第22話 連携
フンペチは服に付いた砂を軽く払う。
「与志野音色君……本当に強いです。
ですが誤解しないでください。」
その表情は、いつもと同じ“無”。
「私はまだ《祝福》を使っていません。」
与志野と田野の顔が一気に強張る。
「……は?」
フンペチは両手を見つめるようにゆっくりと上げた。
「本来、戦闘に使う必要がないので……封印していました。
ですが……あなた達は“思った以上”でしたし……」
目線が二人を捕らえる。
「あなた達を殺すため……使用することにします。」
空気が急激に冷え、
まるで世界そのものが縮んでいくような圧迫感が漂う。
与志野は歯を食いしばる。
「何しやがる気だ……!」
フンペチは淡々と告げた。
「私の祝福は——」
両手を胸の前で軽く合わせる。
——パァン。
乾いた音が倉庫に響いた瞬間。
「《delete beatデリート・ビート》」
「触れた物を……“消す”祝福です。」
田野が目を見開く。
「消す……?
“壊す”じゃなくて……“消す”!?」
フンペチは足元の鉄片を両手で軽く叩く。
——パァン。
次の瞬間。
鉄片は跡形もなく消失した。
破片も埃もない。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「っ……!!」
田野の背中に冷たい汗が流れる。
フンペチは一歩前に出た。
「安心してください。
消せるのは私が“両手で挟んで叩いた物”だけです。
無制限に触れる物すべてが消えるわけではありません。」
だが——
次の瞬間。
フンペチは田野の正面に立っていた。
「え…」
「田野!!!避けろ!!!」
パァン!
空気が震え、田野の真横にあった鉄骨の柱が一瞬で消えた。
間一髪でかわした田野は青ざめる。
「やべぇ……今の……当たってたら……
俺の頭……ねぇじゃん……!」
与志野は一歩前に出て、指先を構えて言った。
「チッ……厄介なんてもんじゃねぇ……!」
フンペチの両手は赤くなり、叩く度に空気が波打つ。
「フーン…そろそろ抹殺斗さんが亜里野君を殺した所でしょうか……私も……時間はかけられません。」
両手を構え、ゆっくりと与志野へ歩く。
「……ここで確実に消します。」
田野が叫ぶ。
「与志野!! 下がれ!!
あいつの掌に触れられたら——終わりだ!!」
与志野は腕を構えたまま叫び返す。
「田野!早く俺の指治してくれ!
俺の指……もう《revolver finger》はすぐには使えねぇ……!!」
フンペチは無音で間合いを詰める。
——パァン!
身を翻しフンペチの攻撃を避けるが体勢が崩れる。
「——ッ!!」
フンペチの手刀が迫る。
その狙いは——与志野の右腕。
「あなたの“指”……
消してしまえば、もう戦えませんよね。」
与志野が咄嗟に指を突き出すがフンペチは最小限の動きでそれをかわし、背後に回り込んだ。
「詰みです。」
田野が絶叫する。
「やめろぉおおおッッ!!!」
少女が光の紐を伸ばし、フンペチの腕を掴もうとする——
——パァン!!
光の紐が消えた。
田野の目が絶望に染まる。
「俺の……能力まで……消された……?」
フンペチは冷静に言う。
「ええ。
“形ある物”はすべて対象です。
光でも蒼でも、生成物なら問題ありません。」
与志野の目が揺れる。
(ヤバい……ゼロ距離!!)
フンペチの両手が与志野の前に迫る。
「終わりです。」
追い詰められた与志野と田野。
蒼の気も光の紐も、
フンペチの両手に触れた瞬間消される。
——絶望の距離。
与志野の右手が震え、
田野は壁に追い詰められて立ち上がれない。
フンペチの影が二人を覆った。
絶体絶命。
フンペチの影が、
与志野と田野をゆっくりと覆い尽くしていく。
パァン!
フンペチの両手が空気を捉えた。
「危ね……!!」
体勢を崩した与志野に手刀が迫る。
(……くるッ!!)
与志野は指を構えようとするが——
今の指では蒼の気の集中は間に合わない。
体勢も踏ん張りが効かず力がでない。
田野は叫びながら手を伸ばした。
「与志野ぉおおッ!!」
「……っ!!」
拳が震える。
(与志野が…!消される…!俺が何もできないから…!)
