第5話 文化祭準備
時刻は19時。
部活動が終わり、生徒たちの姿が消えた神界高校。
外灯が体育館のガラス窓をぼんやり照らし、薄暗い影を伸ばしていた。
その体育館の中で、三つの影が潜んでいる。
「本当にあの時、殺さなくてよかったんですか?
あいつら……全然うちらに付く気なかったっすよ。」
サメが影の中から顔を出したサメを撫でながら言う。
YOU diedはつまらなそうに笑った。
「いいんだよ。あいつらの祝福、まだ未完成だ。
蒼の気の扱いなんて概念レベルでしか理解してない。
今殺すより、使えるコマに育てた方が得だ。」
言葉の最後に、YOU diedはニヤリと笑った。
「抹殺斗……。コマが揃ったら真っ先にお前を潰してやるよ……ククク」
その不気味な笑い声は暗い体育館に響き渡った。
だがその声を、屋上の手すりにもたれた“男”が冷めた目で聞いていた。
「馬鹿が……YOU died。
だからお前は蒼の気すらまともに扱えねぇんだよ。」
つぶやくと、男はスタスタと校舎の中へ消えた。
⸻
2日後。
神界高校から自転車で15分ほどの総合病院。
入口に翔馬と与志野の2人が立っていた。
「行くぞ、与志野」
「ああ」
2人は受付を済ませ、田野のいる103号室へ向かった。
部屋に入ると、ベッドで起き上がっている田野が、弱々しく笑った。
「よお、亜里野……与志野……来てくれたんだな。」
ほぼ全身に包帯。
見るだけで胸が締め付けられる姿だった。
「ひでぇなこれ……ここまでやるかよ……」
翔馬はお見舞いを差し出しながら、申し訳なさそうにつぶやいた。
「悪かった、田野。
お前がこんな目に遭ってる時に助けに行けなかった。」
すると田野は、明るく笑う。
「ははっ、気にすんなよ。
それに、こんな傷……治そうと思えば治るから。」
与志野が目を丸くする。
「治せる? どうやってだよ?」
田野は笑って手をかざした。
「まだ見せてなかったな。俺の祝福――」
田野の背後に青白い光が集まり、一人の少女が現れる。
「my only girlfriend(俺だけの彼女)」
驚愕する2人。
少女が包帯にそっと触れた瞬間――
じんわりと光が広がり、包帯の下の傷がみるみる塞がっていく。
「俺をサポートする“彼女”さ。物を運んだり、守ったり、治したり。
攻撃はできないけどな。けっこう便利だろ?」
翔馬が聞く。
「便利だけど……なんで入院してすぐ治さなかったんだ?」
「重症すぎると、自分を治せないんだよ。
意識が飛んでる状態じゃ、発動が安定しなくてね。」
なるほど、と2人が頷いたところで――
「っておい亜里野!!
お前これ見舞いの品……料理用のラップじゃねぇか!!」
田野がツッコみ、与志野が額を押さえる。
「翔馬……プレゼントのセンス、まだダメなのかよ……」
「悪い……便利かなって……」
「 便利だけどそうじゃないんだよ!!」
病室に、久しぶりに明るい声が響いた。
笑いが一段落すると、田野は表情を引き締めた。
「さて……本題だ。」
翔馬と与志野も、自然と背筋を伸ばす。
「YOU died一派の祝福についてだ。」
2人は息を飲んだ。
「サメの「shark」は案外脆そうだし肉体系のお前らなら何とかなるだろ、問題は左・腕だな。あいつの祝福...詳細は分かんないけど近づくと左腕の自由を奪われる、結構厄介だ。」
与志野が身を乗り出す。
「一番やばいのはYOUdiedだろ。あいつ変な空間から色んな武器出してたぞ」
田野は重たい顔つきで言った。
「YOUdied達もあるが...問題は他の何野四天王に勘付かれて漁夫の利を狙われる可能性だ。」
病室の空気が変わる。
与志野が低く問う。
「前言ってた3人か...確か抹殺斗に否定者F?ってのに無闘って奴ら。」
田野はうなずいた。
「YOUdied一派だけなら1ヶ月猶予があるなら勝ちの目はあるかもだけど...あいつらが出てきたらかなりやばい。」
翔馬は拳を固く握った。
「なら……あいつらに勘付かれないようにこっそり倒すしかねぇな。」
田野は小さく笑う。
「だな、ほぼ不可能だけど。」
「それでもやるしかねえ。」
翔馬の声は震えていなかった。
与志野も静かに立ち上がる。
「文化祭まであと28日。
死ぬ気で鍛えるぞ。」
病室の窓から、夕暮れの光が差し込む。
その光の中で、三人の決意は静かに、しかし確実に燃え始めていた。
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