第30話 襲来
亜里野達が修行を始めてから早2日。
山奥の修行場の裏。
「結構慣れてきたなお前ら。」
無闘が鍛錬する亜里野達に向けて続ける。
与志野はそれに対し不満そうな顔をした。
「それにしてもよ…Fの奴…なんかズルくねえか?あいつ一人だけ学校行きやがって。」
無闘が失笑する。
「まあ…あいつのアドバイスは抽象的すぎてよく分かんねえだろ。
それに後10日休んだら留年の危機なんだよあいつ。」
「まだ1学期だぞ……?大丈夫か?」
翔馬が不安そうに呟いた。
その時。
草木を焼き焦がすような凶悪な気配が近づいていた。
「……ん?」
無闘がピタリと動きを止める。
亜里野も何かを感じたように辺りを見回した。
「……おい、翔馬。
気づいてるか?」
翔馬は額に汗を浮かべた。
「……来る。
なんかが……」
与志野が震えた声で言う。
「これ……人の気じゃない……」
田野は喉を鳴らす。
「まさか……亜里野の……?」
次の瞬間。
森の奥から、血の匂いをまとった“影”が姿を現した。
目だけが狂気に濡れた笑みを浮かべている。
その口がゆっくりと開いた。
「────見つけたぜぇ……
主人格さんよぉ………。」
森の空気が、音を立てて凍った。
その足取りは静かだが、ただ歩くだけで地面が黒く枯れていく。
まるで歩く災厄だった。
「……誰だ……お前……。」
「クク…初めまして主人格さん、俺は皆殺死野。
お前を吸収しに来た。」
翔馬の胸がドクンと跳ねる。
(コイツ……俺の中にいた……?
こんな、化け物みたいな奴が……?てか吸収って…)
「その様子……どうやら俺が一番乗りみたいだなぁ?ラッキーだぜ。」
皆殺死野の瞳は完全な殺意だけで満ちている。
言葉すら理性ではなく衝動。
無闘が前に出た。
「下がれ、翔馬。」
「けど──」
「アイツは今のお前じゃ一瞬で殺される。」
どうしようもない現実を突きつける声音。
皆殺死野が笑い出した。
「クク……ククク……ただの人間が……
俺の前に立つ気かよ?」
瞬間、地面が爆ぜた。
皆殺死野の身体から噴き出す蒼の気は、
まるで“爆発の連続”だった。
空気が吹き飛ぶ。
周囲の木が根ごと裂け、斜面が崩れる。
「なっ…何だよ…!これ……!!」
与志野が叫びそうになるのを必死に飲み込む。
「抹殺斗とか…YOU diedとか…そんな次元じゃない…!」
田野はその場で膝をつきかけた。
ただ一人無闘は冷静に告げる。
「……強いな、お前。」
(重すぎる……!
蒼の気の圧だけで……呼吸が……!)
翔馬は殺意の塊のような蒼の気に身震いする。
「馬鹿が……」
皆殺死野は姿を消した。
──違う。
速すぎて、目で追えないだけだ。
「死ねッッッ!!!!」
真横。
突如として生まれた影が無闘の首を狙う。
拳の周りには刃のような蒼が渦巻く。
直撃すれば首が吹き飛ぶ一撃。
だが。
無闘はゆっくりと手を上げただけだった。
バチィンッ!!!
皆殺死野の蒼拳が弾かれ、
衝撃がそのまま逆流して皆殺死野自身の腕に走る。
「がっ……!?」
骨が軋む音が森に響いた。
無闘は目を細めた。
「強いけど…お前、雑すぎだよ。
流れが全部一直線で、読みやすい。」
「へぇ……じゃあこれでもか!!?」
蒼い残像が五本、十本、いや百本にも伸びる。
皆殺死野は“走る”という次元ではなく、
もはや“瞬間移動に近い速度”で無闘へ迫った。
蒼の気を纏った拳が、
雷のような連撃となって無闘へ叩き込まれる。
右。
左。
背後。
喉元。
心臓。
側頭部。
その全部を──
無闘は 最小限のわずかな体の傾きだけで避けた。
一歩も動かず。
腕すら上げず。
顔も変えず。
ただほんの1センチ、角度を変えるだけで
皆殺死野の攻撃はすべて空を斬る。
「チッ……!」
皆殺死野が苛立った声を漏らす。
「……避けるのだけは上手いなァ、テメェ……!」
無闘は肩一つ動かさず言う。
「まあな、俺にはお前の動きが見える。」
その言葉が火種になった。
皆殺死野の蒼気が一気に膨張し、
周囲の木々が蒼色に染まり、瞬時に枯れる。
「吸収の邪魔してんじゃねえよ……!さっさと消えろ!!」
ドンッ!!!