「そんなこと…!!させない!!!」
腹の底からの叫びが倉庫に響いた瞬間。
田野の胸の前で、
ひとつの光が——ふたたび形を成し始めた。
与志野が目を向ける。
フンペチもわずかに眉を動かす。
「……?何の光……」
瞬間。
蒼い少女はフンペチの背後に立っていた。
「!?速い……!」
田野が歯を食いしばる。
「攻撃は出来ないけど…!それ以外なら!」
少女はフンペチが避けるよりも早くフンペチを羽交締めにした。
フンペチは冷静に呟く。
「……なるほど。攻撃は出来ない…案外制限は緩いんですね。ですが……!フン!!」
フンペチが無理矢理拘束を振り解く。
「蒼の気のコントロールを極めれば…身体能力も比例して向上します…この程度訳ありません。」
——田野は動いていた。
「知るかよ!!」
my only girlfriend
再び現れた少女が田野を抱え込み、
瞬間的に高速移動する。
(これ……前より速ぇ……!?
こいつ……俺の気持ちに応えて……
成長してんのかよ……!!)
フンペチが反応し、両手を構える。
「……消します。」
パァン!!
フンペチの両手が、田野と少女を挟もうと迫る。
だが田野は叫ぶ。
「挟ませるかよ!!」
少女が一気に“真横”へ跳んだ。
フンペチの両手は空を切る。
(田野……!!土壇場で進化してんのか……!!)
その隙に与志野は蒼の気を指へ再集中させる。
——バチバチバチ!!
蒼の気が集まっていく。
「俺も…!気張らねえと…!!」
もちろん《revolver finger》ほどじゃない。
だが“通常のthousand finger”を撃つ余裕くらいはできた。
フンペチはすぐに方向を変え、与志野へ迫る。
(この男さえ消してしまえば…!2人の勝ち筋は無くなる!)
「させねぇよ。」
田野が前に立ちふさがった。
「悪手ですね…貴方に……攻撃はできないでしょう。」
フンペチは即座に回り込み田野を捉えた。
「くっっ!!」
パァン!!!
だが消えたのは田野ではなく蒼の気でできた少女だった。
「……!!位置の入れ替え…!?まだそんな技を隠して…!」
与志野は叫ぶ。
「田野! そこどけえええ!!
指ができた!! “撃てる”状態になった!!」
「だよな……! じゃあ——」
田野は息を吸い込み、吠える。
「俺が!! お前の射線を作る!!!」
田野がまた少女を顕現させる、
「my only girlfriend!!!」
少女が田野を抱え、
真っ直ぐフンペチへと突進した。
フンペチが両手を叩く。
パァン!!
消去の掌撃が迫る。
だが消えたのは再び少女。
「——ッ!鬱陶しい……!!」
「与志野!!俺ごと……!!やれぇぇ!!」
少女が田野の身体すら無視するほどの速度で
フンペチの右脇腹へ飛び込む。
フンペチの身体がわずかに傾く。
与志野の視界が開けた。
(今だ……今しかねぇ……!!)
青い光が指に集まり——
「無理でしょう…!この位置から撃てば仲間を巻き込む…!貴方は撃てない!!」
「喰らえッ……!!」
フンペチは気づく。
(両手…じゃない!片方だけに蒼の気が集中している…!)
「shot gun finger!!!!!」
パァン!!!!
特大の蒼の気の指撃がフンペチの左半身へ一発叩きこまれた。
フンペチの身体が横へ吹き飛び、
鉄骨を破壊しながら転がる。
田野も地面に倒れ込むが、
すぐに少女が抱き起こす。
与志野は肩で息をしながら言う。
「危ねえ……!この技覚えて無かったら……!危なかったぞ……!」
田野は血を拭いながら笑った。
「連撃じゃなく正確に狙いを定めて一撃で決める技……!やっぱ…汎用性高いな……!」
粉塵の中。
崩れた鉄骨の奥で、フンペチがゆっくりと身を起こす。
服はさらに破れ、
左肩は蒼の衝撃で砕けている。
「……驚きました。
あなた達……
本当に強いですね。」
その目は、初めて痛みを表す。
だが表情は崩れない。
「……っ……これは……想定以上……」
衣服が破れ、胸元から大量の血があふれた。
フンペチはふらつきながら
最後の力で与志野へ両手を向けようとするが——
フンペチの膝が落ちた。
「……また…抹殺斗さんに……怒られちゃいますね。」
そして、静かに倒れた。
与志野は地面に手をつき、深く息をつく。
田野は痛む腕を押さえながら笑う。
「……勝った……のか……?」
少女が嬉しげにふわりと浮く。
与志野と田野は勝利を噛み締めるように地面に倒れた。
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