第20話 2対1

——扉を抜けた瞬間。


空気が変わった。


体育祭の賑やかな声は完全に遮断され、

まるで世界が切り替わったような静寂が広がっていた。


薄暗い倉庫跡。

壊れた机、折れた鉄骨、錆びついたロッカー。

文化祭のゴミまでもが積まれ、迷路のように入り組んでいる。


田野が息を呑む。


「……なんだよここ……」


与志野は人差し指に蒼を集め、周囲を見渡す。


「静かすぎる……気をつけろ。」


カン……


どこかで小さく金属音がした。


田野は思わず肩を跳ねさせる。


「な、なんだ今の……」


そのとき——


「こっちです。」


声がした。


ゆっくりと影が動き、

フンペチが廃材の山の上から降りてきた。


暗がりの中でも、その目だけは冷たく光を帯びている。


「廃材置き場、気に入っていただけました?

 拷問には……便利ですよ。」


フンペチは軽く顎を引き、構えを取る。


「二人同時でどうぞ。

 私は……面倒くさいのが嫌いなので。」


与志野が一歩前に出た。


「田野、俺が前衛だ。お前は後ろで“彼女”を出して援護しろ。」


田野は深呼吸し、祝福を発動させる。


「——来い、《my only girlfriend》!」


薄い光が集まり、田野の前に少女の姿が顕現した。


フンペチは興味なさそうに目を細める。


「攻撃は出来ない……でしたね。

 サポート系。……面倒ですので、最初に潰します。」


ヒュッ。


フンペチの姿が消えた。


「ッ!?」


与志野が即座に指で防御する。


ガンッ!!


凄まじい衝撃が指先から走り、鉄骨を吹き飛ばすような風圧が巻き起こる。


田野が目を見開く。


「うそ……与志野の指が……押し返された……!?」


与志野も驚愕していた。


(速い……!!

 翔馬ほどじゃねぇが……無駄が一切ねぇ動きだ!!)


フンペチは無表情のまま、埃を払う仕草だけした。


「……まあまあですね。

 ですがあなた……“遅い”です。」


次の瞬間、フンペチが田野の背後にいた。


「田野ッ!!!!」


与志野が叫び、指を振り抜く。


しかしフンペチは最小限の体のひねりでそれを避け、

田野の腹に拳を当てる。


「……蒼の気…まだ使いこなせて無いみたいですね、よかった。」


「ゴッ…ハッッ!!」


ドッ!!


衝撃が走り、田野が鉄くずの山に吹き飛ぶ。


「田野!!」


少女ガールフレンドが即座に田野の身体を抱え、傷を癒そうと光を放つ。


田野は苦痛に顔を歪めながら立ち上がる。


「ちくしょう……!

 与志野、あいつ……機械みてぇな動きだ。」


与志野は蒼を指に凝縮し、構え直す。


「……気をつけろ。

 あいつの動き……視線に“揺れ”がねぇ。

 ずっと俺と田野の両方を見てやがる。」


フンペチは淡々とこちらへ足を進める。


その瞬間、フンペチの姿が完全に消えた。


「来る!」


空気が裂ける。


右から——違う、上から!


いや、後ろから!!


与志野の脳が追いつかないほどの速さ。


しかし与志野の指が、反射的に光った。


——thousand finger!!


無数の蒼が一点に放たれ、フンペチの頬を掠める。


フンペチの顔がかすかに揺れた。


「……っ。」


ほんの僅か、無表情に“ヒビ”が入る。


田野が叫ぶ。


「当たった!!」


与志野は着地しながら息を吐いた。


(こいつ……攻撃の“初動”がほとんどねぇ……

 だが完全に消えてるわけじゃねぇ。

 見える……見えるぞ……!!)


フンペチは自身から流れる血に触れ、うっすらと血を見る。


そして。


「……痛い。」


その声だけは冷たいまま、しかし確実にトーンが変わった。


「では……本当に殺しますね。」


——殺気が爆発した。


倉庫全体の空気が凍りつき、

田野も思わず足がすくむ。


(やべぇ……

 こいつ……さっきまで“遊んでた”じゃねぇか……!!)


フンペチが踏み込む。


与志野が叫んだ。


「田野!!お前は絶対に死ぬな!!

 俺が前に出る!!」


田野は震えながらも笑う。


「当たり前だろ……!

 俺はサポート役なんだ……!

 絶対お前を守る!!」


少女が田野の背中を押し、

与志野は指を蒼く染めた。


フンペチが手刀を構える。


「終わりです。」


その手刀に蒼いオーラが凝縮された。


与志野がそれを見て驚愕する。


「手にオーラを集中…!俺と同じタイプ!?」


「ハズレ。」


鉄くずの山に衝撃が響く。

フンペチの無表情な顔がゆらりと揺れ、次の瞬間にはすでに距離を詰めていた。


「終わりです。」


その一言に、殺気がまとわりつく。


与志野は指先を蒼く染め、全神経を集中させて迎撃する。


ガンッ!!


指と手刀が激突し、倉庫全体に火花が散る。


(くそ……速さが段違いだ……!

 “遊び”は完全に終わったってわけかよ……!!)


田野が蒼の光に包まれた少女とともに後退する。


「与志野……! 無理すんな!」


「無理しねぇと死ぬんだよ!!」


与志野は歯を食いしばり、再び指を構えるが——


フンペチの蹴りが脇腹を捉えた。


「ぐっ……!!」


鉄骨へと吹き飛び、肩口を抉るほどの衝撃が走る。


田野が叫ぶ。


「与志野!!!」


フンペチはゆっくり、無表情のまま歩く。


「つらそうですね。」


その瞬間、与志野の背中に冷たい汗が流れた。


(……マジで殺される……!!)


だが——


田野が前に躍り出た。


「させるかよぉおおぉッッ!!」


少女が田野の横に並び、光の壁を張る。


フンペチは一切の表情変化なく、手刀をそのまま振り下ろした。


バキィィッ!!


光の壁が砕け、田野の身体が浮く。


「痛っ!!」


壁に叩きつけられ、口から血を吐く。


それでも田野は立ち上がる。


「俺が……時間を稼ぐ……

 お前は——やれ与志野……!」


与志野はその声に、奥歯を強く噛みしめた。


(こうなったら……!あれをやるしかねえ!!)


与志野の目に蒼きオーラが宿った。

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