皆殺死野の身体が霧のように消えた。
一瞬後、無闘の目の前で爆発するかのように出現し、
蒼の爪をまき散らして襲いかかる。
速度は先ほどの倍以上。
大地がえぐれ、森が悲鳴を上げる。
だが──
無闘の手がわずかに動いた。
皆殺死野の爪を“受け流した”。
触れず、押さず、殴らず。
蒼の気の流れだけを察知し、
その流れを横へ撫でるように逸らす。
すると皆殺死野の身体は勝手に前に倒れ、
振り抜いた腕は逆方向へ弾かれバランスを崩した。
「なっ──!?」
皆殺死野は唸り声をあげ後方へ跳ぶ。
だが──その軌道も読まれていた。
無闘の足が軽く地面を踏む。
ただそれだけなのに、
皆殺死野の身体が勝手に“吹き飛んだ”。
「……!?
触ってねぇのに……!?」
翔馬は震えながら見ていた。
(すげえ……あん時の抹殺斗みたいだ……相手の動きを完全に読んでる……)
皆殺死野は蒼の気をさらに濃く纏い、
周囲の木々が蒼色に変色して枯れ落ちていく。
「オオオオアアアアアア!!!!」
地面を拳ごと砕きながら突進する。
動きがまるで四脚の獣。
速さも、重量も、人間のものじゃない。
蒼の気の爪が連撃となり無闘を切り裂こうと迫る。
右から、左から、背後から、上から。
(見えない……!
全部同時に来てるようにしか感じられない!!)
だが無闘は、その全てを。
──指先と手のひらで受け流す。
パンッ、パンッ、バンッ、バンッ!!
弾くたびに皆殺死野に衝撃が返り、
彼の身体がじわじわと壊れていく。
腕の肉が裂け、蒼の気が暴走し、
血を撒き散らしながらも皆殺死野は止まらない。
「クソ……が……!!!
テメェ何もんだよ!!」
「お前がさっき言った通りだ。」
無闘は淡々と告げた。
「ただの人間だよ。」
皆殺死野の動きが完全に止まった。
理解が追いつかない。
「──ッ……!テメェ……!」
無闘は肩を回し、わざと大きな音を鳴らした。
「お前の蒼の気は攻撃に全振りしてて、防御がゼロ。
だからカウンター特化の俺との相性が──」
無闘は笑った。
「最悪なんだよ。」
皆殺死野の顔が歪む。
「邪魔すんじゃねえぇぇぇ!!!」
風が止まる。
森が静まる。
皆殺死野は叫び声と共に最後の突進を放った。
「グォォォォォォォォ!!!!!」
無闘は一歩踏み出し、
皆殺死野の拳にそっと触れる。
その瞬間。
蒼の流れが全て反転した。
全身の蒼が逆流し、内側から破裂するように暴れ狂う。
「がッッあああああああああああああああああ!!!」
皆殺死野は地面を転がり、血を吐きながら木に叩きつけられた。
無闘は冷たく言い捨てた。
「──終わりだ。」
皆殺死野は立ち上がろうともがく。
だが脚が震え、蒼の気は暴走したまま制御不能。
カウンターを重ねられすぎた。
もはや戦えない。
翔馬は拳を握りしめた。
(蒼の気や圧は圧倒的にあいつの方が上だった…でも…技術だけで……!)
無闘は皆殺死野へ歩きながら言った。
「さて。まあとりあえず……亜里野に近づく目的とか…その他もろもろ…知ってる事教えて貰おうか?」
皆殺死野がボロボロの身体で後ずさる。
「グッ……クソが……!」
無闘が歩み寄るたび、皆殺死野の肩がビクリと震えた。
蒼の気はひび割れたガラスのように不安定で、
今にも暴走して自壊しかけている。
「……終わりだ。」
無闘は皆殺死野の頭を片手で掴もうと手を伸ばす。
そのとき――
「やめておけよ、無闘。」
風も気配もなかった。
「………!?」
影が一つ、無闘と皆殺死野の中間に“突然”立っていた。
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