5. 廃部の境界線――女神が縋る、惨めな看板

 聞き返した私の予感は、先輩の視線の先――がらんとした部室の風景によって裏付けられた。

 四階の片隅に追いやられたこの部室には、私たちの他には誰もいない。

 窓際に並ぶ古い星図は端が丸まり、棚に押し込まれた専門書も、主を失ったかのように沈黙している。


「新入部員が一人も確保できなければ、この学期で天文部は廃部にする。……生徒会から、そう最終通告を受けていたのよ」

「廃部……嘘だろ」


 イサムが、絞り出すような声を上げた。

 あの自信満々だった肩が、一瞬で強張るのがわかる。


「もし今日、誰も来なければ、私、放課後の校門まで勧誘に行くつもりだったの。この看板を持ってね」


 先輩が壁際を指差す。

 そこには、手書きで『星が好きな人、募集』と書かれた、どこか悲痛なほど健気な立て看板が置かれていた。


 あのナツミ先輩が、あんな安っぽい看板を抱えて、無関心な生徒たちの波に晒される?

 想像しただけで、心臓の奥が冷たい怒りで燃え上がった。


「そんなの、ナツミ先輩にさせるわけにいかねぇ!」

 隣でイサムが机を叩いた。

 その瞳には、彼特有の、単純で真っ直ぐな執着が炎となって宿っている。


「チラシ配りでもなんでも、俺が行きます。勧誘なら俺に任せてください。先輩を、あんな外野の目に晒すなんて、絶対にさせない」

 イサムの献身ぶりは、滑稽なほど必死だった。

 だが、それがナツミ先輩に対する彼の、そして私の、共通の忠誠心でもあった。


「ふふ、頼もしいわね。ありがとう、イサムくん。――きっと、部長も喜ぶわ」

 先輩は柔らかく微笑み、イサムの無骨な手をそっと包み込んだ。


 その光景に、胸の奥がチクリと疼く。

 だが、それ以上に私の意識を捉えたのは、先輩の口からこぼれた聞き慣れない単語だった。



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