第13話
村人はびっくりして動きを止めた。よしよし。そこから俺は軽やかに『スウィングしなけりゃ意味がない』を吹き始めた。最初、村人たちは叫ぶのをやめて、じっとしているだけだった。しかし曲が進むにつれて徐々に体を揺らし始めた。
(そうだ。踊れ踊れ。スウィングしなけりゃ意味がないぜ)
村人たちの体の揺れは大きくなっていった。手足を音に乗せて振ったり上げ下げしたり、やがて村人全員が俺のサックスの前に集まってきて踊りだした。皆の顔から恐怖の強張りが消えていくのがわかった。
いい感じだ。村人たちから陰鬱とした空気が消えていった。頬は紅潮し、生気がみなぎり始めた。もう十分か。手応えを感じた俺は、パラパラパラと花びらが舞うように賑やかに曲を終わらせた。
ヒュー、パチパチ、いいぞー!
曲が終わると同時に歓声と拍手が上がった。村人たちが俺に向かって手を振っていた。なかなかいいライブだったぜ。俺は手を上げて歓声に応えた。
「はい!」
パチンッ! とフラウが手を叩いた。結構大きな音がして、俺と村人たちは怒られたのかと思って一斉にビクッとした。
「みんな、正気に戻った!?」
あ、そうだった。村人たちを正気に戻すのが目的だったんだ。ライブの盛り上がりに気をよくしてそのことを忘れていた。恥ず。
「はっ! わしらは一体なにを……」
村人たちは正気を取り戻した。もう阿鼻叫喚しなくなっていた。ただ、少し前の記憶が消えてしまったのだろうか、今自分たちがどんな状況に置かれているのかわからないといった様子でオロオロしていた。
パチンっ! とフラウがもう一度大きく手を叩いた。
「はい! オロオロしない! エノ村の皆さん、一体なにがあったんですか?」
フラウが尋ねると、村人たちは何かを思い出した人から順にボソボソと話し始めた。
「え、と。確か、村が魔物に襲われて……」
「いきなり大吹雪になって……」
「わしら、村から出ようとしたんじゃが、なんだか頭がボーっとなって……」
「気がついたら、今……」
魔物に襲われたのか。俺は破壊された村を見回した。氷漬けの崩れた建物がいくつも並んでいた。その向こうは吹雪に覆われていた。元々なにがあったのか、見当もつかないほど雪に埋もれていた。
「村中が雪まみれなのは、魔物のせい?」
フラウは憎しみと悔しさの入り混じった顔で唇を噛んでいた。
「おそらく、冬の魔物……」
そのフラウの苦悩の表情は、自分の村が魔物に襲われたことを打ち明けた時の表情に似ていた。俺はハッとした。
「ひょっとして……」
俺はエノ村を襲った魔物がフラウの村を襲った魔物と同じではないかと思った。同じような惨状を目の当たりにして、フラウは胸を痛めたのではないかと思った。
俺の知りたいことを察知したのか、フラウは俺が尋ねるより早く首を振った。
「いいえ。私の村を襲ったのは夏の魔物。エノ村を襲った冬の魔物とは別よ」
ええ? マジで!? 俺は愕然とした。
「村ひとつブッ壊す魔物が何匹もいるの!?」
あ、そこを驚くんだ、とフラウは話の腰を折られて不満を抱いた顔を見せた。
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