第6話 文化祭、開戦。

神界高校の校庭に、朝の日差しが差し込む。

 色とりどりのテントが並び、甘い匂いや笑い声がそこかしこから立ち昇っていた。

 文化祭が、ついに始まったのだ。


「……始まっちまったな」

 翔馬は人混みを見渡しながら小さくつぶやく。


「気ぃ抜くなよ翔馬。今日が“奴ら”の本命だ」

 与志野が真剣な顔で応じた。


 田野は文化祭パンフを持ちながら、ため息をつく。

「せっかくの文化祭なのに……俺たち、観に行けないなぁ」


「安全第一だよ。一般人が巻き込まれたら終わりだからな」

 翔馬は田野の肩を軽く叩いた。


 ――文化祭を守る。

 その一点のために、3人は朝から極度の緊張の中にいた。




 人気の少ない校舎裏――物資倉庫の影。

 普段は誰も来ないこの場所を、3人は戦闘の際の“待機地点”に選んでいた。


「ここなら一般の人は来ねぇ。やるならここだ」

「うん、ここなら俺も全力でやれる……!」

 与志野が拳を握る。


刹那。


倉庫の影が揺れた。


 緊張が場を締めつける。

 だが同時に、風が妙に静かだった。


「――来るぞ」


 翔馬の耳に、地面の“ざらっ”という微細な振動が届いた。

 その直後。


バシュッ


 地面が盛り上がり、“黒い影”が穴を食い破るように飛び出した。


「サメ...!」


 地面を泳ぐサメたちが、獲物を見つけたように一斉に口を開く。

 その奥から、長い影がぬっと姿を現す。


「敵さんのお出ましか...!」


「その感じ...やっぱ仲間にはなってくれないよね〜」


「だからあの時に殺しておくべきだったんだ。やはりYOU died様は甘い...」

 腕を組みながら、左・腕さわん が薄く笑う。


「今ならまだ間に合うぞ?YOU died様に忠誠を誓え。」


田野も薄ら笑みを浮かべながら答える。

「よく言うよ、1ヶ月前あんなにコテンパンにしてくれちゃった癖に」


翔馬も続けて言う。

「一般人の事をなんとも思ってない奴の下には付きたくないな。」


「せっかくYOU died様が一ヶ月もくれたのに...もういいや、死んで。」


サメが前に出る。


 次の瞬間――

 翔馬の左腕が“勝手に”跳ね上がった。


「っ……!! 勝手に、動く……!」


「馬鹿が。私の範囲に入った時点で詰みだ。」


「しまった...!」

「あいつ...思ったより範囲広いぞ!」

 にやりと笑ったサメが指を鳴らすと、

 サメたちが地面へ潜り、3人を包囲するように陣を描いた。


「与志野! 四方から来るぞ!」


「分かってる! だけど……腕が上手く使えねぇ!」


 与志野も左腕の制御を奪われ、蒼閃の構えが崩れる。

「my Only girlfriend!」

 田野は少女を顕現させ、必死に翔馬の肩を支える。

「回復はできるけど……この拘束、解除できない……!」


「――逃がさない」

 左腕が静かに言い放つ。


 完全包囲。

 左腕の自由を奪われたまま、サメの群れが地中から飛び出してくる。


 翔馬は奥歯を強く噛み――

「……だったら、右腕だけで突破する!」


 力を溜めた瞬間、彼の足元が蒼光を帯びる。


「double step――!」


 翔馬の姿が掻き消えた。

 地面が抉れ、風が弾ける。

 サメの牙が空を噛んだ。


「なに……っ!?」


 左腕が驚きの声を漏らす。


 左腕を完全に封じられた状態で、

翔馬は“右側だけ”の加速で彼らの包囲を抜けたのだ。


 そのまま翔馬は速度のまま与志野を引き寄せ、狭い空間を強引に突破する。


「田野! 俺たちのすぐ後ろへ来い!」


「う、うん!!」


「俺の範囲から抜けるつもりか!」

左腕が翔馬を追う。


「無駄でしょ、私からは逃げられない。」


 瞬間サメたちが地面から再び飛び上がり、倉庫裏は戦場へと変わった。


「やってやる...!」


一時的にだが左腕の範囲を外れた与志野が構える。


 文化祭の喧騒など、もう聞こえない。

 始まったのは――

 神界高校を賭けた“本気の戦い”だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る