第19話 蒼の気の本質

——体育祭の校庭。


声援が飛び交い、リレーの選手たちが全力で走っている。


「うわー速ぇー!あいつらやべえなー!」


エルサはリレーを見ながら仲間と話していた。

別の場所で起こっている死闘を知る由もなく。


「そういえば翔馬達どこ行ったんだ?」


だがクラスメイトは興味なさげに言った。


「さあ?トイレじゃね?」


「トイレ……3人同時に?まあ待ってれば来るか…」


————


校庭の歓声は遠い。

ここだけ別の世界——静かすぎるほど静かだった。


抹殺斗は軽く首を回しながら言う。


「さて、お前らの無意味な修行の成果.....見せてもらおうか?」


翔馬は一歩前へ出た。


「無意味かどうか…試してみろよ。」


フンペチも肩を鳴らす。


「あなたたち二人は……邪魔ですので……先に処理しますね……」


与志野と田野が拳を握る。


「ふざけんな……舐めやがって。」


フンペチが顎を少し前に出し、構えを取った。


「では……廃材置き場へ、移動しましょう……?

 ここだと観客に血が飛びます。」


フンペチは奥にある扉を開け姿を消した。


「観客…?」


与志野は戸惑う田野に目線を送る。


「……行くぞ。」


田野は一呼吸して頷いた。


「うん……やるしかねぇ!!」


田野が翔馬の方に顔を向ける。


「翔馬!死ぬなよ!」


二人は扉へ飛び込み、姿を消した。


——残されたのは翔馬と抹殺斗。


抹殺斗が肩を回しながら言う。


「邪魔者はいなくなった。やるか。」


翔馬は息を吸い——構える。


(やる……!)


抹殺斗は姿勢一つ変えず、ただ淡々と告げた。


「——死ぬ覚悟はあるよな?」


翔馬はゆっくり首を振った。


「ない。」


抹殺斗が目を細める。


「……ほう。」


翔馬は続けた。


「死なずにお前を倒す!その為の二ヶ月だ!!」


抹殺斗の口元が笑ったように震えた。


「滑稽だな、亜里野翔馬。」


そして次の瞬間。


地面がえぐれた。


抹殺斗が“無動作”で踏み込んだのだ。


「ウッ!」


翔馬は辛うじて身を引く。


(速……!)


抹殺斗の拳が翔馬の喉元をかすめる。


一発で殺すつもりの軌道。


(こいつも肉体系の祝福か!なら!)


「double step」


翔馬は蒼い気を瞬時に解き放ち、足に集中させる。


「はぁぁぁああああッ!!」


蒼い閃光が走り、翔馬の身体が抹殺斗へぶつかる。


衝撃が空を裂いた。


抹殺斗は腕一本で受けながら、目を細めた。


「蒼の気……前よりはマシになったな。」


翔馬は足を滑らせながら距離を取る。


「二ヶ月……あんたを倒すためだけに使った。」


抹殺斗は肩を軽く叩く。


「せっかく二ヶ月も待ったんだ…少し遊ぼう。」


翔馬は拳を握る。


(ダメージ無しか…!)


翔馬と抹殺斗が向かい合う。


「さっきの踏み込み……前より速かったな。

 二ヶ月でそこまで変わるとは思わなかった。」


翔馬は足を軽く叩く。


「これのおかげだ……!」


蒼い線が、翔馬の足元に走った。


——シュッ!!


空気がえぐれる音。

翔馬の体が“分裂したように”見えた。


抹殺斗が目を細める。


「……常時発動か。double stepダブルステップ。」


翔馬は残像を残しながら、平然と立っている。


「お前を倒す為の…力だ!」


その言葉が終わると同時に——翔馬が消えた。


ダンッ!!


砂埃が爆ぜる。


抹殺斗の目の前に翔馬が出現し、拳を叩き込んだ。


「——ッ!!」


拳が確実に抹殺斗の胸を捉えた。

だが、次の瞬間。


ガギン!!


硬い金属を殴ったような衝撃が走り、翔馬の拳が弾かれた。


(……硬っ……痛え!?)


