第29話 6人の人格達

山奥の修行場にて、無闘は三人の前に立ち、腕を組んだ。


「まずは“蒼の気の基本”だ。いいか、蒼の気は……心臓から“血の流れ”と同じように巡らせる。それが基本中の基本。」


翔馬が深く呼吸し、胸の中心に集中する。


「血の流れ……と同じ……?」


「あぁ。蒼の気は《蒼脈》って呼ばれる流れを作る。

 お前らはまだ暴れさせすぎてる。整えて流すんだ。」


無闘は手を振り、地面から薄い蒼色の膜を立ち上げた。


「次に教えるのが《蒼鎧》。

 基本な“蒼の気の防御”だ。

 あれは蒼脈を攻撃を喰らう箇所一点に集中させ、防御する。」


翔馬は驚きを隠せない。


(…蒼鎧……抹殺斗がやっていた……)


与志野と田野も真剣な表情で見入った。


無闘は肩を回し、


「まずは蒼の気を弱く流す。

 そのあと“皮膚の上で止める”練習をする。

 順番間違えると暴走するから気ぃつけろ。

言っとくけど今まで暴走しなかったのは奇跡だぞ。」


三人はごくりと唾を飲む。


—その頃。


どこか、人の気配のない民家。


無い野と蒼気が背を向けて立ち、ゆっくりと会話していた。


お茶を飲みながら蒼気が淡々と告げる。


「……無い野。

 お前……力が落ちているな。

 “分裂”した影響が大きい。」


無い野は笑った。


「分裂すりゃ、そりゃ弱くなるさ。

 簡単な話だろ。」


蒼い気配が彼の足元で揺れる。


「戦闘不能にした“人格”を吸収すりゃ、

 俺は元通り……いや、それ以上に戻る。」


蒼気は眉をひそめた。


「あまり派手にやり過ぎるなよ。

神界の連中に気づかれる。」


無い野は楽しげに言った。


「これは元々……俺の“祝福”なんだよ。

 “多重人格”。

 そして一つ一つの人格に──ひとつずつ祝福がある。」


蒼気の表情が強張る。


「……まさか……」


無い野は指を折りながら告げた。


「まず偽の主人格double stepの“亜里野翔馬”。

 そして本来の主人格多重人格の俺“無い野”。

 《sniper》の当て野。

 《Flower Garden》の花野。

 《DREAM》の夢野。

 そして……《殺意》の皆殺死野。」


蒼気の呼吸が一瞬止まった。


無い野は口元だけで笑う。


「この中でいちばん“吸収しやすい”のは――」


無い野は愉快そうに囁いた。


「──あいつ」



白い天井がぼやける。


抹殺斗はゆっくりと目を開き、

自分がベッドにいることに気づいた。


「……どこだ……ここは……」


動こうとするたび、点滴が揺れ、痛みが身体を刺す。


ドアが開いた。


Fがコンビニ袋を片手に入ってきた。


「あ、起きた? 死んだかと思ったよ。」


「……否定者……Fか。

止めでも刺しに来たのか。」


「見舞いだよ。

 あと無闘から伝言。翔馬くんと協力してほしいだって。」


抹殺斗の表情が固まる。


「……は?」


Fはイスに座り、袋からバナナを取り出した。

そしてむしゃむしゃと食べ始める。


(俺のじゃないのか……)


「君の蒼の気のコントロールは、あの学年でもトップクラスらしいよ。

 だから翔馬くんと一緒に──」


「断る。」


抹殺斗は食い気味に拒絶した。


「コントロールがトップクラス?笑わせるなよ…じゃあ何で俺はこんな所で包帯だらけで寝かされてるんだ?」


「え……弱いから?」


抹殺斗が舌打ちする。


「……格の違いってやつを見せつけられたよ。

もう俺は戦わない。」


Fはため息をつき、コンビニ袋をベッドの横に置いた。


「それは違うと思うけどなー……まあ気が変わったら言ってね!」


そう言い残し、Fは病室を出る。


ドアの閉まる音がやけに重く響いた。


抹殺斗は天井を見上げたまま、拳を握る力すら失っていた。


「……飛んだ勘違いだったな。」


呟きは誰にも聞こえない。


蒼の気の才能を持ちながら、

その“重さ”に最初に潰れた少年。


その弱さも強さも、誰にも理解されなかった。

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