6. 一番星の侵食――ナツミ先輩の「見えない誰か」への献身

「……部長? ナツミ先輩が、部長じゃないんですか?」

 思わず聞き返すと、先輩は少しだけ困ったように眉を下げた。


「私は副部長。部長は三年の佐竹竜也(さたけ・たつや)先輩よ。もうすぐ来ると思うわ」


“部長”――佐竹竜也。

 聞いたこともないその名前が、私の理想の星座を侵食するように居座った。


 私の知らない、ナツミ先輩の「上」にいる誰か。

 先輩にこれほどの苦労をさせ、自分は重役出勤、得体の知れない存在。

 その小さなざわつきを無理やり飲み込もうとした、その時だった。


 開け放たれたままの扉の向こう、廊下の静寂が不自然に途切れた。

 規則正しい、けれど重力さえ感じさせないほど軽やかな足音。

 逆光に縁取られた入り口に、一人の少女が立っていた。


 私とは正反対の、静謐せいひつな空気をまとった、その姿。

 春の風が彼女の背後から吹き込み、部室の空気を一気に塗り替えていく。


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