第10話
朝、俺は脇腹に強烈な痛みを感じて目が覚めた。
「死の森で、よくそんなに寝てられるわね」
脇腹にフラウのキックがめり込んでいた。
「痛い! なにすんだよ!」
「朝よ。出発するわよ」
フラウの顔が緊張で鋭くなっていた。ボランゴの死臭はだいぶ薄まっていた。そろそろここも危険な死の森へと戻るようだ。
「背の低い葉についた朝つゆをこの水筒に集めて」
大木の根元に群生する笹のような葉の裏側を見ると大粒の朝つゆが群れになってついていた。笹の葉の先端を水筒の口に向けそのまま葉を揺するとするすると朝つゆが水筒の中に入っていった。
二つの水筒を朝つゆでいっぱいにすると、フラウと俺は昨日目指していた湖があると思われる方面へ向かって歩き始めた。ほどなく歩くと木々がひらけて湖が現れた。
「でっかい湖」
海のように大きな湖だった。紫色の水草が湖面に群生しているのが不気味だったが、水の色は普通だった。
「歩き疲れたから水に素足を浸したい」
とフラウにお願いするも、フラウに鼻で笑われた。
「あなたって本当に危機管理能力がないわね」
バカにするなよ、と食ってかかろうとしたが、しっ! とフラウがクチビルに人差し指を当てて俺に沈黙を命令した。その迫力に黙っていると、フラウはポーチの中からひとかけらの肉片を取り出した。
「なにその肉?」
「ボランゴの肉よ」
そうか。旅の道中の食料としてだな。切り分けて持っていくなら手伝ったのに。てか、俺の分はあるのかな? 俺は渡されていないけど。
などと考えを巡らせている俺の目の前で、フラウはボランゴの肉片を湖へと投げ捨てた。
「な!」
驚く俺を尻目に肉片は宙を舞い、湖へと着水した。
「貴重な食料を! 捨てるなら俺に食べさせろ!」
俺が怒鳴るとフラウはニヤッと笑った。
「あれを見ても食べたいなら、どうぞ」
肉片が着水したあたりから、いきなり大きなワニのような魔物が垂直にジャンプした。ボランゴの肉片に食いついたんだと想像できた。
「なに! あいつ!」
「大型水棲魔物、パラニアよ」
その迫力に俺はなにも言えなかった。
「死の森の中にある湖が普通の湖だと思わないで」
俺はゾッとした。なにも知らずに湖に素足を浸していたらどうだったろうか? 瞬間にバクっといかれて終わっていただろうな。しかし、それを教えるのも言葉で教えればいいのに、俺に恐怖を覚えさせるために貴重な食料を投げ捨てるなんて、フラウも案外イジワルだ。などと思っていると、パラニアが飛び出し着水したあとの波打つ湖面に、パラニアが腹を見せて浮いてきた。
「え? なんで?」
「ボランゴの肉には毒があるのよ」
死臭はひどいし、毒はあるし、ボランゴって最悪だ。
フラウは俺に肉片を見せながら聞いてきた。
「いる?」
「いらないよ」
フラウはニヤッと笑って、肉片をポーチにしまった。
「ちなみに、ボランゴの肉は触ると痺れるから気をつけてね。私は慣れているから大丈夫だけど」
俺はまたもフラウの逞しさに恐れを抱いた。昨夜のあの優しい笑顔は幻だったのだろうか。
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