどね。」
「やっぱりか…!光栄だな。
元とはいえ神界の精鋭部隊と戦えるなんてよ…!」
「戦える……?ハハッ、驕りだね。」
そして──
多い死の両腕から“岩の刃”が十数本、扇状に展開した。
「これは戦いじゃない、処刑だよ。」
刃が一斉に射出される。
無闘とFは同時に走り出した。
「こっちだF!!」
「まっかせろ!!!」
岩の塔の中で、三者の超高速の殺し合いが始まった。
岩牢の内部が激しく揺れる。
多い死が静かに指を払った。
「鬼ごっこは終わりだと言ったろ。」
次の瞬間──
「墓石。」
頭上に再び隕石が生成される。
「うわっ!!」
Fが叫び、無闘が即座に指示する。
「壊してる暇ねえ!!受け流せ!!上も足元も来るぞ!」
ドォォォンッ!!!
隕石が落ちた衝撃で、
岩牢全体が波のようにうねり地震のような振動が走る。
地面が裂け、巨大な岩壁が噴出。
同時に地面の割れ目から岩が槍のように伸びてくる。
Fは跳びまくりながら悲鳴を上げる。
「ちょッ!?下からも横からもとか反則!!それは違うよ!!」
無闘は息を荒げながらも拳で砕き続ける。
「クソッ……!こいつ……!」
多い死は全く動かず、
まるで“大地そのもの”として攻撃してくる。
淡々と呟く。
「大丈夫かい?さっきから防戦一方だよ。」
その語り口は変わらず冷静で、静かで、淡々。
──その瞬間。
Fが岩線をギリギリで避けながら多い死へ突撃する。
「違う!!私が攻撃するからぁ!!」
渾身のストレート。
拳が多い死の顔面を捕らえ──
ガンッ!!!
「──え?」
音が軽い。
多い死が微動だにしない。
次の瞬間、拳が砕けたように跳ね返される。
「え、石……?全部、石!?」
無闘が叫ぶ。
「F、下がれッ──!」
だが遅かった。
多い死の身体が“ひび割れ”落ちていく。
空っぽの殻。
「なっ……」
本体の声が、足元から。
「……そこだよ。」
地面が裂け、
本物の多い死が背後から現れた。
Fの腹に、岩化した腕が深々と入る。
「ぐっ……!!!?」
Fが弾かれたように吹き飛ぶ。
10メートル以上跳ね飛び、岩壁に叩きつけられる。
無闘が叫ぶ。
「F!!」
多い死は肩の埃を払いながら言う。
「……ちょっと期待したけど。
やっぱり、大したことなかったね。」
冷たい目。
無闘はゆっくり拳を握る。
「……あーくそ…流石にここまで強いのは想定外だったわ。」
「フフ……ようやく分かったかい?人間と神界人の格の違いが。」
「……まさかこんな所であれを使うことになるとは思わなかったぜ。」
多い死は鼻で笑う。
「なるほど、まだ分かっていない訳だ…。
いいよ、見せてごらん。
最後の機会だ。」
「本当は使いたくねえんだよ……かなり蒼の気消費しちまうし…師匠からもなるべく使うなって言われてるしよ。」
蒼い気が無闘の周囲で暴れ出す。
いつもの無闘とは違う。
“反転”するように、黒みを帯びていく。
多い死が初めて、警戒の色を見せる。
「………反転……?まさかお前……」
無闘は静かに息を吐いた。
「神界人だけの特許じゃねえぞ……!
見せてやるよ──」
その身から蒼い波動が爆発する。
「MODE反転!!!」
肉体が軋み、蒼気が“逆回転”するように螺旋を描く。
無闘の瞳が鋭く光る。
「MODE反転──決闘けっとう。」
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