第27話 チーム

薄暗い廃工場。

静寂の中、田野の祝福my only girlfriendが淡く光っていた。


翔馬の呼吸がゆっくりと整い──

閉じていた瞼が、震え、ゆっくりと開く。


「……ここは……?」


与志野がほっとした顔で駆け寄る。


「翔馬!良かった……!!」


田野も汗を拭いながら安堵の笑みを見せた。


「なんとか……治ったみたいだな。」


翔馬は状況を掴めず、周囲をきょろきょろ見回し、

そして──


「………え?」


目が固まった。


その視線の先。

廃工場の壁にもたれるようにして立つ、二つの影。


無闘。


そして、否定者F。


「……誰だ……お前ら……」


翔馬が身構えようとすると、無闘は両手を挙げて笑った。


「まぁ落ち着けよ。

 別に戦いに来たわけじゃねぇ。」


Fも慌てて手を振る。


「そう!違うよ!違うから!

 敵意ゼロ!ほんとにゼロ!!」


翔馬はさらに混乱したように眉をひそめた。


「……いや待て、あんた……この前自転車でぶつかった……」


「え、お前ぶつかったの?なんか迷惑かけてねえよな?」

無闘は面倒くさそうに首を鳴らす。


Fは笑顔で答えた。


「え?ぶつかってないよ!」


翔馬の顔が歪む。


「それで…あんたらは何しに来たんだ?」


「あーそうだ、初めまして。

俺は無闘。そんでこっちはF。

お前らに協力してもらいに来たんだ。」


「…………は?無闘……それにFって……何野四天王の……?協力?」


理解の範疇から外れすぎていて、言葉が出ない。


与志野が小さく息を飲んだ。


「翔馬……聞いてほしいことがある。」


その声に促され、与志野と田野がこれまでの経緯を端的に話す。


翔馬の身体から何かが大量に出ていったこと。


その“何か”が多い死達が言うには亜里野の中の人格で、合計六人が実体化して逃げていったこと。


そして──

誰より信頼し、尊敬していた蒼気先生。

優しかった多い死先生。


その二人が蒼の気を使いこなしていたこと。


話を聞いた翔馬は、唇を震わせた。


「……嘘だろ。」


否定者Fが静かに口を開く。


「嘘じゃないよ。

 むしろ、まだ言ってない“大事なこと”がある。」


無闘も真顔で続ける。


「お前ら……まあ信じられないと思うがよく聞いてくれ。」


翔馬は戸惑いを隠せない。


「……どういうことだよ。」


無闘は指を立て、


「この世界には俺らが存在しているこの下界以外にも別世界がある。」


と、はっきり告げた。


与志野と田野も凍りつく。


翔馬は一歩後ずさった。


「……別世界……?」


否定者Fが深く頷く。


「うん。名前は──

 神界しんかい。」


空気が一瞬にして冷たくなった。


無闘が続ける。


「祝福ってのは元々そっち側のものなんだよ。

 でもこの高校には人間でありながら祝福を扱える奴らが複数いた…俺らはそれを調べてたんだ。」


Fが補足するように言う。


「蒼気先生も、多い死先生も……

 本来の出身は多分こっちじゃない。」


翔馬の心臓が跳ねた。


蒼気先生が……?

多い死先生まで……?


無闘は壁にもたれたまま、淡々と続ける。


「そしてな、

 お前の中にいた人格…

 あれも多分神界由来だ。」


「……は……?」


「この世界で生まれたもんじゃないってことさ。」


翔馬は拳を握る。


信じられない。

そんな話、受け止められるはずがない。


だが無闘は、薄い笑みを浮かべた。


「まぁ信じなくてもいい。

 けど──」


その目は一瞬だけ鋭く光った。


「お前の身に起きることは、これから全部“神界”が絡んでくる。」


否定者Fも息を呑む。


「そして……その中心にいるのは、間違いなく君だよ。」


翔馬は喉が乾くような感覚を覚えながら、震える声で言った。


「……なんで……俺なんだよ。」


無闘は深く息を吐いた。


「それを説明するには──

 まず基本を話さねぇとな。」


工場の空気がさらに重く沈む。


翔馬は拳を握りしめたまま、

その答えを待つしかなかった。


工場の埃が、静かに舞っていた。

無闘は壁から背を離し、ゆっくりと歩み出る。


「祝福ってのはな──

 本来、別世界の神界人だけが使える力なんだ。」


その言葉に、翔馬も与志野も田野も、息を呑む。


否定者Fが指を立てる。


「つまり、この世界の普通の人間には本来、

 絶ッ対に使えない力ってこと。」


無闘は続ける。


「だが──お前らの学校、神界高校には

 人間のはずなのに祝福が“発現した奴”が複数いた。」


翔馬が眉を寄せる。


「じゃあ……俺らはなんで……?」


「それを調べるために、俺らはこの神界高校に潜った。」

無闘は淡々とした口調で言った。


与志野が驚きで声を上げる。


「…潜った……!?お前ら何もんだよ…!」


「そう。全部“調査任務”だ。」

無闘は顎を少し上げる。


Fも補足した。


「私達には“師匠”がいるの。

 神界の……とんでもなく強い人。」


田野がつぶやく。


「師匠……?」


無闘は頷き、拳を軽く握った。


「俺らは祝福こそ使えねぇが、

 幼少期からその師匠に鍛えられてたんだ。」


「蒼の気の使い方、身体能力の開放、

 そして──拳法全般。」


無闘の背後の空気が一瞬だけ震える。


「だから“人間の祝福持ち”くらいなら、

 余裕で潰せる。」


翔馬は息を呑む。


(じゃあやろうと思えば今すぐ俺らを…)


「でも私達だけじゃ解決できない問題が出てきた。」


無闘が真剣な目つきで翔馬たちを見る。


「翔馬。与志野。田野。」


「……?」


「蒼気と多い死。

 あの二人は今──神界人として本気で動いてる。」


空気が張り詰めた。


「このままだと、確実にお前ら狙われる。

 特に翔馬、お前は優先順位“最上位”だ。」


翔馬は拳を握る。


「……それは……俺の中の人格が……神界と関係してるからってことか?」


無闘は無言で頷いた。


Fが静かに言う。


「だから──

 私達と“組まない?”」


翔馬が息を止めた。


「蒼気先生と多い死先生の正体を追う。

 亜里野の人格達を探す。

 そして、この学校で何が起きてるか突き止める。」


無闘は手を差し出した。


「お前らだけじゃ絶対無理だ。

 だが俺らも……師匠も……

 この件は放置できねぇ。」


田野と与志野が、互いに顔を見合わせ──


与志野が深く頷いた。


「……翔馬。俺たちも……協力した方がいいと思う。」


田野も静かに言う。


「俺達だけじゃ……守れねぇ。」


翔馬は俯き……

震える拳をゆっくり握りしめた。


蒼気先生の笑顔が頭をよぎる。

多い死先生の優しい声がよみがえる。


──裏切られた痛みが、胸を刺す。


だが。


「……分かった。」


顔を上げ、無闘をまっすぐ見た。


「協力する。

 一緒にやる。」


無闘がゆっくりと笑う。


「よし。」


Fも小さく拳を握った。


「これで──

 神界と戦う“チーム”の完成だね。」


翔馬の胸の奥で、

静かに、しかし確実に何かが動き始めていた。

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