抹殺斗は微動だにしない。


「悪いな。お前の攻撃など容易に読める。」


抹殺斗の胸元に、蒼い“装甲”が浮かんでいる。

まるで拳が当たる一点だけが、蒼の気で固められているように見えた。


翔馬が息を飲む。


「蒼の気を……一点に集中!?」


抹殺斗は無感情のまま説明する。


「蒼の気はただのエネルギーじゃない。

 “密度”を変えれば、鎧にもなる。」


「なっ…!?」


「やれやれ…二ヶ月特訓してまだ蒼の気をエネルギーやオーラとしか見れないとは…才能無しだな。」


翔馬の拳が当たる“直前”。

その一点に蒼が凝縮され、最硬の壁になる。


「攻撃される瞬間に分かれば……守るのは簡単だ。」


翔馬は反射的にステップで後退する。


(常時ダブルステップでも……読まれてる!?)


抹殺斗が静かに歩み寄る。


「お前の動きは速い。

 だが……速いだけの線の動きは“軌道が素直”なんだよ。」


翔馬は歯を食いしばり、即座に動く。


(なら——軌道を読ませなければいい!!)


再びダブルステップ——

今度は“弾丸のようなジグザグ”。


砂が舞い、抹殺斗の視界が揺れる。


一瞬、抹殺斗の瞳がわずかに細くなる。


(速い……さっきよりさらに速い……)


翔馬が背後を取った。


「入るッ!!」


拳が抹殺斗の後頭部へ直撃する——その瞬間。


バチィッ!!


またも金属のような硬音。


抹殺斗は背中の一点に蒼を集中させていた。


「言っただろ。読んでる。」


翔馬が舌打ちする。


(くそ……!ダメだ!)


抹殺斗は腕を軽く振りながら言った。


「お前の攻撃は全部“直線”。

 ステップは速くても、癖は変わらない。」


翔馬は呼吸を乱しながら、それでも拳を握る。


(速さだけじゃ……勝てないのか……!

 ダブルステップだけじゃ、抹殺斗の防御を抜けない!!)


抹殺斗が歩を進める。


その足音だけで、翔馬の背中に寒気が走る。


「よくその程度でYOU diedに勝てたもんだな亜里野。」


翔馬は震えている拳を見下ろした。


(何とか…あいつの祝福の能力が分かれば……!)


「…ッ!まだだっ!」


蒼の気が翔馬の足から噴き出した。


抹殺斗の足が止まる。


翔馬は地面を叩き割る勢いで踏み込み——


再び——翔馬が消えた。


抹殺斗の瞳が初めて、大きく開かれた。


(さっきより速い……!!)


翔馬の姿が完全に読めない。


抹殺斗が静かに拳を構える。


「なるほど、こっからって訳だ……」


翔馬の残像が三つ、四つと増えてゆき——

その全てが実体を持ったように抹殺斗へ迫る。


風が裂け、地面が削れ、砂が舞う。


抹殺斗は微動だにせず、その中心に立ったまま呟く。


「……速度そのものが別物だな。」


見えていないのではない。

ただ——追えても間に合わない。


シュッ!!

抹殺斗の頬を翔馬の拳がかすった。


接近戦。


「オラァ!!!」


——しかし。


抹殺斗の胸・背中・顎・腹。

拳が届く瞬間、全て“一点”だけが青白く輝く。


ガギン!! ガギンッ!!


重い金属の音が連続し、翔馬の身体が痺れる。


(……全部……読まれてる!!

 攻撃が届く“瞬間”だけ、蒼の気が一点に集中して壁ができる!)


抹殺斗の目が光る。


「強化じゃない。“凝縮”だ。

 お前みたいに全身に薄く蒼を纏っても意味がない。」


一点に防御を極限集中し、攻撃を無効化する。


翔馬は息を乱しながらもステップを続ける。


「なら……全部の方向から攻撃する!!」


翔馬が周囲に分身のような残像を撒き散らし——

全方向から抹殺斗へ突っ込む。


「はぁああああッッ!!」


抹殺斗は一歩も動かない。


「無駄だ。」


四方八方、六方向からの拳が同時に入る——


ガギン! ガギン!! ガギン!!!


全て、防がれた。


(同時攻撃すら……読まれてる!?

 全部見えてるってことかよ……!!)


「——そろそろこっちから仕掛けるぞ?」


抹殺斗が静かに右腕を振る。


その軌道はただの横薙ぎ。


しかし——


ドッ!!


見えない衝撃波のように風圧が走り、翔馬が吹き飛ぶ。


「ぐっ……!」


翔馬は地面を滑り、砂埃を巻き上げながら体勢を立て直した。


「まだやれるよな、亜里野。」


「…!当たり前だ!」


抹殺斗の殺気の桁が変わった。


「では、続けようか。」

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