第2話 男子は外でフットボールです。
子育てというよりは飼育といったほうが良さそうな生活がしばらく続いた。
洞窟の中はずっと薄暗いだけなので一日の区切りは分からない。何日経ったのか全くの不明で、数週間のように思えるが、数年間かもしれない。だいぶ身体が大きくなった気がするが、それよりも大きな変化は睡眠時間である。エサ以外はほとんど寝ていた幼児期とは違い、ある程度の時間は起きていられるようになった。薄暗い洞窟には昼夜の区別はないのに、何故か子供たちの睡眠時間と起床時間は同期している。エサを持ってくる大人とも同じリズムのようだ。おぉ、成長したのだなと実感する。
ある日、子供たちが洞窟の外に連れ出された。
連れて行かれた先には小屋があり、中には机と椅子が並んでいた。
「みなさん、小学校入学おめでとうございます」
一匹の大人がそう言った。
言葉あったのか! 何故か通じるし。
寝床では何も話していなかった兄弟も、少し驚いたような顔をしつつ、大人の言葉を理解したようだ。皆が先生を真似てブヒブヒ言い始めたが、次第に言葉になっていく。オレも始めて言葉を口にした。それをキッカケに、脳内にあった鍵付き宝箱がパカッと開いたような気がする。ゆっくりと異世界共通語が脳に染み渡っていく。
おぉ、さすがは異世界ファンタジー。転生の女神様、良くわかっているねぇ。
これがSNSなら、いいねボタンを連打したいところだ。
くっころで最も重要なのは『言葉責め』である。(オレ調べ)
西洋料理のフルコースで例えるなら、それはメインディッシュまでの前菜であり、スープであり、魚料理などである。メインの価値を疑う余地は無いが、くっころの最終的な決着は『堕ち』であり、本質的にどうしても類似してしまう。そのため、コース全体としての『個性豊かな味わい』を生み出すには、そこに至るまでの演出の組み立ての重要性が極めて高くなるのだ。
メインに至るまでの、シェフによる高度に計算された『味わい』の組み立て。
丁寧に幾層もの『希望』と『挫折』を積み重ねる、職人芸の極地。
そこで絶対に欠かせないのが、異世界共通語である。
単に、姫騎士が猛獣に襲われるのであれば、それは単なる悲劇でしかない。
オークが異世界共通語を話し、意思疎通が可能である。これは交渉が可能になるかもしれないという『希望』を生む。その希望に光を灯して十分に盛り上げてから、『挫折』をじっくりと味わってもらう。安易に『絶望』に至らぬように最新の注意が必要だ。姫騎士の高貴な精神は、美しいが折れやすい。メインディッシュに至る前に折ってしまっては台無しである。
そして、オレには自信がある。
前世はくっころマイスターであり、膨大な薄い本の恩恵により、幾万の『言葉責め』のレパートリーを持っている。参考にさせて頂いた諸先生方は、残念ながら地球ではその技術を実践する機会は無かった。僭越ながら、その意思を受け継ぎ、オレがこの異世界で実現する。前世の薄い本の山に誓った。
オレは、いつか実現する究極のくっころと、至高の言葉責めの予感に浸っていた。
「男子はフットボールをするからグラウンドに出てください」
先生の言葉に、子分を連れて外に出ようとしたら、止められてしまった。
「あなたは残らないとダメでしょ」
え、なんで? オレ、男の子だよ。おちんちんあるし。
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