第7話
「クッ!」
痛みに耐えながらエルフは広く傷口に薬草を塗り込んだ。フーッ、と大きく息を吐いてからエルフはポーチから手拭いのような布を取り出して傷口を覆うようにして体に巻きつけた。
ひと通りの治療を終えたのか、エルフはだらんと脱力した。ひどく汗をかいていた。
「大丈夫?」
俺の声かけにエルフは苦しそうな顔でニヤッと笑った。
「さっきの、音の攻撃? ……カッコ良かったよ」
「ご、ごめん。俺のせいで、脇腹……」
アハハとエルフは笑った。
「ボランゴごときにやられるなんて、情けないところを見せちゃったね。かすり傷で薬草を塗ったから、すぐ治るよ」
なんて強くたくましい人だ。エルフの態度を見て、一瞬でも異世界に転生して無双してやるぜ、なんて浮かれていた俺が恥ずかしかった。先ほどのボランゴの猛攻を思い出して怖くて手足が震え出した。これはリアルだ。小説じゃない。この世界は命の危険を感じずに生きられる日本とはまるで違うのだ。
「ねえ?」
エルフが俺に話しかけてきた。
「なに?」
「あなたって、違う世界から来たの?」
「えっと、日本ってわかる?」
エルフはわからないと首を振った。
「じゃあ、たぶん違う世界から来たのだと思う」
俺は簡単に事故に遭って気がついたらここにいたことを話した。
「どうりで、そんな軽装で死の森を歩いているわけだ」
エルフは呆れたように笑った。エルフの顔を見ると血色がかなりよくなっていた。良かった。と思うと同時に薬草すげーと感心した。
「どうしてこの森を死の森って呼ぶの?」
俺はエルフに尋ねた。エルフは笑い出した。
「どうしてって、死の森は死の森だからよ」
「死の森に入った人間は死んじゃうってこと?」
「そうね」
エルフはボランゴの死体に目をやった。
「あんなのよりもっと強い魔物がこの森の中にはいるからね」
あの、大型トラック並みの迫力で襲いかかってくるボランゴより強い魔物がいる。俺は唾をゴクリと飲み込んだ。
「俺は転送されて、わけもわからず死の森にいるわけだけど、君はどうしてそんな危険な死の森に来たの?」
「フラウ」
「はい?」
「私の名前、カヒミ・フラウ。フラウって呼んで」
フラウは俺に右手を差し出してきた。俺は戸惑いながら手を握り返した。
「あなたの名前は?」
「速水タダシ。みんなにはタダシって呼ばれている」
「よろしく。タダシ」
「よろしく。フラウ」
フラウは笑った。
「よかった」
「なにが?」
「日本にも握手っていう挨拶があって」
「それはこっちのセリフだよ」
俺とフラウは二人して笑った。
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